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3分でわかる 新社会人のための経済学コラム

第117回 進む高齢者の就業〜もうすぐ70歳まで働く時代がやってくる?

2019年11月1日

政府の掲げる「70歳までの就業機会確保」

 今年の6月に閣議決定された「成長戦略実行計画」では、人生100年時代を見据え、希望する高齢者に対し70歳までの就業機会の確保が盛り込まれました。
 現行の高年齢者雇用安定法では、事業主は定年を定める場合は、60歳以上にしなければいけません。さらに、65歳未満に定年を定めている場合は、65歳までの安定した雇用を確保するために、①定年制の廃止、②定年の引上げ、③継続雇用制度(再雇用制度)導入のうち、いずれかの措置を実施することが義務付けられています。

 今回の70歳までの就業機会の確保に向けた改正案では、労働者を同じ企業で継続して雇用することを義務化した上記の三つの選択肢に加えて、65歳から70歳までは、社外でも就労機会が得られるように、④他企業への再雇用支援、⑤フリーランスで働くための資金提供、⑥起業支援、⑦NPO活動などへの資金提供、という選択肢を追加しました(図表1)。

図表1:70歳までの就業機会確保に向けた選択肢

(資料)内閣府資料をもとにニッセイ基礎研究所作成

高齢者の労働市場参加を奨励する2つの背景

 高齢者の労働市場参加を促す最大の理由は、少子高齢化の進展による労働力不足への対応です。日本の人口は2008年にピークを迎え、以降減少に転じています。特に、生産活動の中心となる15〜64歳の生産年齢人口の減少が著しく、一方で寿命の延伸により65歳以上の高齢者の人口は増加しています。今後、ますます労働を担う人口が減少していく中、政府は、定年延長により高齢者の労働を促すことで、経済の活性化を目指しています(図表2)。

図表2:年齢別の人口推移

(資料)国立社会保障・人口問題研究所

 政府が定年延長を推進するもう一つの大きな理由は、社会保障制度の持続可能性の拡大です。2018年度の年金、医療、介護などに充てられた社会保障給付費は121.3兆円で、高齢者人口がピークを迎える2040年度には約190兆円に達すると推計されています(図表3)。

 このままだと、社会保障制度を支えている生産年齢人口は減少しているのに、主な給付対象である高齢者だけが増加し、社会保障制度を維持することが難しくなります。そこで、政府は定年延長を推進することによって、社会保障制度を支える人口を増やし、社会保障財政の安定化を志向することになったのです。

図表3:社会保障給付費の見通し

(資料)内閣府資料をもとにニッセイ基礎研究所作成

高齢者の就業促進に向けた課題

 約30年前まで定年が55歳であったことを考えれば、ここ最近の定年延長の動きは非常に早く、70歳まで働くことが非現実的だと感じる人もいるでしょう。しかし、2018年時点の70歳の就業率は36%に達し、既に3人に1人は70歳まで働いています。そして、今回の70歳までの就業機会の確保に向けた法律の改正より、更に多くの人が、より長く働くことになるでしょう。
 今後は、いかに高齢者が活躍し、日本経済にプラスとなるような就労環境を作り出すことができるかが重要です。現在の65歳までの就業機会の確保に向けた措置内容を見ると、8割近い企業が「継続雇用制度」を導入しています。つまり、現状では60歳を境に正社員から嘱託やパート・アルバイトなど非正規型の雇用形態に変わる可能性が高いということです。賃金水準は大きく低下し、本人の貢献度よりも低い賃金しか支払われない可能性もあります。こうしたことは、高齢者の働く意欲の低下を招くとともに、職場の生産性にも少なからず影響を及ぼしていることが懸念されます。こうした課題を乗越え、生涯にわたって満足感を持って働くことができるような柔軟な制度設計が必要です。

(ニッセイ基礎研究所 清水 仁志)


筆者紹介

清水 仁志(しみず ひとし)

株式会社ニッセイ基礎研究所、総合政策研究部 研究員・経済研究部兼任
研究・専門分野:日本経済