年を重ねると、認知症にならずに、記憶・判断能力を失わずに、最期まで暮らしていけるかどうか、不安を持たれる方は少なくないと思います。実際、加齢と脳の関係はどうなっているのでしょうか。今回は、研究成果から導かれる2つのことをご紹介したいと思います。
2017年5月8日
加齢とともに弱くなる知能と強くなる知能
心理学研究の分野では、脳の機能を司る「知能」(学習能力や適応能力など)は、成人期を迎えた後、加齢とともに衰退するとかつては考えられていました。しかし近年、研究が進められたことによって、様々なことがわかってきています。高齢期における知能の変化は、衰退する側面と高齢まで維持・強化される側面の両面があるということです。
前者の比較的衰退が見られる面は、「流動性知能」と呼ばれ、計算力や暗記力など、新しい場面への適応が要求される能力です。新しい商品(ICT機器など)が出たときに、なかなか使いこなすことが難しいと言う高齢者の方がいらっしゃいますが、生理学的脳機能によって働きが規定される影響かもしれません。一方、後者の高齢期まで維持・強化される知能は、「結晶性知能」と呼ばれ、語彙力(言葉の数など)、判断力、問題解決能力など、年を重ね、経験を積み重ねることによって培われ強化されていく知能です。これは「経験」という貴重な財産を脳に蓄えていったり、生活習慣や訓練によって維持していくことのできる能力なのです。
脳の機能は、加齢に伴い衰えると考えている人も多いかもしれませんが、高齢者の知能は経験によって強化されている側面もあるということを知っていただきたいと思います。
何歳になっても脳は若返る
また、“何歳になっても脳は若返る”ということも知っていただきたいことです。神経科学の分野では、過去何十年もの間、「脳細胞の再成長はありえず、脳は新たな細胞を生成しない」と言われていました。ところが、米国の研究者(ジェセフ・アルトマン)によって90年代後半に、成人の脳でも新たな細胞が生成できることが立証されたのです。この脳細胞生成のプロセスは「神経生成」と呼ばれています。この発見は、パーキンソン病やアルツハイマー病などの脳が衰えていく病気の治療や、自分の知力を維持向上させたいと願うすべての人に希望(可能性)をもたらしました。何歳になっても“自分の脳をつくる、再生できる”可能性があるということです。(※)
語学の学習などもそうですが、「年だからもう無理」と考えず、こうした研究成果も踏まえながら、何歳になっても、新たなチャレンジを心がけることも大切なことだと思います。
(ニッセイ基礎研究所 前田 展弘)
筆者紹介前田 展弘(まえだ のぶひろ)
株式会社ニッセイ基礎研究所 生活研究部 主任研究員
研究・専門分野:ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
- ▼ニッセイ基礎研究所ホームページ(前田主任研究員)
https://www.nli-research.co.jp/topics_detail2/id=41?site=nli