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3分でわかる 新社会人のための経済学コラム

第141回 若者の○○離れが叫ばれるが、30代の持ち家率は52%に上昇

2021年11月1日

若年化するマイホーム購入

 若者の○○離れという言葉を聞いたことがあると思います。代表的なものでは、車離れ、新聞離れ、テレビ離れ、アルコール離れなどです。若者は、シェアリングサービスや、サブスクリプションサービス、無料のネットサービスといった安価で高品質なサービスをうまく使うことで、お金をあまりかけなくても、以前よりもハイレベルな消費生活を送っています。また、20〜30代の男性の飲酒習慣率は、20年前と比べておよそ半分程度にまで下がっており、価値観の変化からお金の使い道も変わってきています(※1)

 一方で、マイホームについては、未だ根強い支持を得ており、前述の○○離れとは打って変わり購入が拡大しています。国勢調査によると、30代の持ち家率は、1990年は47%で、1995年に44%に低下したのち、2015年には52%まで上昇しています。40代以上の持ち家率は大きく変化しておらず、住宅購入の年齢が若年化していることがわかります。

 また、マンション価格高騰を主因に住宅用不動産価格が上昇し、一世帯あたりの住宅ローンの借入額も増加しています。家計調査によると、30代の住宅ローン返済世帯における一世帯あたりの住宅・土地のための負債額は、2009年は1,962万円でしたが、2020年には2,522万円になっています(※2)

(※1) 厚生労働省「国民健康栄養調査」より。飲酒習慣率は、週3日以上、1日1合以上飲酒する割合
(※2) 二人以上勤労者世帯。住宅ローン返済世帯における一世帯あたりの住宅・土地のための負債額=住宅・土地のための負債額÷住宅ローンを支払っている世帯の割合により算出

持ち家率

マイホーム購入を後押しする要因

 若者の住宅購入が拡大した背景には、子育て世帯の持ち家ニーズ上昇に対して、金融緩和による金利の低下や、銀行の住宅ローンビジネスの積極化により、住宅ローンを利用しやすい環境が合致したことが考えられます。また、消費税率の引上げに対する駆込み需要や、住宅ローン税制の拡充も若年層の住宅取得を後押ししたと思われます。現在、住宅ローンの借入残高に対して最大1%の減税措置が実施されており、当初の実質的な借入金利は、場合によってはマイナスになっています。

若者の住宅ローンにおける注意点

 低金利や、住宅ローン減税などの政策により、住宅市場が活況を呈しているのは喜ばしいことですが、その担い手となっている30代はローンの返済期間が長く、様々なリスクに直面する可能性があることには注意が必要です。

 例えば、現在住宅ローンの主流となっている変動金利は、固定金利と比べ当初の金利は低いですが、金利上昇時には支払利息が増加するリスクを抱えます。また、女性の社会進出により1世帯あたりの可処分所得が増加し、家計収支が改善されていますが、女性配偶者は雇用が不安定な非正規での就業が多く、今後の景気動向次第では失業リスクを伴います。更に、早期に住宅を取得すると、老朽化による修繕費が高くなる可能性もあります。

 マイホームを購入しやすい環境が続いていますが、将来のリスクを見極め、計画的に住宅ローンを返済するための素養を身につけることも必要です。

(ニッセイ基礎研究所 清水 仁志)

筆者紹介

清水 仁志(しみず ひとし)

株式会社ニッセイ基礎研究所、総合政策研究部 研究員
研究・専門分野:日本経済、労働市場