ヒトは加齢が進むに従って、徐々に心身の機能が低下していきます。人生100年時代、できるだけ長く健康を維持して自立した暮らしを続けていきたいものですが、そのためには、どのようなことを心がけていけばよいのでしょうか。第17回からは、「元気(健康)」について、特に高齢期に向けて心がけるべきことや知っておくべき情報をお届けしたいと思います。今回は、「フレイル」と「オーラル・フレイル」がテーマです。
2018年2月5日
中年期をすぎたら「フレイル」予防が大事!
健康を維持していくために大事なことは様々あります。食事(栄養)や運動に気を配り、生活習慣病にならないようにしたり、いわゆる"メタボ"(メタボリックシンドローム)にならないように気をつけることは、代表的な例です。これらは、若いときから多くの人が心がけているかと思います。しかし、長い人生を元気なまま自分らしく自立して暮らし続けていくには、もう一つ大事なことがあります。それが「フレイル」の予防です。
「フレイル」とは、日本語では「虚弱(Frailty)」と言います。年を重ねるに従って徐々に心身の機能が低下していくことを表した比較的新しい概念です1 。易しく言い換えれば、加齢に伴い体力が低下する、足腰が弱くなる、そうした状態の変化を指しています。「フレイル」になる最大の要因は、骨格筋の「サルコペニア(加齢性筋肉減弱症)」、つまり筋肉(力)が落ちていくことが挙げられます。筋肉(力)が落ちると、身体機能が低下して活動が少なくなり、エネルギー消化量も減り、食欲や食事摂取量も減り、低栄養や体重減少が進むといった負の連鎖がもたらされると言われています。健康を維持し、自立した暮らしを継続するためには、この「フレイル」になる時期を如何に遅らせるかが大事です。そのためには、特に中年期を過ぎたら、歩くあるいはスクワットで足腰を鍛えるなど、体力・筋力を鍛え続けていくことを心がけていただきたいと思います。
「オーラル・フレイル」予防も大事!
厚生労働省と日本歯科医師会が推進する「8020運動」をご存知でしょうか。これは、「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という運動です。20本以上の歯があれば、食生活にほぼ満足することができると言われており、この運動には「生涯、自分の歯で食べる楽しみを味わえるように」との願いが込められています。
「8020運動」の更なる発展に向けて、新たに取り入れられた考え方に「オーラル・フレイル」の予防があります。この「オーラル・フレイル」の予防は、「フレイル」予防にも大きく関連するもので、筆者も所属する東京大学高齢社会総合研究機構の飯島教授他が提唱する概念です。日本歯科医師会も当概念の普及に向けた積極的な啓発活動を展開しています。
「オーラル・フレイル」とは、直訳すると「歯・口の機能の虚弱」になります。先ほど「フレイル」に至るプロセスについては、筋肉(力)との関係が大きいと述べましたが、その筋肉(力)の低下には「歯・口の機能低下」が深く関係している可能性があると指摘されています。これは、飯島教授他が行った「高齢期における虚弱化の原因を追究する大規模調査(縦断追跡コホート研究)2」から導き出されたことです。
具体的にどういうことかと申しますと、歯・口の健康をおろそかにすると、噛む力や舌の動きが悪くなり、栄養摂取の面で支障を及ぼします。加えて、滑舌が悪くなると、人との交流を避けるようになります。その結果、家に閉じこもりがちな生活をおくるようになり、筋肉(力)の低下につながり、さらに生きがいまでも失ってしまうという負の連鎖を招く可能性があるのです。一見、「フレイル」とは直接的な関係がないように思われる歯・口の機能低下が起点(原因)となり、社会性の低下、生活範囲の縮小、精神性の低下、低栄養、身体機能の低下をもたらすことが懸念されます3。したがって、「フレイル」の予防のためには、足腰のトレーニングに加えて、予防的に「歯・口の健康」にも取組んでいくことが大切なのです。
ぜひ「フレイル」と「オーラル・フレイル」の予防を心がけていただきながら、健康を維持し、自立した暮らしを実現していただきたいと思います。
(ニッセイ基礎研究所 前田 展弘)
筆者紹介前田 展弘(まえだ のぶひろ)
株式会社ニッセイ基礎研究所 生活研究部 主任研究員
研究・専門分野:ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
- ▼ニッセイ基礎研究所ホームページ(前田主任研究員)
http://www.nli-research.co.jp/topics_detail2/id=41?site=nli