人生100年時代を生きていく上で、「健康」は大切です。誰もが「最期まで元気でいたい」と考えるのではないでしょうか。ではどうすればそのことを実現できるのでしょうか。今回からは、高齢期の「健康」をテーマに、いくつか参考にしていただきたい情報を複数回にわたって紹介していきます。
2017年3月6日
高齢者約6,000人を約30年間追跡したデータから
まずは「実態」を確認してみたいと思います。周囲を見渡せば、同じ年齢の高齢者でも元気ハツラツと過ごしている人もいれば、そうでない人もいます。健康状態は人によって異なるものですし、いつ病気になるかなどは現代の医学をもっても確実な予測はできません。ただ、年を重ねると健康状態がどのように変化していくのか、自分はいつまで元気でいられるのか、気になる人は少なくないと思います。そこで一つ参考になる貴重なデータを紹介したいと思います。それは、日本の高齢者約6000人を1987年から約30年にわたって追跡して、「加齢に伴う生活の自立度の変化」を明らかにした次のデータです。
資料:東京大学高齢社会総合研究機構編「東大がつくった高齢社会の教科書」
(㈱ベネッセコーポレーション、2013年3月)、P.34より引用し作成
データの見方ですが、横軸は年齢、縦軸は生活の自立度の高さを表しています。自立度は、確立された測定スケールである「基本的日常生活動作(ADL:Activities of Daily Living)※1」と「手段的日常生活動作(IADL:Instrumental Activities of Daily Living)※2」の合計点から評価され、3点は完全に「自立」(全く他人のサポートがなく生活が可能)な状態、2点は「手段的日常生活動作」に援助が必要な状態、1点は「基本的&手段的日常生活動作」に援助が必要な状態と、点数が下がるに従い自立度が下がり、生活において他人の援助が必要な割合が増えていきます。0点は「死亡」を表します。
- ※1基本的日常生活動作(ADL:Activities of Daily Living)
日常生活を送るうえで、必要な最も基本的な生活機能。具体的には、食事や排泄、着脱衣、移動、入浴など - ※2手段的日常生活動作(IADL:Instrumental Activities of Daily Living)
日常生活を送るうえで、必要な生活機能でADLよりも複雑なものを指す。具体的には、買い物、洗濯、掃除など家事全般、金銭管理や服薬管理、外出して乗り物に乗ることなど
男性は3パターン、女性は2パターンが描かれる
統計的分析の結果、男性では3つのパターンが見られます。約2割(19.0%)の男性は70歳になる前に健康を損ねて死亡するか、重度の介助が必要となってしまいます。長寿時代の若死にと言ってもよいでしょう。他方、約1割(10.9%)の人は80歳、90歳まで元気なまま自立度を維持できています。そして大多数の約7割(70.1%)は75歳頃から徐々に自立度が落ちていきます。
女性では、2つのパターンが見られ、実にその約9割(87.9%)の人たちが70代半ばから緩やかに自立度が低下していきます。
男性は心臓病や脳卒中などの生活習慣病によって介助が必要となったり、死亡する人が多いですが、女性はもっぱら骨や筋力の衰えによる運動機能の低下により、自立度が徐々に落ちていく傾向があります。なお、男性に見られる11%の自立度維持パターンが女性には解析結果として表出していませんが、これは「移動」能力の低下が男性に比べて大きいことが影響していることがわかっています。女性は男性に比べて総じて骨や筋力が弱いことが原因です。
男女合わせると、約8割の人たちが70代半ばから徐々に衰えはじめ、何らかのサポートが必要になることが分かります。しかし、注目すべきはこの約8割の人は、要介護か認知症というイメージとは異なり、何らかの病気や身体の不具合を抱えながらも、多少の助けや自らの生活上の努力や工夫があれば、普通に日常生活を続けることができるということです。
データが示唆すること
以上のデータが示唆する主なことをまとめると、以下が挙げられます。
- 長寿時代の若死を避けるために若年期から生活習慣の改善に取り組むことが改めて重要であること
- 身体的な老化が避けられない中で、大半の人が緩やかに老いを体感していくという事実を受け止める必要があること
- その老いの過程は日常生活の継続を極端に妨げるようなレベルではなく、それだけにそうした状況下で自分らしい暮らしの実現を考えていくことが非常に大切であること
社会においても、こうした高齢期の特に後期も視野に入れた形でいかに安心して快適に生活できる環境を整えることができるか、その課題の解決に向けた取組みが進められることが期待されています。
(ニッセイ基礎研究所 前田 展弘)
筆者紹介前田 展弘(まえだ のぶひろ)
株式会社ニッセイ基礎研究所 生活研究部 主任研究員
研究・専門分野:ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
- ▼ニッセイ基礎研究所ホームページ(前田主任研究員)
https://www.nli-research.co.jp/topics_detail2/id=41?site=nli