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3分でわかる 新社会人のための経済学コラム

第144回 2050年にカーボン・ニュートラル実現 日本は2030年までに2013年度比で46%削減を目指す

2022年2月14日

脱炭素化に急旋回する世界

 温室効果ガスの排出をゼロにする「カーボン・ニュートラル」実現に向けた取組みが、世界で加速しています(図表1)

 世界第1位の温室効果ガス排出国である中国は、2020年9月の国連総会において、習近平国家主席が「2060年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする」ことを宣言し、世界第2位の排出国の米国も、2021年4月の気候変動サミットにおいて、バイデン大統領が「2050年までの実質ゼロ」を表明しています。

 また、これまで期限の設定を頑なに拒んできた、世界第3位の排出国であるインドも、11月の国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)において、モディ首相が「2070年までの実質ゼロ」を宣言し、脱炭素化の取組みを加速することを明らかにしています。更に、脱炭素化の先頭を走る欧州は、「2050年までの気候中立」の達成を、EU域内で拘束力のある目標として法制化しています。脱炭素化の潮流は、確実に世界に広がってきたと言えるでしょう。

 各国で取組みが加速する中、世界第5位の排出国である日本もまた、2020年10月に「2050年までの実質ゼロ」を宣言し、米国主催の気候変動サミットに合せて、2030年度の中間目標を、「2013年度比26%削減」から「46%削減」に大きく引上げています。この目標は、簡単に取下げることができないよう法制化され、国策として強力に推進することが明確化されています。今後、この目標の実現に向けて、具体的な成果が問われることになります。

(図表1)主要排出国の削減目標

脱炭素化の背景にコロナ危機

 今般のコロナ危機では、テレワークや飲食デリバリーなどが急速に普及し、私たちの生活は大きく変わりました。そして、世界の脱炭素化もまた、コロナ危機を経て、大きく変わろうとしています。その変化を象徴するのが「グリーン・リカバリー」です。

 グリーン・リカバリーは、環境を重視した投資やインフラ整備により、コロナ危機からの復興を実現しようとする経済対策です。これまで、感染防止の観点から導入されてきた行動制限は、多くの国で生産活動を抑制し、平時としては大恐慌以来最悪の景気後退となりました。そのような経済を立直すには、大規模な資金を投じた強力な経済対策が不可欠であり、その政策の方向性として「持続可能な社会」への転換が掲げられたことが、今般の脱炭素化の加速につながっています。

産業政策と結びついた環境対策

 各国は、持続可能でレリジエントな社会を構築するため、様々な政策を打ち出しています。

 例えば、欧州では、気候変動対策と経済成長の両立を目指す成長戦略「欧州グリーン・ディール」が打ち出され、10年間で1兆ユーロ(約130兆円)の資金を投じることが計画されています。また、米国では、電気自動車の充電施設の整備や、グリーン水素などの次世代技術への投資計画が盛り込まれた「インフラ法案」が成立し、原案どおりの成立は流動的になりつつありますが(1月時点)、10年間で5,550億ドル(約63兆円)の気候変動対策を含む、「ビルド・バック・ベター法案」も審議されています。そして、日本でも「グリーン成長戦略」に基づく、2兆円の「グリーンイノベーション基金」が造成され、国を挙げた研究開発が促進されようとしています。

 これらの政策は、環境対策だけでなく産業政策としての側面もあることから、アフターコロナの成長力を左右するものとして、今後、その成否に注目が集まると思われます。

(ニッセイ基礎研究所 鈴木 智也)

筆者紹介

鈴木 智也(すずき ともや)

株式会社ニッセイ基礎研究所、総合政策研究部 准主任研究員
研究・専門分野:日本経済・金融