日本生命 統合報告書 2022 menu

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はじめに

昨年度は、新型コロナウイルス感染症の感染者数が増加と減少を繰り返す中で、世の中の動きは、経済活動や私たちの生活に大きな影響と変化をもたらしました。まさに今こそ、「お客様への保障責任を全うする」という生命保険会社の責務を果たし、お客様への信頼に応えるときである、と認識しております。

当社は、引き続き、当感染症を原因とする死亡や、医療機関の事情により自宅等で治療を受けられた場合等について保険金・給付金の支払対象を拡大するとともに、緊急事態宣言の発令等に応じて保険料払込猶予期間の延長等の「保険契約等の特別取り扱い」を適宜実施しています。また、給付金請求等の各種手続きについては、お客様のご要望に応じ、スマートフォンアプリをご案内する等、感染防止に留意したうえで、お客様の状況やお気持ちに寄り添えるよう、さまざまな対応に努めております。

さらに、2022年1月以降、新型コロナウイルス感染症の感染者数が急激に増加したことによる給付金請求の大幅増加に対応するため、支払事務担当者を増員する等、迅速なお支払いに向けた体制を強化しました。

当社は、130年以上にわたり、お客様に安心・安全という価値を提供してきました。お客様からのご要望だけでなく、このような社会の変化に応じ、全ての人の安心・安全な人生をサポートすべく、今後も全力を尽くしてまいります。

環境認識と日本生命の使命

人生100年時代における安心・安全の提供をテーマに、長く健康に生活できる社会づくりを支える商品・サービスの開発を進め、それらを、営業職員を始めとしたあらゆるチャネルでお客様にお届けすることが使命であり、その流れはますます強まっています。

コロナ禍の影響を受けた業績は、コロナ禍前水準に回復しつつありますが、未だ回復途上です。ただ、当社では、対面とデジタルの融合に向けたお客様対応インフラを整え、営業職員はそのデジタルツールを使いこなそうと努力しています。

お客様にサービスをお届けするという使命感は、将来の成長、つまり、よりお客様が広がるための希望の灯りだと思っています。

お客様にとって、より安心して暮らせる未来を創り、その未来を支え続けること。そのために私たちは、全ての人々へ安心を提供し、健康で長生きをする社会づくりをリードし、持続性ある社会づくりに貢献してまいります。

お客様と社会をつなぎ、今日よりもっといい未来を創っていくこと。これが、私たち日本生命の使命です。

中期経営計画1年目の振り返りと今後の取り組み

昨年度スタートした、中期経営計画「Going Beyond -超えて、その先へ-」では、変化を積極的に取り込み、成長と進化への道筋を確かなものにすることを目指し、お客様数拡大を通じた“生産の早期回復・向上”と“収益力・健全性の向上”を目標に掲げています。

そのために、お客様本位の業務運営とサステナビリティ経営を事業運営の根幹に据え、国内保険市場の深耕、グループ事業の強化・多角化、運用力強化・事業費効率化という、三つの成長戦略を推進することにより、計画を達成し、中長期ビジョンである、成長し続ける事業基盤を作り、揺るぎないマーケットリーダーに成ることに、また一歩近づきたいと思います。

これまでも当社はトップに拘ってきました。顧客数や保障額など、『量』の一番についてです。今後はさらに、高齢化や格差の拡大、女性の活躍、サステナブルな社会づくり、地域振興など数々の社会課題を解決するうえでもリーダーでありたい。それが目指すべき姿であり、お客様や社会から期待されることでもあります。そういったことに普遍的に関わり、常にリーダーであり続ける。そのような想いを「揺るぎない」という言葉に込めています。

このような中、昨年度は、変革を着実に進めることができた一年であり、数量目標の達成に向け、順調に運営を行い、増収・増益を実現しました。

お客様本位の業務運営

当社は、お客様や社会から一層の信頼をいただくため、「お客様本位の業務運営に係る方針」のもと、お客様のさまざまなニーズにお応えするための商品・サービスラインアップの充実や、お客様のご意向等に即した適切な情報提供、新型コロナウイルス感染症に関する「保険契約等の特別取り扱い」の実施等、お客様本位の各種取り組みを推進してまいりました。

また、各種研修等を通じ、お客様の立場に立って徹底的に考え抜くという理念の一層の浸透に努めてまいりました。その結果、2021年度の「お客様満足度」は91.4%と引き続き高い水準を確保しております。

加えて、各領域で取組内容と独自のKPIを設定し、「お客様本位の業務運営委員会」を通じてPDCAを行うとともに、お客様や職員の声を積極的に取り込み、営業現場における業務運営・評価等の見直しやデジタル活用の推進・改善等、さらなる取り組みの強化に努めております。

サステナビリティ経営

国民生活の安定と向上に寄与することを経営基本理念に掲げる中、安心・安全で持続可能な社会の実現への貢献を通じた企業価値向上を目指し、あらゆる事業活動におけるサステナビリティ経営を推進しております。

機関投資家としては、環境・社会・ガバナンスに配慮した資産運用である「ESG投融資」を推進しています。ESG投融資は、資金提供や企業との対話を通じて、投融資先の取り組みを後押しすることで、社会課題の解決に貢献するという社会的意義があります。そのことが、投融資先の企業価値向上にもつながり、当社の運用収益の安定的な確保を可能とします。従って、ESG投融資は、当社の保障責任の全うをより確実にすることにつながるため、お客様にとっても意義のある取り組みと考えています。

重要かつ喫緊の課題である気候変動問題については、当社グループの事業活動領域のCO2排出量および当社の資産運用領域の温室効果ガス排出量について、2050年度ネットゼロを目標とし、それに向けた2030年度の中間目標を設定しています。具体的には、事業活動領域では、総排出量削減目標を2013年度対比で51%以上とするとともに、資産運用領域では、総排出量を2010年度対比で45%以上削減、投資1単位あたりの排出量であるインテンシティを2020年度対比で49%以上削減してまいります。

これらお客様本位の業務運営とサステナビリティ経営を成長エンジンにし、保障責任の全うをより確実なものにしたい、そう考えています。

国内保険市場の深耕

国内保険市場の深耕については、対面とデジタルを組み合わせた、デジタル時代の新たな営業職員活動モデルを作り上げることを、最優先事項の一つとして取り組んでいます。

今年度は、四つの項目に重点を置いて取り組みを進めます。

具体的には、「販売改革を通じた営業職員チャネルの高度化」「グループ一体でのマーケット開拓推進」「商品ラインアップの拡充」そして、「サービス提供体制の高度化」です。

販売改革を通じた営業職員チャネルの高度化

当社は、今年度を「販売改革元年」と位置付けています。

営業職員のコンサルティング力の向上と組織の拡充を通じ、より多くのお客様に選ばれるチャネルへの進化を目指します。

[取組軸①]デジタル推進と営業職員の制度の進化

対面とデジタルを組み合わせた活動を全職員が行うことで、従来の対面中心に比べ、活動量と新しいお客様と出会う機会の両方を増やし、新契約の増加につなげてまいります。

営業職員は、「デジタル三種の神器」と呼ぶ三つの機器を使って営業活動をしています。契約手続きなどをするための「タブレット」、LINE・メール・電話といったお客様のニーズに合わせた手段で連絡・情報提供するための「スマートフォン」、そして、お客様のパソコンと同じ画面を共有しながらご提案やご相談を承ることができる「画面共有システム」です。

タブレットとスマートフォンはコロナ禍前から、画面共有システムはコロナ禍以降に導入しました。これにより、対面では会えない、もしくは会えなかったお客様、アプローチが難しかったお客様に対して商品を説明したり、お客様のご意向を伺ったりすることが可能になり、ほぼ非対面で契約が完結できるようになっています。

初めの約半年は効果が表れにくい状況でしたが、営業拠点で1人でも三種の神器を使いこなして成果を上げ始めると、その人を起点にノウハウやコツが一気に広がっていきました。営業職員同士はライバルであると同時に仲間であり、皆が切磋琢磨して使い方を覚えたことが、よい方向に動き、積極的に営業で活用しようとする動きが広がりました。

今では、対面の活動減を、デジタルで相当補えるようになり、新たな活動の完全定着まであと一歩という状況まで来ています。

また、販売改革の新たな柱として、営業職員一人ひとりが、お客様本位の活動をよりレベルアップさせ、お客様本位の理念のさらなる浸透・定着を目指すべく、新たな評価制度として、「ニッセイまごころマイスター認定制度」を立ち上げました。

従来から、営業職員の評価については、保険販売量に加え、加入後のお客様への定期的な訪問状況や契約の継続状況などのサービス活動状況を総合的に評価し、給与などに反映する仕組みとしていました。

今年度からは、基本活動を重視しつつ、お客様の声などの定性評価を組み込み、3段階のランク認定状況に応じて給与に反映する制度を設けます。

これにより、お客様本位の活動をレベルアップするために伸ばすべき点が明確になるため、営業職員一人ひとりが自分自身でお客様本位の活動を意識し、努力しやすくなるとともに、指導者も有意義な助言が可能となります。

そして、営業職員が、成長の意欲を持ちながら長く安定的に活躍するには、給与制度と育成・研修制度の両面から支えることが重要です。

給与制度は、安定性と、頑張りに報いる要素をバランス良く組み合わせることを、従来から重視しており、最長5年の育成期間は固定給割合を約9割と高くする一方、経験を積み重ね、資格が上がるに従い、実績給の割合が増えていく仕組みとしています。

このように、給与制度と育成体制を整え、不断に改善していくことにより、安定雇用と成長意欲に応えていくべく、これからも努めてまいります。

[取組軸②]業績重視の現場執行の見直し

現場が、単年度の数量目標の達成にとらわれることなく、また、支社ごとに異なる課題に対しては中期目線から腰を据えて取り組む必要があります。そのため、目標項目の簡素化と同時に、中期取り組みをより評価する体系に見直してまいります。

昨今、目標を設定すべきではない、との意見もあります。しかし、販売を含めて目標を置くということは、企業の事業運営においても、そして一人ひとりが仕事をするうえでも、規律やリズムを与えることになります。また、成長意欲をもたらすことにもなり、目標を置くこと自体は決して悪いことではありません。現場実態から乖離した目標を設定することは、過度なプレッシャーをかける運営につながってしまいます。しかし、適切な目標であれば、規律、リズム、成長意欲をもたらすものとして必要だと考えます。

[取組軸③]現場と本部のコミュニケーション強化

現場に対して本部が寄り添い、課題解決に向けた効果的なサポートを行えるよう、現場と本部のコミュニケーションを強化します。

グループ一体でのマーケット開拓推進

当社は、あらゆる世代、あらゆる顧客層に商品・サービスを提供できるように、営業職員、金融機関窓販・代理店、法人取引領域における販売体制を整備しており、マーケットの発展・拡大に合わせたマルチチャネル戦略をグループ一体で推進しています。

加えて、既存のチャネルだけではアプローチの難しかった新たな市場の開拓に向け、はなさく生命におけるWebダイレクト販売やニッセイプラス少額短期保険を通じた少額短期保険事業にも参入しています。

商品ラインアップの拡充

個人向けに、新3大疾病保障保険「3大疾病 3充マル」を2022年4月より発売しました。従来の3大疾病保障保険の給付内容に加え、新たに、がん検診に関する保障や、重症化前の疾病の保障を組み込むことにより、早期発見・早期治療による重症化予防をサポートします。

法人向けには、中堅企業における福利厚生制度の充実をサポートする新無配当扱特約付団体定期保険「みんなの団体定期保険」を発売します。また、低金利環境での安定的な資産運用をサポートする「ニッセイ一般勘定プラス」を、2022年4月より発売しました。

サービス提供体制の高度化

お客様の利便性を向上すべく、アプリの機能強化やWeb手続きの拡充を行います。

また、高齢化に伴う社会課題に対応すべく、保険契約者代理制度を導入します。現在は、高齢者の契約情報を家族の方が共有するサービスを提供していますが、新たな代理制度により、一定の状況のもと、家族の方が代理で契約手続きを行えるようになります。

これからも、多様化するお客様ニーズへの対応、高齢社会における課題への対応を推進してまいります。

代表取締役社長 社長執行役員 清水博

グループ事業の強化・多角化

当社は、相互会社として「契約者利益の最大化」を達成するために、グループ事業の強化・多角化を進めています。

アセットマネジメント事業については、堅調な金融市場を背景に、預かり資産残高を着実に増やすとともに、当社と大樹生命の運用機能の一部をニッセイアセットマネジメントに移管することにより、グループ運用力を強化しました。

今後、国内においては、ニッセイアセットマネジメントにおけるESGや運用力の強化ならびに販売面での新規取り組みを通じ、生命保険グループのアセットマネジメント会社という独自性を一層発揮し、競争力の強化を図ります。また、海外においては、NAMインディア、TCWそれぞれの着実な成長に向け、ビジネス拡大や運用力・商品力の強化に取り組んでまいります。

海外保険事業については、MLCへの経営管理を強化するなど、ガバナンス態勢を強化しています。結果、MLCについては、当社と一体になった経営改善により、黒字回復を果たしました。

今後、海外保険事業に係る各社の経営戦略を着実に進め、既存事業の強化・収益向上を目指します。

新規事業については、ヘルスケア、子育て支援、イノベーション事業の3本柱で、それぞれ、着実な拡大を進めています。

今後、“あらゆる世代が安心して暮らせる社会の実現”に向け、保険だけではカバーできないお客様ニーズに対応すべく、ヘルスケア事業・子育て支援事業を拡充します。

加えて、さらなる新規事業の創出に向け、国内外での調査・投資・実証実験を、オープンイノベーション拠点である「Nippon Life X」で継続・強化してまいります。

運用力強化

運用力強化については、リスク・リターン効率の向上による安定的な収益確保とリスク削減の両立に向け、「ポートフォリオ変革の推進」、「ESG投融資の強化」に取り組んでいます。

「ポートフォリオ変革の推進」については、円金利資産の長期化の加速とクレジット・オルタナティブ資産の積み増しに継続して取り組みます。

「ESG投融資の強化」については、近年、ESGの要素が中長期の企業価値に与える影響が大きくなっていることから、当要素を投融資プロセスに組み入れるインテグレーションや企業との対話であるエンゲージメントを軸として、取り組みを一層強化しています。

とりわけ、気候変動問題については、資産運用ポートフォリオにおける温室効果ガス排出量の2050年度ネットゼロを目指し、2030年度の中間目標を設定し、取り組みを進めています。脱炭素は社会全体で解決すべき課題です。自社の目標達成のためだけの資産売却は、自分の庭先をきれいにすることでしかなく、社会全体の課題解決にはつながりません。真に持続可能な社会の実現に向けては、資金提供や対話を通じて、長期的な視点で、多様な取り組みを後押ししていくことが重要です。それが、生命保険事業ならではの長期の資金特性をもつ当社の責務だと考えています。

さらに、グローバルにESG投融資取り組みが加速する中、当社役員が代表的なイニシアティブであるPRIやNZAOAの主要ポストに就任し、国際的なルール策定等の議論に参画しています。こうした活動を通じて、日本の機関投資家として積極的な意見発信も行ってまいります。

グループ経営基盤の強化

人的資本の強化

当社は人が中心の会社であり、人で成り立っている会社です。生命保険は形のない商品・サービスだからこそ、「人」が何よりも重要です。「人は力、人が全て」です。

多様な人材が多彩に活躍することが、会社の発展には不可欠です。人が活躍すること、すなわち、その人が持つ能力を最大限に発揮することが重要です。そのためには、能力が花開くように、その人を本気で育成したいと思うこと、これが全ての人材育成のスタートです。

そのような想いから、私を座長とする「人財価値向上プロジェクト」を2015年度から立ち上げ、“個の強化(個々の人財育成)”と“組織の強化(闊達な風土の醸成)”に取り組んでいます。具体的には、私が先頭に立ち、経営陣だけでなく若手従業員とも対話を重ね、従業員エンゲージメントの向上を図っています。

コーポレートガバナンス体制の高度化

これまでも社外取締役・社外監査役を積極的に招聘するなど、コーポレートガバナンス体制の高度化に取り組んでまいりましたが、今般、迅速・果断な業務執行や戦略議論の強化等を一層進めることを目的に、監査等委員会設置会社への移行を中心とするコーポレートガバナンス体制の高度化取組を行いました。近年、当社を取り巻く環境は大きく変化しています。このような中、お客様に対する長期にわたる保障責任を全うし続けるためには変化を積極的に取り込み、対応していくことが重要です。

監査等委員会設置会社では、取締役への重要な業務執行の決定の委任や報告案件の絞り込みが可能となるため、取締役会での中長期的な戦略議論に一層注力してまいります。また、新設の「社外取締役会議」では、社外の知見を経営戦略や業務運営にさらに取り込んでまいります。

加えて、「担当執行役員制」の導入により、柔軟な配置が可能な執行役員が、全事業領域を分担することで、機動性ある執行体制を確保します。

一方で、コーポレートガバナンス体制の高度化に終わりはありません。お客様に対する長期にわたる保障責任を全うし続けるために、不断の取り組みとして、コーポレートガバナンス体制の継続的な高度化に努めてまいります。

最後に「人は力、人が全て」

最後に、私の決意についてお話しします。

私は社長就任以降、「人は力、人が全て」を信条としてきました。

生命保険は、無形の商品・サービス、そしてお客様の大切な想いと願いが込められた財産です。その商品・サービスを生み出し、お客様にお届けしていくためには人の力が極めて重要であり、まさに、人が全てです。

人材育成の信条は、「良いところを伸ばして可能性を引き出し、そして花を咲かせる」です。言葉を交わし、対話を重ね、想いをぶつけあうことで、人は成長していきます。一人ひとり、強みや生きてきた途は全く異なります。こうした多様な価値観・経験を持った人材が、自分らしく多彩に活躍できること。それが何よりも大事です。

日本生命は、人で成り立っている会社です。「人は力、人が全て」です。全ての役員・職員一人ひとりに、活躍のステージがあります。日本生命そして、日本生命グループで働く大切な仲間とともに、お客様と社会をつなぎ、今日よりもっといい未来を創っていきたいと思います。

2022年7月

代表取締役社長 社長執行役員 清水博

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