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3分でわかる 新社会人のための経済学コラム

第142回 2050年に温暖化ガスの排出量を実質ゼロへ

2021年12月29日

2050年に温暖化ガスの排出量を実質ゼロへ

 岸田首相は2021年10月8日、所信表明演説で成長戦略の第1の柱として示した「科学技術立国の実現」に向け、「2050年カーボンニュートラルの実現に向けて温暖化対策を成長に繋げる『クリーンエネルギー戦略』を策定し、強力に推進する」と宣言しました。

 カーボンニュートラルとは、温暖化ガスの排出量と自然による吸収量を等しくすることにより温暖化ガス(※1)の排出量を実質ゼロにする取組みのことです。日本だけの目標ではなく、120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」の目標を掲げており、大胆な投資に動き始めています。

(※1) 温暖化ガスは二酸化炭素に限らず、メタン、一酸化二窒素、フロンガスが含まれる。

 世界的にESG(環境・社会・ガバナンス)の存在感が急速に高まるなか、日本はグリーン投資において後塵を拝してきましたが、今後は温暖化対策に積極的に取組むことにより産業構造や経済社会の変革をもたらし、経済成長へとつなげようとしています。

 菅前政権では、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた具体的な実現案として2020年末に「グリーン成長戦略」を発表しました。グリーン成長戦略では、目標達成に不可欠な重点分野ごとに実行計画や工程表が示されており、政府としてはグリーンイノベーション基金や投資促進税制、規制改革などあらゆる政策を総動員して企業の前向きな挑戦を後押しする考えです。

 これに対して、岸田首相は自民党総裁選において、再生可能エネルギーの一本足打法ではない、原発再稼働などを含む『クリーンエネルギー戦略』を策定し実行すると表明しています。また2021年10月の衆議院総選挙では、自民党の選挙公約に原発の再稼働だけではなく、小型原子炉や研究段階にある核融合炉の実用化に向けた開発推進が盛込まれました。今後はクリーン・エネルギーのひとつの選択肢として原発の再稼働を認める判断が下されるか、また原子力産業の更なるイノベーションが促進されるかどうか注目されます。

図表1:2050年カーボンニュートラルへの転換イメージ

(資料) 資源エネルギー庁HP
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/carbon_neutral_02.html新しいウィンドウ

先進国を中心に進められているカーボンプライシングとは

 温暖化ガス排出削減のための有効な政策ツールの1つとして、カーボンプライシングの導入が先進国を中心に進められています。カーボンプライシングは排出された炭素がもたらす経済的なコストを見える化し、炭素を排出する企業や家計に負担を求める制度です。各国では炭素税や排出量取引、クレジット取引など様々なパターンの仕組みが導入・検討されています。日本では既に全国規模で炭素税が課されているほか、東京都と埼玉県では排出権取引が導入されています。

 カーボンプライシングを巡っては、排出削減に取組む企業や個人の努力が報われる一方で、エネルギーコスト上昇による国際競争力の低下、企業の投資やイノベーションの原資が奪われる可能性などが懸念されています。こうした懸念点についてどのように配慮すべきか、引続き議論を深めていくことが求められています。

(ニッセイ基礎研究所 斉藤 誠)

筆者紹介

斉藤 誠(さいとう まこと)

株式会社ニッセイ基礎研究所、経済研究部 准主任研究員
研究・専門分野:東南アジア経済、インド経済