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3分でわかる 新社会人のための経済学コラム

第100回 日本で金融リテラシーのある成人の割合は43%

2018年6月1日

日本で金融リテラシーのある成人の割合は43%

 金融の自由化に伴って、様々な金融サービスにアクセスすることが可能となり、消費者はぞれぞれのニーズに合った金融商品を選択することで、将来の人生設計に向けて資産形成を行うことができるようになっています。また、テクノロジーの進化に伴って様々な金融商品が開発されています。このような環境下で、消費者が十分に留意点について理解しないまま金融商品を購入してしまい、過度なリスクや過度の負債を背負ってしまうといった問題が生じることがあります。例えば、最近でも、無計画な利用などによって過度なカード債務を背負ってしまうといった問題に焦点があたることがありました。

 消費者がこのような事態を避けつつ将来の資産形成を行っていくためには、法律や規制の役割も重要ですが、消費者においても金融や経済の知識を得て、どの金融商品が自らにとって適切なのか、主体的に検討し選択していくことも必要になってくるでしょう。このような金融や経済に関する知識や判断力のことを一般的に「金融リテラシー」と呼びます。

日本人の金融リテラシーは諸外国と比較して決して高くない

 海外の調査結果(2015年)によると、日本で金融リテラシーのある成人の割合が43%であったことが報告されています。また、日本と同等の水準にあるとされた国と地域として、東欧ではスロベニア(44%)やポーランド(42%)、東アジアでは香港(43%)やモンゴル(41%)、中東ではクウェート(44%)やレバノン(44%)、アフリカでは南アフリカ(42%)やジンバブエ(41%)、南アメリカではウルグアイ(45%)やチリ(41%)などが挙げられています。

 一方で、デンマーク(71%)、ノルウェー(71%)やスウェーデン(71%)といった北欧諸国において金融リテラシーのある人々の割合が高く、次にカナダ(68%)、イスラエル(68%)、英国(67%)、ドイツ(66%)やオランダ(66%)といった国々がその後に続きます。これらの国々に共通していることとして、金融システムが相応に整っていることが指摘できるでしょう。日本も金融インフラが十分に発達している国の一つに挙げられますが、残念ながら日本国内の金融リテラシーの水準は、同等の金融インフラを持つ国々・地域と比較して決して高いとは言えない状況にあります。

金融リテラシーが高い国・地域は生活水準も高い

 先の調査結果では、金融リテラシーと一人あたりGDPの関係が深いことが指摘されています。つまり、金融リテラシーの高い国・地域では所得も高く、生活水準が高い傾向があるということです。

 図表1は、世界各国の「金融リテラシーのある成人の割合(2015年)」と「一人あたりGDP(2017年)」を並べたものです。一人あたりのGDPが2万米ドル(約216万円)以上の国・地域に着目すると、金融リテラシーのある成人の割合が高くなれば高くなるほど、一人あたりのGDPも大きくなる傾向にあることが分かります。これは、労働による所得だけではなく、金融資産による所得も加わるためと考えられます。一方で、金融資産を保有するには一定程度の余裕資金が必要になることを考慮に入れると、一人あたりGDPが一定程度高くなければ、せっかく金融リテラシーがあったとしても、さらに所得を増やして生活水準を高めていくことが難しいことも示唆していると言えるでしょう。

図表1 金融リテラシーのある成人の割合(%):2015年(横軸)と一人あたりGDP(万米ドル):2017年(縦軸)の関係
(資料:世界銀行、S&P)

金融リテラシーを身に付けていくには

 金融庁の「金融経済教育委員会」が2013年に公表した報告書において、次の4分野・15項目の「最低限身に付けるべき金融リテラシー」が挙げられています。

分野1:家計管理
  • (1)適切な収支管理(赤字解消・黒字確保)を習慣にすること
分野2:生活設計
  • (2)ライフプランを明確にすること
分野3:金融と経済の基礎知識と、金融商品を選ぶスキル
【金融取引の基本としての素養】
  • (3)契約をするとき、契約の基本的な姿勢(契約書をよく読む、相手方や日付・金額・支払条件などが明記されているか、不明点があれば確認するなど)を習慣にすること
  • (4)情報の入手先や契約の相手方である業者が信頼できるかどうかを必ず確認すること
  • (5)インターネット取引の利点と注意点を理解すること
【金融分野共通】
  • (6)金融と経済の基礎知識(単利・複利などの金利、インフレ、デフレ、為替、リスク・リターンなど)や金融経済情勢に応じた金融商品の選択について理解すること
  • (7)取引の実質的なコスト(価格、手数料)を必ず確認すること
【保険商品】
  • (8)自分にとって保険でカバーしたい事態(死亡、病気、火災など)が何かを考えること
  • (9)カバーすべき事態が起きたとき、必要になる金額を考えること
【ローン・クレジット】
  • (10)住宅ローンを組む際の留意点を理解すること
    • ア.無理のない借入限度額の設定、返済計画を立てること
    • イ.返済を難しくさせる事態に備えること
  • (11)無計画・無謀なカードローンやクレジットカードなどの利用を行わないことを習慣にすること
【資産形成商品】
  • (12)高いリターンを得ようとする場合には、より高いリスクを伴うことを理解すること
  • (13)資産形成における分散(運用資産の分散、投資時期の分散)の効果を理解すること
  • (14)資産形成における長期運用の効果を理解すること
分野4:外部の知見の適切な活用
  • (15)金融商品を利用するにあたり、外部の知見を適切に利用する必要性を理解すること

 先の調査結果でも指摘されていることですが、金融リテラシーの高低は、数学リテラシー(数学に関する知識や能力)の水準と関連性があることが知られています。図表2は各国の「金融リテラシーのある成人の割合(2015年)」と「15歳の数学リテラシーの水準(2015年)」を並べたものです。金融リテラシーのある成人の割合について、一定水準(40%中盤)を境に数学リテラシーとの関係性に変化が見られることが分かります。金融リテラシーのある成人が一定水準以上の割合で存在している国・地域では数学リテラシーも一定水準ある一方で、金融リテラシーのある成人の割合が高くない国・地域では数学リテラシーの水準もそれほど高くないことが分かります。

 この結果から、上記に示されたような金融リテラシーを身に付けていくには、数学の基礎的な内容に対する理解が必要条件になりそうです。特に、「パーセント(%)の計算方法」への理解が重要になるではないでしょうか。金融や経済に関する情報では、「インフレ率は○%」「住宅ローン金利は△%」といったパーセントを用いる表現がよく使用されます。長期運用の効果を理解するには、複利効果を理解する必要がありますが、これは「1+パーセント÷100」を累乗(複数回掛け算)したときの効果を理解することに他なりません。

図表2 金融リテラシーのある成人の割合:2015年(横軸)と15歳の数学リテラシー:2015年(縦軸)の関係
(資料:OECD、S&P)

 また、数学リテラシー以外にも、金融に対して肯定的か否定的か、金融に対する恐怖感の有無など、消費者の心理や態度も金融リテラシーの高低に影響するという調査結果もあります。日本では、バブル崩壊後、長らく資産運用での成功体験を得るのが難しい環境下にあったことも、日本における金融リテラシーの水準に影響しているかもしれません。

 とにもかくにも、金融リテラシーを高めていくことは、生活水準を高めていくことと密接につながっていると言えそうです。新社会人の方々の中には、この夏に人生初めての賞与(ボーナス)を受取る人がいるかもしれません。家族や自分自身に対して記念にプレゼントを購入するのも素晴らしい選択ですが、前向きに金融や経済について学習しながら金融リテラシーを身に付けつつ、将来の人生設計や資産形成について計画を練ってみるのも悪くないのではないでしょうか。

【資料】

(ニッセイ基礎研究所 福本 勇樹)

筆者紹介

福本 勇樹(ふくもと ゆうき)

株式会社ニッセイ基礎研究所、金融研究部准主任研究員
研究・専門分野:リスク管理・価格評価