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3分でわかる 大人のための長生き応援コラム

第24回 人生100年時代の暮らし方

2018年9月3日

暮らし方(住まい方)の選択肢〜「マイホームか賃貸か」、「定住か移住か」

 人生100年を“より良く”生きていくうえで、判断(選択)すべきことは様々あります。その中でも、どこでどんな住居で暮らしていくかという“暮らし方(住まい方)”の判断は非常に重要です。現役時代は仕事の関係などから住む場所(地域)も自由に選択できなかったかもしれません。しかし、リタイアした後はその制限がなくなります。住む場所を含めて暮らし方をリセットすることも不可能ではないでしょう。ただ、そのことがいいのかどうかということも含めて、人生100年だからこそできる暮らし方(住まい方)について考えてみたいと思います。

 「暮らし方(住まい方)」を考えるうえでは、家族や仕事のこと、経済的環境の違いなど多くの論点があります。本コラムでは全てを網羅することはできませんので、次の2つのテーマに焦点をあてて考えていきたいと思います。一つは、「マイホーム(持ち家)か賃貸か」、もう一つは、「リタイアした後、定住か移住のどちらがよいか」についてです。

 前者については、実家住まいの人、またすでにマイホームを購入された人にとっては考える必要のない話かと思いますが、そうでない人にとっては、これから家を買おうかどうか、ずっと賃貸で暮らしていくか、人生における大きな選択事項になっていると想像します。あくまでその判断は本人の考え方や価値観、また経済的な損得などを考慮しながら決定されていくと思いますが、これまで多くの人は「住宅すごろく」という考え方(住宅観)を支持していたように思います。それは、生涯の住まいの変遷をすごろく遊びにたとえたもので、1970年代に拡がったと言われるものです。

 振り出しは、①都会の単身アパート暮らしからスタート。つぎに結婚して②ファミリータイプの賃貸マンションを経て、③分譲マンション購入、そして④マンションを転売して郊外に庭付き一戸建て住宅を所有して上がり(ゴール)となる考えです1。この言葉自体は知らずとも、「いつかマイホームを買いたい」と考えられている人は今でも多いと推察します。では実際、どれだけの人がマイホーム(持ち家)を購入しているのか、年齢段階別に1988年と2013年2で比較してその状況を見てみます(図表1)。

 ご覧のとおり、高齢になるに従いマイホームを購入している人の割合は増えています。65歳の時点ではおおよそ8割の人がマイホームを購入していることがわかります。マイホームで暮らす人が大勢を占めていることは変わらないものの、1988年と比べると2013年では64歳以下の各層で持ち家率が下がっていることもわかります。その要因は、未婚率の上昇(単身者の増加)や経済的な影響など様々なことが含まれると想像しますが、かつて描かれた「住宅すごろく」とは異なり、これから高齢になっても賃貸で暮らし続ける人が増えていく可能性が垣間見られます。

図表1:年齢段階別の持ち家率(1988年・2013年比較)

資料:総務省統計局「住宅・土地統計調査(1988年・2013年)」

 もう一つのテーマですが、「老後の生活を考えたときに現在住んでいる地域から移住したいかどうか」を聞いた調査結果がありますので見てみましょう(図表2)。これによると、全体の約8割3は「現在の地域に住み続けたい」、約2割4が「別の地域へ移住したい」と回答しています。ただ、年齢段階別に見ると、高齢になるほど定住することを望み、移住を望む人は若い世代ほど多くなっていることが確認できます。この結果はおそらく前述のマイホームを所有しているかどうかの違いが影響しているように思われます。

図表2:老後に向けた移住の意向

資料:内閣府「国土形成計画の推進に関する世論調査」(平成27年10月)

多様な暮らし方を楽しむ人生を

 以上2つのテーマから言えることは、住宅すごろくが描いてきたように、マイホームを購入して、その自宅で暮らし続けることを望む人が圧倒的に多いということです。ただ同時に、“今後”においてはそうではない暮らし方、つまり高齢になっても賃貸暮らしを継続するなか移住を試みる人が一定程度増えていく可能性があるということではないでしょうか。端的に言い換えれば、「マイホーム定住派」が大勢を占めつつも、今後においては「賃貸移住派」の人が増えていくのではないかということです。

 ここでどちらが良いかということを議論するつもりはありませんが、「人生100年時代だからこそできる暮らし方(住まい方)」を考えると、両者を共通して次のようなことを意識することが人生を“楽しむ”うえで有益ではないかと考えます。

 一つは、“探す楽しみ”を味合うこと。最期は愛着のある地域・自宅で暮らしたいと思うことは両者に共通することだと思います。その地域をどこにするかは人生の大きな選択です。幼少期を過ごしたふるさとに戻るなど、すでに決めていればよいですが、そうでなければ現役時代から全国各地を旅行しながら、その場所を探していくといったことも一つの人生の楽しみになるのではないでしょうか。

 もう一つは、“転々生活”を楽しむこと。住み慣れた地域・自宅で最期まで暮らし続けることの幸せや大切さは理解しつつも、他方、様々な地域の暮らしを味わうことも人生の楽しみにつながるように思います。前述の図表2では「移住」という質問の結果でしたが、転々生活は、マイホームを有しながらも数カ月間は別の地域での暮らしを楽しむ、賃貸派であれば、数年単位で各地を転々とする生活をイメージしています。具体的には、物価の安いアジアで数カ月または数年暮らす、季節の変化に応じて穏やかな地域に移住する、さらにはキャンピングカーをレンタルして1年間暮らすといったこともできないことではないでしょう。また「○○三昧生活」という視点も含みます。例えば、ゴルフ三昧、つり三昧、温泉三昧など、趣味を満喫できる適所を転々とする生活です。知らない土地での暮らしは相応にストレスのかかることもありますが、新たな楽しみを見出せる可能性も十分あります。家族の同意や経済的な条件をクリアする必要はありますが、高齢期は自由な時間がありますし、とりわけ人生100年という人生の長さを考えれば、多くの地域の暮らしを味わうことで人生もより彩り豊かになるように思います。

 以上、やや奇抜な考えであったかもしれませんが、“人生100年時代であれば多様な暮らし方もできる”と考えるなかで、これまでとは違う、住宅すごろくに止まらない多様な暮らし方を考えるうえで少しでも参考になれば幸いです。

  • 1日刊賃貸住宅ニュースHP(賃貸経営用語解説)より引用http://chintai-n.com/新しいウィンドウ
  • 2「住宅・土地統計調査」は5年ごとに実施しており、現時点では2013年が直近判明分
  • 3「現在の地域に住み続けたい(57.0%)」と「どちらかといえば現在の地域に住み続けたい(22.2%)」の小計(79.2%)
  • 4「別の地域へ移住をしたい(6.8%)」と「どちらかといえば別の地域へ移住したい(12.3%)」の小計(19.1%)

(ニッセイ基礎研究所 前田 展弘)

筆者紹介

前田 展弘(まえだ のぶひろ)

株式会社ニッセイ基礎研究所 生活研究部 主任研究員
研究・専門分野:ジェロントロジー(高齢社会総合研究)