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第18回 認知症予防の可能性

2018年3月5日

アルツハイマー型認知症予防に光明〜2つの視点〜

 高齢期の健康に関する心配ごととして、「認知症」の存在は無視できないと思います。かつて私が70-80代の方々にインタビュー調査を行ったときも、「死ぬことよりも認知症になることのほうが怖い。絶対になりたくない。」と多くの人が話されていました。ただ近年になって、“認知症は予防できるかもしれない”というニュースをよく見聞きします。今回は、私たちの将来にとって光明とも言えるその情報をお届けしたいと思います。

 これまで、認知症は症状の進行を遅らせる薬はあっても、治せない、予防できない、「不治の病」とされてきました。ところが、認知症患者の約50%を占める「アルツハイマー型認知症」について、予防できる可能性が高まってきているというのです。そのポイントは「検査方法(技術)の進歩」と「効果的な薬の登場」です。

<認知症の種類>

資料:東京大学高齢社会総合研究機構編著「東大がつくった高齢社会の教科書」より筆者作成

 まず、アルツハイマー型認知症はどのようにして発症するのかをご説明します。脳内の血管に「アミロイドβたんぱく」と「タウたんぱく」というたんぱく質の“かす”が蓄積されていくことが原因の発端になります。これらが長年にわたって脳内に蓄積されていくと、「アミロイドβたんぱく」の中の毒性や「タウたんぱく」が変化した物質によって脳内の神経細胞が破壊され、やがて記憶障がいや認知機能障がいが引き起こされていきます。ただし、発症するかどうかは個人差があります。予防にしても、治療にしても、この「アミロイドβ」と「タウ」という2つのたんぱく質の存在が重要な鍵を握っているのです。

 この蓄積状況(たんぱく質の沈着度)は、PET(Positron Emission Tomography;陽電子放射断層撮影)や髄液検査(侵襲性)などで科学的に測定できますが、高額な費用がかかるなど、気軽に検査するのは困難でした。ところが、今年(2018年)の2月、国立研究開発法人国立長寿医療研究センターと株式会社島津製作所より次の発表がなされています。それは、「僅かな血液(0.5cc)で脳内のアミロイドβの異常蓄積がないかを正確に推定できる検査方法」を確立したというものです。

 実用化(商品化)の詳細はまだわかりませんが、採血で簡便に測れるようになれば、多くの国民がより身近に自分の脳の状態を知れることになります。脳の状態をより早期にわかって、原因となる「かす」を排出できれば予防につながると思われます。

 「そこで現在注目されているのが「動脈硬化の再発を防ぐ薬」です。これは東北大学加齢医学研究所の瀧靖之教授が書かれた『生涯健康脳』(ソレイユ出版、2015年6月)の中で指摘されています。瀧教授によれば、「この薬は血液をサラサラにして、血液の塊が血管の中に詰まらないようにするものだが、アミロイドβを減少させる働きがあることもわかった」とされています。確かに血管に溜まった「かす」が原因であれば、血液をサラサラにしていくのが効果的であることは納得的です。まだ臨床場面では使用できないようですが、既存の薬を利用できる分、新薬を開発するよりは近い将来、この薬を利用したアルツハイマー型認知症の予防が実現できるかもしれません。

 認知症は自分がなるかどうかわからないうえ、なったとしても治せないのではないかというなかで非常に不安が大きいものでしたが、こうして予防につながる可能性が見出されています。上述した「採血」による診断が日常化され(例えば、健康診断の一項目に加える)、効果的な薬が提供されていけば、いつか私たちはアルツハイマー型認知症を克服できるかもしれません。そうした期待を持ちながら、人生100年時代を明るく歩んでいただきたいと思います。

  • JST/RISTEX「後期高齢者のQOL(Quality of Life)の評価尺度の開発に関する研究」(2009年)。68名に対して筆者がインタビューを実施
  • 本コラムで述べる認知症の予防と治療に関しては、アルツハイマー型認知症のことのみであり、「脳血管性認知症」(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血などの脳の病気にともなう脳の血管の障がいによって引き起こされる認知症)や、「レビー小体型認知症」(レビー小体という異常なたんぱく質の集まりが脳の神経細胞の中に溜まることのよって引き起こされる認知症)は含んでおりません。
  • 既存の製薬「シルスタゾール」等

(ニッセイ基礎研究所 前田 展弘)

筆者紹介

前田 展弘(まえだ のぶひろ)

株式会社ニッセイ基礎研究所 生活研究部 主任研究員
研究・専門分野:ジェロントロジー(高齢社会総合研究)