1. 日本生命保険トップ
  2. 知る・楽しむ
  3. 新社会人のための経済学コラム
  4. 第132回 基準地価格は3年ぶり下落

3分でわかる 新社会人のための経済学コラム

第132回 基準地価格は3年ぶり下落

2021年2月1日

「商業地」は5年ぶりに下落、「住宅地」は29年連続で下落

 国土交通省「令和2年都道府県地価調査(※1)」によれば、2020年7月1日時点の「基準地価格」(全国・全用途平均)は前年比▲0.6%と、3年ぶりに下落しました(図表1)。用途別にみると、「商業地」(全国平均)は前年比▲0.3%と、5年ぶりに下落し、「住宅地」(全国平均)は前年比▲0.7%と、29年連続で下落しました。

(※1)国土利用計画法施行令に基づき、各都道府県知事が毎年7月1日時点における基準地の1㎡あたりの価格の調査し公表するもの。価格を求める地点を「基準地」、求める価格を「基準地価格」という。全国約21,500地点を対象に実施。

この1年間の前半(2019年7月1日〜2020年1月1日)は、訪日外国人数の増加に伴いホテルや店舗の開発が見込まれる地域等を中心に地価の上昇が続きました。しかし、後半(2020年1月1日〜2020年7月1日)は新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言の発令や訪日外国人の激減等により、一転してこうした不動産への需要が弱含んだことで、「横ばい」あるいは「下落」に転じた地域が増加しています。

図表1:基準地価格の変動率

(出所) 国土交通省「都道府県地価調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成
  注) 「変動率」とは前年度から継続している基準地の価格の対前年変化率。用途別平均値はその単純平均値。

36都道府県で「商業地」、「住宅地」ともに下落

 地価の変動率を都道府県別にみると、「商業地」、「住宅地」ともに下落した地域は、昨年の「25」から「36」へと大幅に増加しました。また、「商業地」、「住宅地」ともに上昇した地域は、昨年の「14」から「4」(宮城県、東京都、福岡県、沖縄県)に減少しています(図表2)

 最も上昇率が高かった都道府県は、「商業地」、「住宅地」ともに沖縄県でした。ただし、沖縄県においても、観光客の大幅減少に伴うホテル稼働率の低下や飲食店の一部閉店など、観光産業を中心に県内経済が大きな打撃を受けており、「商業地」の上昇率は+6.2%(昨年+12.0%)、「住宅地」の上昇率は+4.0%(昨年+6.3%)となり、上昇の勢いが減速しています。

図表2:基準地価格の変動率(都道府県別)

(出所) 国土交通省「都道府県地価調査」をもとにニッセイ基礎研究所作成
  注) 「変動率」とは前年度から継続している基準地の価格の対前年変化率、都道府県別平均値はその単純平均値。

地価は、私たちの生活にも関係する指標

 ところで、「都道府県地価調査」は、「地価公示(※2)」とともに、公共事業において用地を取得する場合や、「相続税」や「贈与税」、「固定資産税」を算出する際の土地価格の評価基準となります。
「相続税」は亡くなった方から遺産を相続したときにかかる税金、「贈与税」は生存する方から財産をもらったときにかかる税金です。土地等を譲り受けた際にかかる「相続税」や「贈与税」は、毎年7月に国税庁より公表される「路線価」をもとに計算され、その「路線価」は「地価公示価格」の80%程度を目途としています。

 また、「固定資産税」は土地や住宅等を所有した際にかかる税金で、「固定資産税評価額」をもとに計算します。「固定資産税評価額」は「地価公示価格」の70%程度を目途とし、3年ごとに評価額の見直しが行われており、次回は2021年を予定しています。

 このように、地価は土地等を譲り受けた場合や所有している場合にかかる税金に関係しており、私たちの生活にも関係する指標だと言えます。

 2020年7月に公表された「路線価」は、2020年1月1日が基準日でした。前述の通り、地価は基準日まで上昇基調にありましたが、新型コロナウィルス感染拡大に伴いその後の下落が予想されました。そのため、国税庁は、「都道府県地価調査」(9月公表)で広い範囲で地価の大幅な下落(前年比▲20%以上)が確認された場合、「路線価」の補正を行う旨を発表しており(※3)、「都道府県地価調査」の結果に対して世間の注目が集まりました。

 なお、「都道府県地価調査」では、「横ばい」あるいは「下落」に転じた地域が増加したものの、大幅な地価の下落は認められませんでした。そのため、国税庁は10月に2020年1月から6月までの間に発生した「相続税」や「贈与税」の評価では補正を行わないことを公表しました(※4)。ただし、今後、大幅な地価下落が確認された場合は、あらためて補正等の対応を行うとしています。

 新社会人となる皆様は、これからの人生において不動産の購入や相続などを経験することになりますが、その際には、地価に関する理解を深めるとともに、その動向に十分留意したうえで、適切な対応をしていただければと思います。

(※2) 地価公示法に基づき、国交省の土地鑑定委員会が適正な地価の形成に寄与するために、毎年1月1日時点における標準地の正常な価格を3月下旬に公示するもの。価格を求める地点を「公示地」、求める価格を「地価公示価格」という。
(※3) 国税庁「令和2年分の路線価等について」
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2020/rosenka/index.htm
(※4) 国税庁「令和2年分の路線価等の補正について」
https://www.nta.go.jp/about/organization/nagoya/release/r02/rosenka/06201003.htm

(ニッセイ基礎研究所 吉田 資)

筆者紹介

吉田 資(よしだ たすく)

株式会社ニッセイ基礎研究所、金融研究部 主任研究員
研究・専門分野:不動産市場、投資分析