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3分でわかる 大人のための長生き応援コラム

第11回 地域が創る新たな高齢者のつながり

2017年8月7日

リタイア後の「仕事」の場が産み出す新たなつながり〜柏市「生きがい就労事業」

 第10回では、人との関係は幸せの重要な要素であり、社会とのつながりが長生きにも影響する話をご紹介しました。人生100年を歩んでいく上で、人や社会とのつながりは重要ですが、高齢期は退職や友人らとの永遠の別れ(死別)などで、そのつながりを失う機会も少なくありません。しかし、失うだけでなく、新たに築いていくことも大切です。そうしなければ、やがて「孤立」という現実を迎えてしまう可能性もあります。今回は、“高齢期に新たなつながりを築く方法”について考えます。

 地域活動に参加する、趣味のサークルに加入する等、新たなつながりを築くには様々な方法がありますが、今回は「仕事」を通じた新たなつながり方の事例を紹介します。それは、筆者も所属する東京大学高齢社会総合研究機構と千葉県柏市、UR都市機構の3者が2009年から取組んだ「生きがい就労事業」というものです。

 これは3者による「長寿社会のまちづくり」プロジェクトの一環として進められました。2008年当時、地域の“課題”を3者で検討する中で、深刻化していたものの一つが「高齢者の孤立」でした。地域における人と人とのつながりが非常に希薄だったのです。千葉県柏市は東京都の北東部に近接する東京都のベッドタウンで、住民の多くは都内に働きに出かけ、自宅には寝に帰るだけといった生活を送っていました。その結果、リタイアした後、地域を見渡しても友人や知り合いは誰もおらず、「やることがない」「行くところがない」「会いたい人もいない」といった“ない・ないづくし”の生活となり、自宅にとじこもりがちになってしまう高齢者が少なくなかったのです。そこでプロジェクトメンバーは、「どうすればそうした方々に自然と外に出てもらえるようになるか」を地域の高齢者に聞いて回りました。

 ヒアリングを行う前は、「サロンや喫茶店を増やせばよいのではないか」、あるいは「図書館を新設してみてはどうか」といった考えもありましたが、多くの方が口にしたのは「自宅のそばで働ける場所(仕事)があれば自然と外出することになる」という意見でした。ただ、現役当時と同じように月〜金曜日のフルタイムの仕事ではなく、“無理なくマイペースに働けること(週2-3日、短時間)”が強い希望でした。やはり、「朝起きて仕事に向かう」ライフスタイルは現役時代から最も慣れ親しんだものであり、その習慣が望まれたと受け止めました。そこでプロジェクトメンバーは、まちづくり事業としての目的を踏まえながら、「無理なく楽しく働ける」、さらに「地域の課題解決にも貢献できる」ような仕事(=「生きがい就労」と称する)の開拓を目指しました。具体的には、人手不足が顕著な「農業」や「保育」、「生活支援」や「福祉サービス」などの分野で、生きがい就労の場を拡げました。

 この結果、「生きがい就労」という新たな仕事の場を通じて、地域に誰も知り合いがいなかった高齢者同志が必然的につながりあい、仕事が終われば近くの蕎麦屋で一杯飲んで帰る、仕事以外の日でも一緒にカラオケを楽しむなど、日常的な交流も盛んになっていきました。生きがい就労に勤しむ高齢者からは、「仕事を再び始めてから健康になった」、「毎日にハリが戻った、リズムがよくなった」など、健康面や生活面でのプラスの効果を耳にします。

 この事例は、地域(自治体)が孤立化する高齢者の「人と人」、「人と地域」の“つながりの再生”を目指した話です。高齢期の新たなつながり方として、「就労に再び勤しむこと」は方法の一つであり、地域でのそうした場の拡大が必要です。人生100年をより豊かなものにしていくための一つの視点として参考になれば幸いです。

  • 当事例の詳細は、前田展弘「セカンドライフ支援事業の軌跡〜柏市生きがい就労事業の成果と課題〜」(ニッセイ基礎研Report,2013.6.23)を参照ください。

(ニッセイ基礎研究所 前田 展弘)

筆者紹介

前田 展弘(まえだ のぶひろ)

株式会社ニッセイ基礎研究所 生活研究部 主任研究員
研究・専門分野:ジェロントロジー(高齢社会総合研究)