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3分でわかる 新社会人のための経済学コラム

第112回 電子タグ1,000億枚で流通が変わる

2019年6月3日

電子タグ1,000億枚で流通が変わる

 2019年2月に経済産業省において「電子タグを用いた情報共有システムの実験」が行われました。この実験の背景として、コンビニエンスストア等で取扱っている商品全てに電子タグを貼付して、サプライチェーン(メーカー、物流センター、卸売り、店舗)間で「特定の商品がいつ、どこに、何個あるのか」に関するデータの共有化について、国内で環境整備していくことがその目的です。これらのサプライチェーン間で流通に関するデータを共有化することで、様々な社会課題に対応できることが期待されています。

 例えば、仮にメーカーが欠陥のある商品を製造してしまった場合であっても、電子タグの情報をたどることによって、その商品が物流センターにあるのか、店舗の棚にあるのか、販売済みで消費者の元にあるのかなど、正確に把握することができるようになります。そのため、欠陥商品の回収にかかる時間をこれまでよりも短縮することが可能になるでしょう。

 また、店舗において電子タグを活用することで、セキュリティゲートを設置して万引き防止を図りつつ無人レジを導入することが実現できるかもしれません。日本は少子高齢化による人口減少社会の到来への対処が課題であり、特に店舗では人手不足問題をデジタル化による人員配置の効率化によって解決していく必要があります。電子タグは店舗における現金取扱業務や棚卸し業務だけではなく、発注・受領・請求といった業務の効率化も期待できます。

 経済産業省では、2017年4月に「コンビニ電子タグ1,000億枚宣言」を策定し、2025年までに大手コンビニエンスストアは電子タグ1,000億枚(年間)を貼付することで合意しています。

食品ロス問題への対処も

 電子タグの活用実験では食品ロス問題の解消も重視されています。消費者庁によれば、日本では年間2,842万トンの食品廃棄物等があり、このうち、まだ食べられるのに廃棄される食品(いわゆる「食品ロス」)は646万トンあります。この食品ロスを国民一人当たりに換算すると「お茶腕約1杯分(約139g)の食べもの」が毎日捨てられている計算になります。このような食品ロス問題を解消していくには、消費者の需要を適正に把握して、供給量を調整していく必要があります。

 先述の電子タグを用いた実験では、家庭モニターを募って冷蔵庫内に電子タグの読取り機を設置して、モバイル端末で冷蔵庫内の在庫情報も共有できるかどうかについても確認しています。サプライチェーン間でこのようなデータを共有することができれば、ある街全体の冷蔵庫内の保管状況について、メーカーから店舗まで認識するようなことも実現できるでしょう。例えば、街全体の冷蔵庫の中身を分析して特定の商品に関する過不足状況を把握できれば、メーカーや卸売りはその商品について過剰な量をその街にある店舗に対して供給する必要がないことが分かります。

 また、先述の実験では、個人を特定しない範囲で購買履歴データ(だれが、いつ、どこで、なにを、何個買ったか)などと組合せることで、個人の嗜好に合わせた販促方法についても検討が行われました。例えば、個人の冷蔵庫内の情報と購買履歴データを紐付けることができれば、冷蔵庫内に不足しているものを特定して、その商品に関する広告をモバイル端末に送信して、購買意欲を高めることも実現できるかもしれません。さらに、店内で買い物をしている消費者のモバイル端末に対して、消費期限が短い商品を購入するとポイント還元や割引が受けられることを知らせる広告を送信して購買を促進することができれば、食品ロス問題の解消に寄与すると考えられます。

電子タグにも便利だが解決すべき問題も

 以上のように、電子タグを全ての商品に貼付することで、流通が大きく変わり、返品や食品ロスといった社会課題を解決できるのではないかと期待されています。一方で、電子タグにも解決すべき問題点がいくつかあります。

 一つめは電子タグが高価であるという点です。電子タグの単価が10円から20円程度で、現実的には商品単価が高い商品での活用に限られます。コンビニエンスストアで販売される単価の低い商品も含めて全てに貼付していくには、電子タグが低価格で活用できる必要があります。

二つめはメーカーからの出荷段階で全ての商品に電子タグを貼付する技術が求められる点です。

 他にも、各サプライチェーンにおいて電子タグで正確に読取りを行うためのカメラやセンサー技術を確立するだけではなく、冷蔵庫内で保管する商品以外にも消費者における保管状況をサプライチェーンも含めて共有する方法についても求められるでしょう。一方で、個人情報の流出を懸念する消費者に対して、このような流通データを利活用することについて理解を求めていくことも必要になります。

【参考資料】

(ニッセイ基礎研究所 福本 勇樹)


筆者紹介

福本 勇樹(ふくもと ゆうき)

株式会社ニッセイ基礎研究所
金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任
研究・専門分野:リスク管理・価格評価