1. 日本生命保険トップ
  2. 知る・楽しむ
  3. 新社会人のための経済学コラム
  4. 第86回 ネット決済・送金サービスの利用率、日本の20代は35%!?〜デジタルネイティブのフィンテック利用状況〜

3分でわかる 新社会人のための経済学コラム

第86回 ネット決済・送金サービスの利用率、日本の20代は35%!?〜デジタルネイティブのフィンテック利用状況〜

2017年4月1日

日本、韓国、中国のデジタルネイティブ

 物心ついた頃から、パソコンなどインターネットが当たり前にある生活環境で育ち、スマートフォン(スマホ)を使いこなすデジタルネイティブ。1990年以降に生まれたネットを使いこなす世代の出現や、スマホの普及は、国によって多少異なりますが、ほぼ同じ時期に発生したという特徴があります。

 特に、スマホに付随するアプリケーションサービスの普及、定着により、ショッピングなど人々の日常生活、更には決済や金融商品の購入といった金融行動についても、国によって大きな変革が見られます。以下では、日本に加えて、同じアジアの韓国、中国のデジタルネイティブの金融行動について確認してみたいと思います。

 総務省の「情報通信白書」(平成28年版)によると、普段、私的な用途のために利用している端末として、スマートフォンの利用率は、日本が60.2%(各年代の加重平均値)でした。一方、韓国は96.6%、中国は98.3%と高くなっています(図表1)。日本はフィーチャーフォン(いわゆる「ガラケー」)の利用率が41.9%と高く、その背景にはフィーチャーフォンがもともと高機能であることや、スマホとの2台持ちといったこともあるかと考えられます。

図表1 普段、私的な用途のために利用している端末

(資料)総務省 情報通信白書(平成28年版)より抜粋して作成

 通話料などの料金体系や、スマホ本体の料金などの仕組みが国によって異なることもありますが、フィーチャーフォンの利用率は、韓国が7.8%、中国では5.0%と、街中でもほぼ見かけることはありません。デジタルネイティブである20代をみても、スマホの利用率は日本が87.0%であるのに対して、韓国(100.0%)、中国(98.5%)は、ほぼ100%となっています。

デジタルネイティブのインターネット利用用途

 次に、普段の生活で提供されるインターネットサービスの利用状況をみてみます。この調査結果がウェブアンケートに基づいており、回答者はITリテラシーが一定以上あるという点に留意する必要がありますが、ネットショッピング、情報検索といった従来型の利用はいずれの国においても8割以上と高くなっています。ソーシャルメディア(SNS)については、日本は20代(86.5%)、30代(78.5%)が突出して高いのに対して、韓国は60代を除く全ての世代、中国は全ての世代で9割を超えています(図表2)。代表的なSNSとして、韓国では、Facebookの利用率が全世代で6割以上、Kakao Talkの利用率が7割以上、中国では、Facebookの利用はほぼないものの、その代替としての微博(Weibo)の利用率が5割以上、微信(We chat)が8割を超えており、自国のITベンチャーやスタートアップ企業によって、自国民の利用に適したアプリケーションサービスの開発や普及が進んでいます。

図表2 用途別インターネット利用

(資料)総務省 情報通信白書(平成28年版)より抜粋して作成

デジタルネイティブのフィンテック活用

 インターネット、更にはスマホの普及は、資産の運用や形成など、個人の金融行動―フィンテック(FinanceとITの融合)分野における活用にも大きな影響を与えています。図表2より、インターネットを介した株取引・オンラインバンキングについては、日本の20代の利用率が32.5%であるのに対して、韓国は71.5%、中国は91.0%と大きな開きがあります。中国の場合、大手国有銀行による金融サービスの利便性の向上が課題となっていましたが、ネット通販やIT関連企業といった第三者の介入によって、オンラインバンキングなどフィンテックの活用が一気に広がった背景があります。

 また、フィンテックにおける代表例として、決済・送金サービスの認知度、利用意向、利用率にもそれが反映されています。日本の20代のネット決済・送金サービスの利用率は35.0%とそれほど高くはありません。日本の場合、全体として、認知度は高い一方、利用意向や利用率は低くなっています。その背景には、日本では早くから金融機関での高品質な窓口対応やATMの設置、クレジットカードの普及が進んでおり、従来型の金融サービスの利便性が高い点が挙げられます。

 一方、韓国、中国は認知度、利用意向、利用率とも高くなっています。韓国の20代の利用率は79.5%、中国では94.0%となっており、ネット決済や送金サービスが日常生活に浸透していることがわかります(図表3)。

図表3 決済・送金サービスの認知度利用意向・利用率

(資料)総務省 情報通信白書(平成28年版)より抜粋して作成

デジタルネイティブの金融行動

 では、こういったデジタルネイティブが、資産管理や資産形成といった金融行動をとる場合、ネット上のサービスの利用意向や利用率はどのようになっているのでしょうか。 最近では、家計簿アプリに加えて、マイナス金利政策を意識した資産運用や投資について助言をするアプリもたくさん登場しています。しかし、認知度は一定程度あるものの、利用意向、利用率とも限定的のようです(図表4)。日本では、個人情報に関する利用者の意識が高く、資産運用となると、情報漏洩などのセキュリティー、集まったビッグデータの活用目的など気になる点もあるかもしれません。デジタルネイティブの20代でも19.5%にとどまっています。

図表4 個人向け資産管理サービスの認知度・利用意向・利用率

(資料)総務省 情報通信白書(平成28年版)より抜粋して作成

 一方、認知度、利用意向、利用率とも最も高かったのは中国で、20代の利用率は57.0%とほぼ6割が利用していることになります。中国では、元より投資意向が旺盛なこと、加えて、少額でも投資が可能なオンライン金融商品が豊富で、大学生向けのP2Pレンディングサービス(※1)が広く普及するなど、若年層の段階から金融リテラシーを身につける機会が多い点も挙げられると思います。

 日本・韓国・中国では、同じデジタルネイティブ、20代でも、ネット決済・送金や資産管理といったフィンテック分野の金融行動は大きく異なります。元より金融サービスの利便性が高い日本においては、今後、金融機関やスタートアップ企業が連携を更に強め、ユーザーの利用意向にマッチした斬新なサービスの開発が求められています。

(※1) インターネットを介して個人と個人がお金を貸し借りする個人間貸付の仕組み。

(ニッセイ基礎研究所 片山 ゆき)

筆者紹介

片山 ゆき(かたやま ゆき)

株式会社ニッセイ基礎研究所、保険研究部 准主任研究員
研究・専門分野:中国の保険・年金・社会保障制度