人生100年時代、日々の暮らしで欠かすことのできない大切な要素に「楽しむこと」があります。何を楽しみと感じるかは人それぞれではありますが、楽しみがあるからこそ、辛く苦しいことがあっても乗り越えられるのではないでしょうか。楽しみは生きがいにつながり、人生を豊かなものにしてくれます。今回は、楽しみ・生きがいと高齢期の関係に注目します。
2017年9月4日
生きがいを持っている人は長生きする
どういう人が長生きする傾向にあるのか、それを調べる長寿科学研究では、生きがいなど心理的要因と生命予後との関係を調べたものも数多くあります。例えば、40〜80歳の約3000名を7年以上にわたって追跡した研究では、「生きがいがあるとはっきり言えない」「ストレスがある」「頼られていると思わない」人は、そうでない人に比べ、年齢、喫煙、飲酒、高血圧の既往歴を調整しても、心筋梗塞等の循環器疾患による死亡のリスクが上昇していた1という結果が確認できます。また、60〜75歳の約1000名を7年半追跡した研究でも、歩行習慣、睡眠時間に加えて、生きがいの有無が、高齢者の生命予後に重要な影響を与えていたことが明らかになっています2。
いずれの研究も“生きがいを持っている人が長生き”の傾向にあることを示していますが、どのようなメカニズムなのでしょうか。「病は気から」という言葉もありますが、楽しみや生きがいがあると心が元気になり、日々の生活も活動的になることに伴い、身体的な面でも健康の維持につながるのかもしれません。健康のために運動したり、食事に気をつけることと同様に、「楽しみや生きがいを持つ」ことも健康の維持や寿命の延伸につながる可能性があり、それを日々の暮らしの中で意識するのが大切だと思います。心を元気にする楽しみ、生きがいを見つけることが、健康で長生きするための一つの方策になりうるのです。
『Wish List』で人生100年時代を豊かに
そうは言えども、なかなか生きがいと言えるほどの楽しみが見つからない、特に高齢期を展望したら不安ばかりが募ってしまうという人も少なくないかもしれません。そのような場合、例えば、65歳からの『Wish List(願いごと・やりたいこと等、楽しみをまとめたリスト)』を作成してみてはどうでしょうか。高齢期を迎えれば多くの人は時間的な余裕が生まれるので、「親を旅行に連れて行く」「子・孫との時間を多く持つ」「初恋の人に会いに行く」「夫婦で海外のロングスティを楽しむ」「大学に入り直す」「英語をマスターする」「音楽(楽器演奏)を始める」など、ご自身が楽しみだと感じることを10でも50でも100でも『Wish List』に書き連ねてみてください。楽しみをひとつずつ満たしていきながら100歳まで到達できたら、生きがいにあふれるとても素晴らしい人生となるのではないでしょうか。映画「最高の人生の見つけ方」(2007年アメリカ)でも、余命僅かと宣告された高齢男性2人(ジャック・ニコルソン、モーガン・フリーマン)が「やりたいことリスト」を作成し、それを実行しながら残された人生を前向きに過ごしていった姿が描き出されています。
今回ご紹介した『Wish List』は一つのアイディアにすぎませんが、こうした手段も活用しながら楽しみを意識して作り出すことが、長生きにもつながり、人生を前向きで彩り豊かなものに変えていくと思います。
- 1坂田清美、吉村典子、玉置淳子、橋本勉「生きがい、ストレス、頼られ感と循環器疾患、悪性新生物死亡との関連」
(「厚生の指標」第49巻第10号、2002年9月)より - 2関奈緒「歩行時間、睡眠時間、生きがいと高齢者の生命予後の関連に関するコホート研究」
(「日衛誌」第56巻第2号、2001年7月)より
(ニッセイ基礎研究所 前田 展弘)
筆者紹介前田 展弘(まえだ のぶひろ)
株式会社ニッセイ基礎研究所 生活研究部 主任研究員
研究・専門分野:ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
- ▼ニッセイ基礎研究所ホームページ(前田主任研究員)
http://www.nli-research.co.jp/topics_detail2/id=41?site=nli