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3分でわかる 大人のための長生き応援コラム

第27回 人生100年時代のライフデザイン〜社会で共創を

2018年12月3日

活躍できる「選択肢」の拡大〜生涯現役社会の実現を

 本コラムでは人生100年を“より良く”生きていくために、これまで健康のこと、お金のこと、社会とのつながりや生きがいのことなどについて、ジェロントロジー(高齢社会総合研究学)にもとづくメッセージをお伝えしてきました。さらに前回は人生後半のライフデザインの描き方を考えてみました。ただ、理想の「人生100年」の生き方を個人の努力(自助)だけで実現させることは難しいところもあります。社会がその理想に応えていく必要があります。その視点は様々なことがありますが、今回は特に筆者が必要と考える3つのことについて述べてみたいと思います。

 一つは、活躍できる「選択肢」を拡げるということです。後半人生を展望したときに、「リタイアした後、自分は何ができるだろう」と不安を抱く人は少なくないと想像します。実際、今の高齢者の方とお話すると、「何かしたいのだけど、したいと思えるほどの場がない」と答える人は非常に多いです。昨今、人手不足の問題を背景に高齢者に対する求人情報は増えてはきていますが、「よし、やってみよう」と思えるような高齢者にとって魅力的な場が少ないのが現状です。この状態のまま未来を迎えると、労働力不足もさらに深刻になるでしょうし、未来に高齢者となる若者にとっても、将来展望が描けないまま高齢期を迎えることになってしまうでしょう。逆に、「リタイアした後は、こうした活躍の仕方がある、できる」という情報を若い段階から知ることができれば、後半人生の人生設計もより幅広く考えることができます。
 この課題の解決に向けては、第22回のコラムの中でご紹介した「生涯現役促進地域連携事業」(厚生労働省)に期待をしていますが、この事業に取り組んでいる自治体はまだ僅かです。全国には約1800の自治体がありますが、当事業に取り組んでいるのは2018年11月現在で21都道府県23市区町村のみとなっています。当事業は自治体が手を挙げなければスタートしないものです。高齢期の活躍の場を拡げるためにも、まだ手を挙げていない自治体にはぜひ当事業の実施に向けてご検討いただくことを期待します。

図表1:生涯現役促進地域連携事業の実施地域一覧(2018年11月現在)

資料:筆者作成

高齢期の安心の確保〜地域包括ケアシステムの完成を

 もう一つは、「地域包括ケアシステム1」の完成です。これは“住み慣れた地域で最期まで安心して暮らしていけるように”国(厚生労働省)が現在進めている重要な社会政策の一つです。地域単位で「予防、医療、介護、住まい、生活支援他」に至るまでのサービスを包括的に提供できるようにしようとしています。団塊の世代が全て75歳に到達する2025年までに全国的に整備することが目標とされています。しかしながら、各地の状況を見ると、苦労されているところが少なくありません。自治体及び医療福祉関係者が中心となって、当該システムの構築に向けて取り組まれていますが、「マンパワー不足」の問題や「地域に協力してもらえる事業者等が少ない」など様々な理由から苦労されています。そこで一つご紹介したい事業があります。それは「地域包括マッチング事業2」というものです。これは、地域包括ケア(システムづくり)を推進するために、外部の力を求めたい「自治体」と、地域包括ケアに貢献できる、協力できる「大学」や「企業」等をつなげるサポートを行う事業です。地域包括ケアシステムを創るということは、その地域の“まちづくり”を行うこととほぼ等しく、それは自治体や医療福祉関係者だけに託されたことではありません。むしろ、自治体、大学、企業や市民など、産官学民のメンバーが協働して取り組むことが理想です。2018年10月より、当事業の専用サイト「地域包括マッチングNET」が公開されていますので、ぜひ当事業の内容をご理解いただくとともに、当サイトを通じて各地で産官学民の協働が進められることを期待します。

図表2:地域包括マッチング事業の概要・イメージ

資料:筆者作成

「商助」の普及〜民間企業への期待

 最後は、「商助3」という概念の普及です。前述の2つは主に自治体(地域)を中心とした話でしたが、最後は民間企業への期待の話になります。社会を支える概念として、「自助」「互助・共助」「公助」と言う概念はよく知られていますが、これに「商助」と言う概念を加えるべきと考えています。人々の生活及び社会を支える重要の要素には民間企業の活動があります。それは社会に対する貢献も非常に大きいものです。人生100年の理想の人生を実現するにはあらゆる面で民間企業の力が必要ですし、取り組める視点は多いです。商助の視点、つまり“人生100年をより良く生きていける社会にするための企業の視点”を考えますと図表3に挙げたように、①高齢者を“活かす・導く”ための取り組み、②高齢者の“QOL(Quality of Life)の向上に貢献する”ための取り組み、③安心で活力ある“高齢社会を築く”ための取り組み等が考えられます。社会全体に「商助」の概念を広めることで、あらゆる企業が人生100年時代に何ができるかを考え、具体的な行動を加速させていくことを大いに期待したいところです。その結果、一人ひとりの人生100年がより良くなっていくと考えます。

図表3:商助の概念(上)と民間企業における商助の取組視点(下)

資料:筆者作成


 以上、僅かな視点に止まりますが、自治体や民間企業等の社会の側も人生100年を前提とした形に変わっていくことが期待されます。誰もが“自分らしく・安心して”人生100年を歩める未来の実現に向けて、社会の“共創”が進むことを切に願っています。

  • 1「地域包括ケアシステム」は社会保障改革プログラム法(第4条第4項)にて次のように定義されています。「地域包括ケアシステムとは、地域の実情に応じて、高齢者が、可能な限り、住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、医療、介護、介護予防、住まい及び自立した日常生活の支援が包括的に確保される体制」。
  • 2平成30年度厚生労働省老人保健健康増進等事業の一つ。地域包括マッチング事業の実施主体はニッセイ基礎研究所。
  • 3「商助」は、國松善次前滋賀県知事が発案された概念(滋賀県高齢者福祉計画・介護保険事業支援計画2009より)

(ニッセイ基礎研究所 前田 展弘)

筆者紹介

前田 展弘(まえだ のぶひろ)

株式会社ニッセイ基礎研究所 生活研究部 主任研究員
研究・専門分野:ジェロントロジー(高齢社会総合研究)