オフィスのトイレが職場で一息つける場所、という新社会人の方も多いのではないでしょうか。世界的に見ると、日本のような清潔で一休みできるトイレにアクセスできる人は、ごくわずかです。WHO/UNICEF(2017)によると、世界人口の約24%は最低限衛生的なトイレにアクセスできず、12%はトイレがなく、屋外排泄をしています(図1)。この最低限衛生的なトイレには、下水道や浄化槽に繋がった水洗トイレだけではなく、汲み取り式のいわゆる「ぼっとん便所」も含まれます。衛生的ではないトイレには、人が立つ板がない汲み取り式トイレや、袋や桶への排泄、ハンギングトイレ(水上の小屋から池や川へ排泄)が含まれます。(図2)
2018年7月2日
2030年までにトイレへのアクセスを100パーセントに
衛生的ではないトイレの使用や屋外排泄は、水質汚染や病気の要因になります。世界の5歳以下の子どもの死因第2位は下痢で(1位は肺炎)、年間約58万人が命を落としており(Liu et al. 2015)、その約88%は安全ではない 水や衛生問題が原因といわれています(Prüss-Üstün et al., 2008)。2015年に国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」には、貧困や飢餓の撲滅、質の高い教育の提供など17の項目が挙げられていますが、その一つに、「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理の確保」が含まれています。その具体的な数値目標は、2030年までにトイレや、安価な飲料水へのアクセスを100%にすることなどになっています。
世界の水不足は日本にも影響あり?!
水問題に関するSDGsの目標には、安全な水の確保やトイレへのアクセスといった、主に開発途上国が抱える問題のみでなく、世界が一体となって取組む必要のある水不足の問題も含まれています。日本は人口減少が問題になっていますが、世界的には、急激な人口増加に伴う水不足が深刻な問題です。世界の人口は1950年から2010年の間に約2.7倍になり(United nations, 2017)、世界中で使用される水資源の量は約2.8倍に増えました(FAO, 2016; Shiklomanov, 1999)。人間が生きていくためには、一年を通して一定以上の量の水が必要になりますが、Mekonnen and Hoekstra(2016)によると、既に世界人口の約3分の2が、1年間に1カ月以上の深刻な水不足を経験しています。彼らの報告から、世界中の広い地域(黄色から赤色の地域)で1年に1カ月以上の水不足が起こっていることがわかります(図3)。
水資源の豊かな国といわれている日本も、他人ごとではありません。世界の水資源の使用のうち生活用水は約12%にすぎず、約69パーセントは農業用水、約19パーセントは産業用水です(FAO, 2016)。水資源は、食料や日用品など、あらゆるものを作り出す過程で使用されているので、たとえば、200gの牛肉が生産されるためには、間接的に約3,000リットルの水資源が使われています(Mekonnen and Hoekstra 2010)。そのため、国内で消費される物品の多くを輸入に頼っている日本は、間接的に非常に多くの水資源を輸入している国でもあるのです。日本は、水資源の間接的な輸入量はアメリカに次いで世界第2位、輸入量から輸出量を引いたネットの輸入量では世界第1位の水資源輸入大国です(図4)。世界の水不足は日本にも大きな影響を与える可能性があるのです。
できることからはじめましょう
国連総会は世界的な水危機の課題を認識して、2018年から2028年までを水の国際行動の10年と位置づけました。日本で生活していると水問題を意識する機会は少ないですが、世界の水を大量に消費しているという自覚を持って、国内でも水不足が話題になる今の季節に、節水や、物を大切にすること(間接的な水資源の節約)など、できることから行動に移していきたいですね。
(ニッセイ基礎研究所 岩ア 敬子)
筆者紹介岩ア 敬子(いわさき けいこ)
株式会社ニッセイ基礎研究所、保険研究部、研究員
研究分野・専門分野: 災害復興、金融・健康行動、メンタルヘルス、ソーシャル・キャピタル
- ▼ニッセイ基礎研究所ホームページ(岩ア研究員)
http://www.nli-research.co.jp/topics_detail2/id=58864?site=nli