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3分でわかる 新社会人のための経済学コラム

第89回 65〜74歳は高齢者ではなくなる?

2017年7月3日

高齢者の定義と区分の見直し提言

 2017年1月、日本老年学会・日本老年医学会は「高齢者の定義と区分」について画期的な提言を発表しました。

 以下のように、65〜74歳を「准高齢者」、75〜89歳を「高齢者」、90歳以上を「超高齢者」として区分することを社会に提言したのです。

 もともと65歳以上の人を「高齢者」とする通例は、確かな定義の由来は定かでないものの、1959年の国連(United Nations)の報告書「The Aging of Populations and Its Economic and Social Implications:人口高齢化とその経済的・社会的意義」において、65歳以上の人々を高齢者としたことがその由来と言われています。

 なお、当時(1960年)の世界の主要各国の高齢化率を調べてみると、日本を含む18カ国の数値だけですが、その平均は9.8%でした(日本は5.7%)(図表1)。約10人に1人が65歳以上だった時代に区分された定義がその後半世紀以上にわたって世界共通の認識として使用され続けてきたということです。

図表1 1960年当時の主要各国の高齢化率(%)

資料:国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集(2016)」

 しかし、世界はあらゆる国で高齢化が進み、その先頭を歩む日本はすでに4人に1人が65歳以上の社会となっています(2016年時点の高齢化率は27.3%)。また当学会が提言の中で述べているように、日本の高齢者は身体機能の“若返り”が確認されます。スポーツ庁が実施している「体力・運動能力調査」の結果をみても、65〜79歳までの高齢者(男女)について、新体力テストの総合成績を示す合計点は、男女ともにどの年齢層でも毎年結果が上昇してきています(図表2)。

 これらのことを背景に、個人差はあるにせよ、特に65歳以上の人の中でも比較的若く活動的な人に対して、高齢者扱いすること、また、されることに違和感を抱いていた人は少なくないと想像します。また人生100年時代とも言える長寿時代において、65歳以上の人を一括りに高齢者とすることへの違和感もかねてから世の中に潜在していたと思われるだけに、今回の提言はそれらの違和感を払拭する、現状を踏まえた的確な提言であったと考えます。

図表2 新体力テストの合計点の年次推移(高齢者65〜79歳)

資料:スポーツ庁「平成27年度体力・運動能力調査」より作成

提言に込められた意味〜准高齢者の生活モデルの創造を

 また今回の提言は、高齢者の存在及び年齢が持つ社会的な意味を今日的に考えさせる根本的かつ重要な問いを私たちに投げかけたものであるとも言えます。その問いに私たちが如何に応えていくか、この提言を如何に未来に向けてより良い方向に活かしていけるかがこれから重要なことです。高齢者の区分が見直されたからと言って、何もしなければ社会や日々の暮らしは何も変わりません。

 考えるべき、対応すべき範囲は極めて広範囲に及びますが、注目すべきは「65〜74歳」の新しく区分された准高齢期、この10年(歳)です。「准」はついているものの、“74歳までは(今までの)高齢者ではない”というメッセージがここにあります。個人差があり年齢で分けて物事を述べることは本来控えるべきではありますが、少なくとも准高齢者に該当する人に対する見方を、社会も本人もよりポジティブに捉え直すことがまず必要なことと考えます。とかく高齢者と言えば、社会が支えるべき弱々しいイメージを想起されやすいですが、それを改めるべきです。65歳を過ぎた時点で、個人も社会もしばしば“年だから”と言って、本人があきらめたり、社会が拒んだりすることがあったかもしれないですが、これからはお互いにそのことは理由にできない、そうした考え方や価値観を世の中に醸成していくことが望まれます。

 そして次に必要なことは、この65〜74歳の10年間の生き方、暮らし方をどのように創造していくか、ということでしょう。リタイアした後の標準的な生活モデルは世の中に存在していないといっても過言でなく、どのように暮らしていくかはすべて本人(及び家族)任せであり、こうあるべきという社会のメッセージも見当たりません。このモデルがないために、リタイア後の生活設計に戸惑う人は少なくないのが現状です。

 この提言を機に、准高齢者(期)の理想の生活モデルを社会が描き示していくことができれば、准高齢者(期)のあり方がより明確になり、個人の人生設計にも新たな示唆を与えることができると考えます。

新たな取組

 どのような暮らし方や存在になるのがよいかは、様々な視点やアイディアがあると思いますが、例えば、准高齢期は「就業を含めた地域活動に参加すること(希望する人において)」を基本の生活モデルとして提唱し、社会を支える者として何らかの「役割」と「機会」を持ち続ける(続けられる)ような社会の仕組みを創造していくことはできないでしょうか。また、企業・団体が有する退職者組織(OB・OG会)に注目して、准高齢期の暮らしを創造する視点もあります。多くの退職者組織の活動は、年に数回、交流や懇親の集まりを行っているくらいと推察しますが、母体の企業や団体のためになること、また地域社会のためになることなど、何らかの目的を掲げてより生産的な活動を行っていく、その中心で准高齢者が活躍し続けられれば、本人の生活も充実できるだろうし、企業や社会への貢献にもつながると考えます。

 以上、抽象的な話だけになりますが、いずれにしてもこの65〜74歳の10年間を如何に生きていくか、長寿時代を生きる私たち及び社会に課せられた新たな課題と言えます。准高齢者(期)のあり方を含めて、この提言を活かした新たな取組みが今後あらゆる場面で創出されていくことが大いに期待されます。

(ニッセイ基礎研究所 前田 展弘)

筆者紹介

前田 展弘(まえだ のぶひろ)

株式会社ニッセイ基礎研究所、生活研究部 主任研究員
研究・専門分野:ジェロントロジー(高齢社会総合研究)、超高齢社会・市場、QOL(Quality of Life)、ライフデザイン