2019年5月、仮想通貨の管理などに関する規制強化策が盛込まれた「改正資金決済法」が成立したことに伴い、ビットコインなどインターネット上でやり取りされる「仮想通貨」の名称は、「暗号資産」に改められています。リブラは、そのような暗号資産の1つであり、米国SNS大手フェイスブック社が開発を進めるデジタル通貨です。
最大の特徴は、ドルや円など信認の高い通貨建てによる、短期国債や預金などの安全資産を裏づけとして持つことにより、通貨としての「価値の安定」と「信用力」の向上を図っていることにあります。
2020年2月3日
2019年5月、仮想通貨の管理などに関する規制強化策が盛込まれた「改正資金決済法」が成立したことに伴い、ビットコインなどインターネット上でやり取りされる「仮想通貨」の名称は、「暗号資産」に改められています。リブラは、そのような暗号資産の1つであり、米国SNS大手フェイスブック社が開発を進めるデジタル通貨です。
最大の特徴は、ドルや円など信認の高い通貨建てによる、短期国債や預金などの安全資産を裏づけとして持つことにより、通貨としての「価値の安定」と「信用力」の向上を図っていることにあります。
また、リブラは安定性を重視した設計となっているため、投機中心で価格の変動が大きくなってしまった既存の暗号資産(ビットコインなど)に比べて、実際の支払い手段として利用される可能性の高い通貨であると言えます。リブラが実際に発行されれば、フェイスブックのアクティブ・ユーザー23.2億人(世界人口の約3割)の利用が見込まれることから、規模の面でも既存の暗号資産を凌駕すると見られています。
具体的なリブラの仕様については、フェイスブック社が公表した「ホワイトペーパー」に記載されています。リブラの運営は、独立した非営利団体の「リブラ協会」が担うことになり、個人や企業などの一般利用者は、協会が認定した再販業者を通じて、ドルや円などの法定通貨をリブラと交換することになります。そして、交換された法定通貨は、準備資産として主要国の国債や通貨に分散投資されて、安定的に運用されることでリブラの安定性を高めます。また、ビットコインは発行量を制限したことで投機を招き、価格の乱高下が起きたとの教訓から、リブラでは需要に応じて供給量を柔軟に調整する仕組みが取入れられています[図表1]。
リブラを巡っては、各国規制当局が自国通貨への影響を警戒し、厳しい姿勢を示しています。2019年6月にフェイスブック社からリブラ計画が公表されると、米国議会はリブラ開発責任者やマーク・ザッカーバーグCEOを相次いで公聴会に招き、様々な観点から懸念を表明しています。また10月には、G20が「グローバル・ステーブルコインに関するG20プレスリリース」を公表し、リブラなどのデジタル通貨には「深刻なリスク」があり、厳格な規制を導入していく必要があるとして、リブラの発行を当面認めない方針を示しています。フェイスブック社は、これを受けて当初2020年上期としていたリブラ開発計画を事実上取下げ、規制当局との調整を進める方針に転換しています。
リブラへの風当たりは強まる一方で、リブラ構想は中央銀行によるデジタル通貨(CBDC)発行に向けた議論を活性化させています。実際、中国では人民銀行(PBoC)の関係者から「デジタル人民元」に関する発言が相次ぎ、デジタル通貨開発が進む現状をうかがわせています。また欧州では、欧州連合(EU)が欧州中央銀行(ECB)に対してCBDC発行を検討するように働きかけ、ECBは具体的な検討に着手することを表明しています。今のところ、米国や日本は慎重な姿勢を示していますが、調査研究自体は進めている状況にあり、主要国の動向次第では、積極的な姿勢に転じることもありそうです。
なお、フェイスブック社が公表したリブラ構想も、立消えになった訳ではありません。2019年6月時点の「ホワイトペーパー」には、リブラの準備資産から生まれる利息配当などの収益は出資者に分配され、一般利用者には還元されない仕組みとされていましたが、現在では、その記述は削除されています。これは、フェイスブック社が当局からの指摘に柔軟に対応する用意があることを示すものであり、リブラ発行の実現を諦めていないことを示唆しています。
デジタル通貨には、マネーロンダリングの問題や個人情報保護に関する問題、金融システムの安定性に関わる問題など、検討すべき課題が多く残されています。しかし、リブラ構想が示した「何十億もの人々に力を与えるシンプルで国境のないグローバル通貨と金融インフラを実現する」という理想は魅力的です。今後出てくるデジタル通貨が世界をどのように変えるのか、私たちは注目して見ていく必要があるでしょう。
(ニッセイ基礎研究所 鈴木 智也)
鈴木 智也(すずき ともや)
総合政策研究部 研究員・経済研究部兼任
研究・専門分野:日本経済・金融