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3分でわかる 新社会人のための経済学コラム

第94回 日本におけるモバイル決済の利用率は6%

2017年12月1日

日本におけるモバイル決済の利用率は6%

 日本銀行のモバイル決済の利用状況等に関する調査レポートによると、店頭で携帯電話やスマートフォンを読取り機にかざしてモバイル決済を行う機能を「利用している」と答えた日本人は、調査全体の6%にとどまっています。また、「機能はあるが利用していない」と答えた人も42%存在しています。

 また、日本銀行の別の調査レポートでは、米国とドイツにおけるモバイル決済の利用率がそれぞれ5.3%と2%で、中国とケニアでのモバイル決済の利用率はそれぞれ98.3%と76.8%であることが紹介されています。中国の調査結果が都市部の消費者を対象に実施されたものであり、ケニアの調査結果が携帯電話加入者に対して行われたものだという点は割引いてみる必要がありますが、それでも、新興国におけるモバイル決済利用率が先進国よりも高く、急速な拡がりを見せているのは疑いのない事実だといえます。

先進国でモバイル決済が普及していない理由について考える

 それではなぜ先進国ではモバイル決済が浸透しない状況にあるのでしょうか。先に紹介した日本銀行の調査レポートでは、日本・米国・ドイツに共通して、「セキュリティや紛失リスクに不安」「現金やクレジットカード等他の決済手段の方が、利便性が高い」「使う必要がない」といったことが、モバイル決済を用いない理由として挙げられています。

 よって、先進国ではモバイル決済よりも現金決済やカード決済に利便性を感じており、セキュリティや紛失等のコストの点でも現金決済やカード決済の方が安全面で優れていると認識していることになります。

 現金決済やカード決済の利便性とモバイル決済の利便性の関係を考えるうえで参考になるのが、銀行ATMの数と銀行口座の保有率の状況です。銀行口座の保有者にとって銀行ATMの数が多ければ多いほど銀行サービスへアクセスが容易になり、現金決済や銀行口座を必要とするカード決済に利便性を感じるものと考えられます。

 図表1は、国際決済銀行と国際通貨基金で紹介されている各国の銀行ATMの数について、過去5年間(2012年から2016年)の増加率と、世界銀行により2014年に公表された成人の銀行口座保有率を並べたものです(※)。

(※) 米国の銀行ATMの数については公表されていない。米国における成人の銀行口座保有率は94%である。

図表1:各国における過去5年間の銀行ATM数の増加率(左軸)と成人の銀行口座保有率(右軸)

(出典:国際決済銀行、国際通貨基金、世界銀行のデータより、著者にて計算)
 モバイル決済があまり普及していない日本やドイツでは、それぞれ成人の銀行口座保有率が97%と99%と高く、銀行ATMの数がほとんど現状維持であることが分かります。この傾向は、他の先進国でも共通しています。この結果から、先進国では銀行ATMのような銀行サービスのインフラが十分に広がっており、現金決済やカード決済に不便を感じにくい環境下にあるといえるでしょう。

 一方で、モバイル決済が急速に普及している中国とケニアでは、成人の銀行口座保有率が先進国と比べて相対的に低い(79%と75%)状況にあることが共通しています。図表からは、一般的に、多くの新興国では銀行口座保有率が低く、かつ銀行ATMの増加率が高いことから、銀行ATMのような銀行サービスのインフラが十分ではなく、整備中の段階にあることが分かります。よって、先進国と比べて、新興国では相対的にモバイル決済の利用に利便性を感じやすい環境下にあるといえるでしょう。

 ところで、ケニアでは銀行ATMがそれほど増加していません。一般的にモバイル決済のサービスを受けるためには銀行口座を保有している必要がありますが、ケニアでは銀行口座を保有していなくてもモバイル決済のサービスを受けることができることが影響しているものと考えられます。よって、ケニアには特殊な事情があって、他の新興国に比べて緩やかなスピードで銀行口座保有率が伸びているものと考えられます。

先進国でモバイル決済が普及するためには

 先進国では、十分な銀行サービスが行き届いている環境下にあることもあって、モバイル決済が普及しない状況にあることを説明してきましたが、先進国でモバイル決済が普及するための必要条件について考えてみたいと思います。

 現金決済については、利便性だけで見れば、銀行ATMから現金を引出して持ち運ぶ手間や盗難・紛失等のコストを考えると、本来はモバイル決済の利便性の方が高いはずで、中国やケニアでもそのように認識されているものと考えられます。しかし、先進国では現金決済の手間やコストよりも資産の保全や情報管理に対するセキュリティの懸念の方が問題点として認識されているため、現金決済やカード決済が選好され、モバイル決済が普及しない状況にあるものと考えられます。よって、モバイル決済のセキュリティに関するリスクを逓減するようなテクノロジーの確立だけではなく、カード決済のような保険・補償などの対策も含めて利用者に認識されることで、信頼性を高めていく必要があるでしょう。

 また、カード決済についても店舗サイドのコストが原因で導入が進まないと指摘されることがありますが、モバイル決済を導入することでカード決済よりもコストが削減されるようになれば、店舗サイドにも導入メリットがあり、さらに普及する可能性がありそうです。

 顧客層を広げるという観点でも、店舗サイドでモバイル決済の導入が進む可能性があります。特に、外国人観光客の日本経済に与える影響は無視できなくなってきていますので、モバイル決済が普及している国からの観光客向けのサービスに力を入れる必要性からも導入が進められるではないでしょうか。

筆者紹介

福本 勇樹(ふくもと ゆうき)

株式会社ニッセイ基礎研究所、金融研究部 准主任研究員
研究・専門分野:リスク管理・価格評価