
2021年8月2日
政府が目指すデジタル社会のビジョン
菅義偉首相は、「デジタル」をポストコロナの成長を生み出す原動力の1つとして挙げています。政権の重要課題や予算編成に関する今後の指針となる、2021年の骨太の方針では、「デジタル時代の官民インフラを今後5年で一気呵成に作りあげる」との方向性が示されました。政府は、「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」をデジタル社会の目指すビジョンとして掲げます。このビジョンのもとで、政府はどのようなデジタル社会の実現を目指すのでしょうか。
2020年12月に公表された、「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」によると、「国民の幸福な生活の実現」「誰一人取り残さないデジタル社会の実現」「国際競争力の強化、持続的かつ健全な経済発展の実現」の3点が目指す社会像として示されています。
デジタル庁を中心とした体制へ
デジタル社会の実現に向けた取組みとしては、「デジタル庁」の設置が広く知られているのではないでしょうか。9月1日に発足する予定のデジタル庁は、内閣総理大臣を長とする内閣直属の組織として、デジタル社会の形成に関する司令塔となることが期待されています。
デジタル庁は、「デジタル社会の形成に関する行政事務の迅速かつ重点的な遂行を図ること」を任務として、デジタル社会形成に関する施策における、①総合調整、②企画・立案、③統括・管理、C自らによる重要なシステムの整備、を担います。これまでのデジタル化に関する取組みは、各省庁や地方自治体によってバラバラに進められていたこともあり、コロナ禍によってデジタル化の遅れが明らかになる結果となってしまいました。政府は、司令塔としてのデジタル庁と、各府省庁の連携体制を整備することで、いわゆる縦割り行政からの脱却を目指しています。
私たちの生活への影響は?
2021年の通常国会では、デジタル庁設置法案を含めた、デジタル改革関連6法案が成立しました。これにより、デジタル社会の形成に関する基本理念が定められたり、データの利活用に向けた体制が整備されたりするなど、デジタル社会に向けた環境が整備されています。
これらの取組みによって、私たちの生活にはどのような好影響が期待されるのでしょうか。6月18日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」によると、今後、マイナンバーの利活用促進が一層推進される計画です。また、行政手続の更なるデジタル化・オンライン化の取組み等、私たち国民の視点に立った、ユーザー体験価値の改善等を実現すると示されています。(図表)


一方で、デジタル庁を中心に、今後政府が解決しなければならない課題も多いです。例えば、政府はマイナンバー制度をデジタル社会の基盤の1つに据えていますが、現在のマイナンバーカードの普及率は約30%にとどまっています。普及に向けては、政府がマイナンバーカードを持つことによるメリットを一層充実させ、その必要性を丁寧に説明していくことが重要となるでしょう。また、デジタルデバイド(※1)の問題やサイバーセキュリティ対策、データ利活用の際の個人情報の保護なども、解決しなければならない課題です。デジタル庁の設置を契機に、今後、デジタル社会の形成に向けた一層の取組みが進められることが期待されます。
(※1) |
インターネット等の情報通信技術を活用できる人とそうでない人の間に生じる情報格差 |
(ニッセイ基礎研究所 坂田 紘野)
筆者紹介
坂田 紘野(さかた こうや)
株式会社ニッセイ基礎研究所、総合政策研究部 研究員
研究・専門分野:日本経済