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第139回 日本は2025年までにキャッシュレス決済比率40%を目指す

2021年9月1日

日本は2025年までにキャッシュレス決済比率40%を目指す

 日本政府は2020年7月に閣議決定された「成長戦略フォローアップ」の中の「決済インフラの見直し及びキャッシュレス環境の整備」において、「2025年までに、金融分野の国内総生産を25兆円」「2025年6月までに、キャッシュレス決済比率を倍増し、4割程度」とする2つのKPI(重要業績評価目標)を掲げています。キャッシュレス化を含む決済インフラの高度化が日本の成長戦略において主要なテーマになっているのです。

決済インフラ高度化の利点

 現金以外の電子決済の占める割合が高まって決済インフラが進展すると、社会全体で商品やサービスを購入する際の効率性が高まることが期待できます。現金決済では物理的に硬貨・紙幣をやり取りすることで取引が完了しますが、電子決済では電子データを記録することで取引が完了することになります。

 商品やサービスの購入時にクレジットカードやデビットカードなどのキャッシュレス決済を用いると、消費者は金融機関の窓口やATM から現金を引出して持ち運ぶ必要がなくなります。物やサービスを提供する小売業者にとっても現金の管理・運搬に関する手間を削減することができます。つまり、キャッシュレス化によって、現金を管理・運搬する際の紛失や盗難のリスクが低減します。

 例えば、補償や保険が付帯しているクレジットカードや記名式の電子マネーであれば、偽造や不正使用によるリスクを低減でき、電子データがお互いの帳簿に記録されることで、資金管理のコストも削減されます。そのため、消費者はカード決済や電子マネーの利用状況を電子データで確認し、家計簿ソフト等を活用することで容易に資金管理が行えるようなサービスを安価で利用することができます。

 小売業者サイドも現金取扱業務にかかる人件費や経費を効率化して商品開発やマーケティングといった業務に人員や経費を再配分することが可能になるだけでなく、大量の購買データ(どの属性の人が、どこで、なにを、どのくらい購入したか)を容易にかつ正確に入手することができるようになります。また、位置データ等も組合せると、消費者行動をビッグデータ分析することで消費活動を活性化させ、収益向上を狙うといったことも可能になります。

 ビッグデータ分析による消費活性化以外の面でも、キャッシュレス化は経済活性化に寄与するとの指摘があります。現金決済の場合、消費者の予算は財布の中にある硬貨・紙幣の総額に制約されますが、キャッシュレス決済を活用できる場合は、金融機関に預けている預貯金にクレジットカードの与信枠を加えた総額にまで予算制約が拡大することになります。それに加えて、キャッシュレス決済はオンラインショッピングのようなデジタルエコノミーと親和性が高いと言えます。そのため、消費者がキャッシュレス決済を用いる際の物やサービスを購入する選択肢は、消費者自身が移動可能な距離の範囲にある実店舗にとどまらず、インターネットでアクセスできる範囲にまで大幅に拡大することになります。

 更に、昨今は公衆衛生上の観点でもキャッシュレス決済が注目されています。新型コロナウイルス感染症の拡大の最中、オンラインサービスの需要が伸びているだけではなく、社会的距離(ソーシャルディスタンス)を維持するのが難しい実店舗内においても、決済端末周辺での現金等のやりとりに伴う飛沫感染や接触感染に対する懸念から、非接触でかつ短時間で決済できるキャッシュレス決済の利用が増えています。キャッシュレス化の進展は、コロナ禍における経済活動の維持にも貢献していると言えるでしょう。

 また、早ければ2021年中には給与のデジタル払いが解禁される可能性が高まっています。もし実現すれば、給与が従業員のもつスマートフォンアプリの決済サービスに直接振込みできるようになります。スマートフォンアプリの決済サービスを頻繁に利用する人は、わざわざチャージする手間を省くことができるようになるかもしれません。

 このように、キャッシュレス化も含めて決済のデジタル化は、消費者の利便性向上や店舗における現金取扱業務の効率だけでなく、データ利活用によって消費活性化にも寄与し、日本の経済成長が実現すると期待されているのです。

日本のキャッシュレス化の進展状況

 政府は2025年の大阪万博までにキャッシュレス決済比率 を40%とするKPIを掲げています。KPIを40%としているのは、この政策が掲げられた時点で、データが収集可能な国々のキャッシュレス決済比率の平均値が約40%であったためです。

 2020年のキャッシュレス決済比率を計算すると、30%にまで達したものと見られます(図表1)。日本では徐々に現金が使用されなくなっており、クレジットカード決済が牽引する形でキャッシュレス化が進展しています。ここ2〜3年は年率3%程度でキャッシュレス決済比率が上昇しています。このままのペースで上昇していくと、目標の40%の実現も見えてきます。

 新型コロナウイルス感染症拡大に伴って、日本と同様に海外でもキャッシュレス化が進展したと指摘されています。新型コロナウイルス感染症の感染拡大が収束すれば、また海外からの観光客が数多く日本に訪れることになるでしょう。海外からの観光客が日本国内にて商品やサービスを購入しやすい環境を作る観点でも、キャッシュレス決済のインフラ整備は、コロナ後の経済回復や消費活性化を占う意味で重要な条件の一つになるでしょう。

図表1:キャッシュレス決済比率の推移

(資料:内閣府、キャッシュレス推進協議会、日本銀行、日本クレジット協会のデータから作成)

 一方で、キャッシュレス化が進展すると、浪費が増えるのではないかと懸念する声があります。現金決済とは異なり、キャッシュレス決済だとお金を使っている実感に乏しいと考える人が多いようです。海外の研究では、特に先進国においてキャッシュレス化が進展すると消費が増えるという関係性がみられます。キャッシュレス化などの決済インフラの高度化の利益を社会で共有していくうえで、消費者サイドも家計簿ソフト等で定期的にモニタリングするなどして賢く利用していくことで、お金のデジタル化の波にうまく対処していく必要があると思います。

(ニッセイ基礎研究所 福本 勇樹)

筆者紹介

福本 勇樹(ふくもと ゆうき)

株式会社ニッセイ基礎研究所、金融研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター兼任
研究・専門分野:金融市場・決済・価格評価