1. 日本生命保険トップ
  2. 知る・楽しむ
  3. 新社会人のための経済学コラム
  4. 第85回 日本の個人消費、現金決済の割合は50%!〜日本人は現金を好む傾向がある?〜

3分でわかる 新社会人のための経済学コラム

第85回 日本の個人消費、現金決済の割合は50%!〜日本人は現金を好む傾向がある?〜

2017年3月1日

日本におけるキャッシュレス決済の割合は増加傾向

 一般的に、日本人は現金を好む傾向があると言われています。しかし、2015年の個人消費における現金の利用は49.5%で、個人消費の半分以上が現金を用いない資金決済(いわゆる「キャッシュレス決済」)で行われるようになっています。2011年の現金決済の割合は56.0%でしたので、キャッシュレス決済の割合が徐々に拡大していることが分かります。これは、主にクレジットカード(+3.9%)やプリペイド・電子マネー(+3.4%)の利用が増えているためです(図表1)。

図表1 日本の個人消費における決済手段の割合の推移

(資料) クレディセゾン社決算資料

キャッシュレス決済のメリット

 キャッシュレス決済にはどのようなメリットがあるのでしょうか。1つめに、資金決済の効率化が挙げられます。現金決済を行うには、金融機関からあらかじめ現金を引出しておく必要がありますが、その手間を省くことができます。また、財布から現金を取出す必要もなく、迅速に決済を終了させることもできます。

 2つめに、セキュリティ向上の恩恵が受けられることが挙げられます。現金決済では現金を持運ぶ必要がありますが、キャッシュレス決済ではその必要はないため、盗難や紛失等のリスクが軽減されます。一方で、不正使用や偽造が懸念されますが、テクノロジーの活用等での対処が進んでおり、安全性が高まっています。

 3つめとして、キャッシュレス決済では電子データが活用されるため、手作業による人為的なミスを防ぐことができます。例えば、帳簿管理の誤記入等のミスを減らすことができるといった利点が考えられるでしょう。

 先ほど電子マネーやプリペイドカードを用いた決済の割合が増加傾向にあることを指摘しましたが、この理由として、事前にチャージしておけば、財布から現金を出入れすることなく、公共交通機関の利用や買い物で決済が迅速に完結するという利便性が挙げられるでしょう。また、記名式であれば、紛失しても再発行が可能なため、現金を持運ぶよりも安全性が高いといった利点もあります。

グローバルに進むキャッシュレス化

 このようにキャッシュレス決済のメリットもあって、日本においてキャッシュレス化が進みつつありますが、欧米と比較すると「まだまだ日本人は相対的に現金を好む特徴がある」と言えそうです。

 例えば、米国における個人消費における現金決済の割合は16.7%で日本と比較して格段に小さく、一方で、クレジットカード(29.6%)とデビットカード(24.5%)の利用が一般的で、これらのカード決済額は全体の50%以上を占めています。2019年には現金決済の割合が10%にまで低下するものと予測されており、一層の「キャッシュレス化」が進むものと見られています(図表2)。

図表2 米国における個人消費における決済手段の割合と予測値

(資料) クレディセゾン社決算資料

 欧州でも日本よりキャッシュレス化が進んでいる国があります。欧州での現金決済の割合は60%とのことですが、現金決済の占める割合が50%以下の国として、英国(45%)、オランダ(37%)、デンマーク(37%)、スウェーデン(38%)、フィンランド(36%)、エストニア(44%)、フランス(44%)、ルクセンブルク(29%)が挙げられています(※1)。例えば、スウェーデンでは多くの銀行で現金を受付けないなど、キャッシュレス化を前提とした社会システムに移行しつつあります。欧州全体で見ると、キャッシュレス決済では、クレジットカードやデビットカードによる資金決済の割合が最も大きく、欧州諸国における資金決済の約20%を占めています。

 また、欧州においてもキャッシュレス化がさらに進むと見られています。例えば、英国では2025年に資金決済全体に占める現金決済の割合が27%程度にまで低下し、デビットカード利用の割合(42%)の方が大きくなると言及されています(図表3)。

図表3 英国における資金決済に占める決済手段の割合と予測値

(資料) 英国資金決済協議会(UK payments council)

 これらの予測では、欧米において主にクレジットカードやデビットカードによる資金決済の割合が拡大することでキャッシュレス化が進展するものと考えられていますが、最近はスマートフォン等の携帯電話を用いた資金決済が注目されています。もともと携帯電話を用いた資金決済は、アフリカ等で銀行口座を介さない手段として普及しており、新興国のキャッシュレス化に寄与していました。加えて、携帯アプリの利用でクレジットカードやデビットカードによる決済の利便性も高めることにより、グローバルなキャッシュレス化に寄与していくのではないかと思われます。

日本政府もキャッシュレス化を後押し

 日本政府は2015年の「日本再興戦略」の中で、キャッシュレス決済の普及による決済の利便性・効率性の向上を掲げています。具体的には、キャッシュレス化に向けて、「海外発行クレジットカード等での現金引出しが可能なATMの普及」「地方商店街や観光地等でのクレジットカード等決済端末の導入促進」「公的納付金の電子納付の一層の普及」といった方策が推進されています。これらの方策のうち、クレジットカード等に関するものが二つ掲げられていることから、クレジットカードやデビットカードを軸としたグローバルなキャッシュレス化の流れも意識されているものと考えられます。

 今後も、クレジットカードやデビットカード等によるキャッシュレス決済が主流になっている国々から多くの旅行者が日本にやってくることが想定されます。地方創生やインバウンドへの対応も意識しつつ、日本でも国際的なキャッシュレス化の流れに平仄を合わせて環境整備していくことが重要になっていくのではないでしょうか。

(※1) 「'Decade of change' for cash puts modernisation at top of agenda」(G4S社)

(ニッセイ基礎研究所 福本 勇樹)

筆者紹介

福本 勇樹(ふくもと ゆうき)

株式会社ニッセイ基礎研究所、金融研究部 准主任研究員
研究・専門分野:リスク管理・価格評価