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3分でわかる 新社会人のための経済学コラム

第107回 副業がある者の割合はわずか4.0%, 追加就業希望者の割合は6.4%

2019年1月16日

政府が副業の普及促進を図る

 最近、日本では副業・兼業(以下、副業)という働き方が再び注目を集め始めています。既存の副業は、農林水産業者の兼業とアルバイトの兼職、所得を補填するための手段として多く行われていたものの、最近では所得補填の手段に加えて、自己実現及び一つの会社に依存するリスクを回避するために副業が実施される等、その目的が多様化しています。政府も「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を作成する等、副業を普及させるための支援を行っています。今後、副業は日本社会にどのように定着するのでしょうか。

 安倍首相を議長とする働き方改革実現会議では、2017年3月28日に「働き方改革実行計画」が決定され、柔軟な働き方をしやすい環境整備の一つとして、労働者の健康確保に留意しつつ、原則副業を認める方向で、副業の普及促進を図ると発表しました。そして、2018年1月には、副業・兼業について、企業や働く方が現行の法令のもとでどのような事項に留意すべきかをまとめた「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が作成・公表されました。さらに、2018年1月31日にはモデル就業規則を「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」と改定し、副業を原則禁止から原則容認へと大きく舵を切りました。政府は今後副業が普及できるように環境整備を行い、2027年度には希望者全員が原則として副業を行うことができる社会を構築することを計画しています。

図表1 副業・兼業の推進に向けた計画表
出典)首相官邸「働き方改革実行計画(平成29年3月28日働き方改革実現会議決定)工程表」

 政府がこのように副業を容認する政策を推進するに至った理由としては、急速な少子高齢化による労働力人口の減少(労働力不足)が経済成長にマイナスの影響を与えると考えたからです。2018年2月1日現在の日本の総人口は1億2,660万人で、ピーク時の2008年12月の1億2,810万人から150万人も少なくなり、2065年には8,808万人まで減少すると予想されています。一方、労働力人口は、女性や高齢者の労働市場への参加が増えたことにより、2013年以降はむしろ増加していますが、15〜64歳の生産年齢人口の減少は著しく、今後は減少することが予想されています。日本における2016年10月1日現在の15〜64歳人口は、7,656万2,000人と、前年に比べ72万人もの減少しており、15〜64歳人口が全人口に占める割合は60.3%と、ピーク時の1993年(69.8%)以降、一貫して低下しています。

図表2 15〜64歳人口の対前年比増減数と総人口に占める割合の推移
注)2010年における15〜64歳の人口が増えた原因として、国勢調査による人口のうち、年齢不詳の人口を各歳別にあん分したことが挙げられる。
資料)e-stat「人口推計:長期時系列データ」より筆者作成。

副業の実態

 では、どのぐらいの人が実際に副業をしているのでしょうか。総務省の「2017年就業構造基本調査」によると、2017年時点の副業者比率(有業者に占める副業がある者の割合)は、4.0%で、2012年調査の3.6%に比べて0.4ポイント上昇していました。雇用形態別には、「非正規の職員・従業員」が5.9%で、「正規の職員・従業員」の2.0%より高いことが確認されました。一方、副業を持つことを希望する追加就業希望者の割合は6.4%(2012年は5.7%)となっており、雇用形態別には、「非正規の職員・従業員」が8.5%で、「正規の職員・従業員」の5.4%を大きく上回っていました。
正規職より非正規職の副業者比率が高い理由としては、非正規職が増加し続けていることや非正規職の収入が正規職に比べて安定していない点が考えられますが、もう一つの理由としては、多くの会社で会社の法律とも言える「就業規則」で副業を禁止している点が挙げられます。その理由は、厚生労働省がヒナ型として公開しているモデル就業規則で、許可なく他の会社等の業務に従事することを禁止していたからです。しかしながら、前述したとおりに2018年1月31日にモデル就業規則が改定されたので、今後は副業がより普及していくと思われます。

図表3 雇用形態別副業者比率及び追加就業希望者比率の推移
出典)厚生労働省(2018)「平成29年就業構造基本調査結果の概要」より筆者作成

 一方、リクルートワークス研究所が2017年1月に実施した「全国就業実態パネル調査」によると、副業(複業)による平均年間収入は45.3万円で、副業からの年収が50万円未満である人の割合は72.4%で、全体の半分を超えていました。また、副業の平均労働時間は1週間に11.7時間で、それほど長くはないことが確認されました。

今後の課題

 政府はガイドライン(案)で副業を推進することにより、企業には①新たな知識やスキルの獲得、②優秀な人材の獲得・流出の防止と競争力向上、③新たな知識・情報や人脈を入れることによる事業機会の拡大というメリットが、また、労働者には①能力やキャリア形成、②自己実現の追求、③所得増加、④将来の起業・転職に向けた準備期間の確保というメリットがあると説明しています。しかしながら、副業を推進するにおいて課題も少なくないのが現状です。
 まず、副業を実施するにおいて最も大きな課題として、労働時間をどのように管理するかが挙げられます。労働基準法38条1項では「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定しており、2社に雇用されて働く場合、労働時間を通算することが法律で定められています。今後、労働者の副業が拡大されると、労働者の労働時間及び賃金管理はさらに複雑になることが予測されます。
 次は公的社会保険と関わる問題です。政府は、2016年10月から短時間労働者に対する公的社会保険の適用を拡大して、非正規職の社会安全網を強化する政策を実施していますが、このような政策が保険料の負担を回避しようとする一部の企業と労働者に悪用される恐れがあるのも事実です。例えば、労働者が公的社会保険に加入するためには、労働時間などの基準を満たす必要がありますが、一部の企業では社会保険への加入を避ける目的でアルバイト店員の勤務時間記録を改ざんした事例があります。
 今後、副業が奨励され、労働者の副業が複数に及んだ場合、労働者の勤務時間を把握することがさらに難しくなり、公的社会保険への加入を回避する企業や労働者が増える可能性が高まると考えられます。また、副業は労働者の労働時間管理を難しくし、長時間労働や健康状態の悪化に繋がる恐れもあります。
 政府が副業の普及促進を推進した影響もあり、最近ではコニカミノルタやDeNA、そしてソフトバンクなど日本を代表する企業で相次ぎ副業を容認しており、今後副業は少しずつ企業や労働者に拡大されると予想されます。ただし、上述したように折角の制度改革が社会保険への加入回避、長時間労働、労働者の健康悪化等の思わぬ結果に繋がらないように、今後、更なる労働時間管理の徹底を図る必要があります。

(ニッセイ基礎研究所 金 明中)


筆者紹介

金 明中(きむ みょんじゅん)

株式会社ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任
研究・専門分野:社会保障論、労働経済学、日・韓社会保障政策比較分析