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3分でわかる 新社会人のための経済学コラム

第98回 電子マネー普及の影で小額硬貨の流通量はこの10年間に5%以上減少

2018年4月2日

電子マネー普及の陰で小額硬貨の流通量はこの10年間に5%以上減少

 (一社)日本クレジット協会が毎年公表している「クレジットカード発行枚数調査」によれば、2017年3月末現在のクレジットカード発行枚数は、前年3月末から600万枚増加し、27,201万枚となっています。これは国民(2017年4月1日現在推計値)1人あたり(※1)でみると、2.15枚におよんでいます。また、日本銀行が公表する「決済動向」によれば、電子マネーの発行枚数は2016年度末現在で33,600万枚、最新の公表値(2017年12月末)では35,833万枚、国民1人あたりでは2.83枚と、既にクレジットカードの発行枚数を大きく上回っているようです。

 それぞれのカード1枚あたりの年間の決済額は、クレジットカードでの購入額(キャッシングを除く)が178,600円、電子マネーでは14,000〜16,000円程度となっており、クレジットカードでの購入額は増加傾向にあります。
一方、電子マネーの決済額は横ばいの状態ではありますが、発行枚数、決済件数が増加傾向にあることを踏まえれば、金額の高低を問わず、現金を必要としない、いわゆる電子決済の普及が進みつつあることは間違いないといえそうです。

図表1 クレジットカード・電子マネー発行枚数・決済額の推移

  • 出所:(一社)日本クレジットカード協会「クレジットカード発行枚数調査」「クレジットカード動態調査」、日本銀行「決済動向」より作成

 実際に、金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査」によれば、二人以上世帯における日常的な支払いの主な資金決済手段では、「現金(紙幣および硬貨)」の割合が金額帯を問わず減少傾向にあり、最新の2017年調査では10,000〜50,000円以下の金額帯で「クレジットカード」が54.1%とこの10年間で初めて「現金(紙幣および硬貨)」(52.9%)を上回る結果となっているほか、低額帯では1,000円以下で4年前から、1,000〜5,000円以下では2年前から、「電子マネー」の割合が1割を超えるまで増加しています。

図表2 日常的な支払い(買い物代金等)の主な資金決済手段(2つまでの複数回答) 出所:金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査[二人以上世帯調査]」

 このように、徐々にではあるものの電子決済の普及が進む中、日本銀行「通過流通高」を用いて、紙幣・硬貨の流通枚数の推移をみると、紙幣や500円硬貨、100円硬貨が10年前に比べ流通枚数を増やしているのに対し、50円以下の硬貨ではいずれも減少しており、10円以下の硬貨ではいずれも流通枚数が5%以上、減少する結果となっています。2014年には消費税率の8%への引上げに伴う釣り銭需要の高まりから1円や5円硬貨の不足も危惧されていたものの、こうした小額硬貨の流通枚数がむしろ減少傾向を示していることは、そうした需要は現金以外の決済手段の普及により吸収された可能性もあるものと考えられます。

図表3:日本銀行券発行枚数と貨幣流通枚数 出所:日本銀行「通貨流通高」より作成

 2019年に予定されている消費税率10%への引上げでは、小額硬貨に対する釣り銭需要も今以上に低下するものと予想されます。
 加えて、決済手段としては、国内においても既に拡がりつつある、事前に登録したクレジットカードやポイントカード、電子マネーの情報に基づくスマートフォンアプリを利用した決済サービスのほか、QRコード決済についても、今後拡大していくことが見込まれています。既に流通枚数が400万枚を下回る1円硬貨を目にしなくなる日も、そう遠くはないかもしれません。

(ニッセイ基礎研究所 井上 智紀)

筆者紹介

井上 智紀(いのうえ ともき)

株式会社ニッセイ基礎研究所、生活研究部 シニアマーケティングリサーチャー
研究・専門分野:消費者行動、金融マーケティング、ダイレクトマーケティング、少子高齢社会、社会保障