新社会人の皆さんも、日本の財政状況が悪いという話を聞かれたことがあるかもしれません。より具体的には、日本の政府部門(国に加えて、都道府県や市区町村などの地方公共団体を含む)が抱える債務は世界ワースト水準となっています。政府債務の水準を名目GDP比で国際比較すると、図表1の通り、日本は債務危機に陥ったギリシャをも上回り、200%を超えています。
2018年8月1日
日本の政府債務の水準は世界一
政府債務増加の主因はプライマリーバランスの赤字
では、なぜ日本の政府債務はここまで膨らんだのでしょうか。政府部門は社会保障費や公共事業費などの政策経費を税収等だけで賄うことができないため、国債等(地方債を含む)を発行して不足分(図表2の①)の穴埋めをしてきました。また、過去に発行した国債等は元金の支払(償還)(同③)と利子の支払(同②)が行われます。その結果、政府の債務は④-③相当分増加します。この相当額は一般的に財政赤字と呼ばれ、さらに基礎的財政収支(プライマリーバランス、以下PB)の赤字(①)と利払費(②)に分けられます。日本は1990年代から財政赤字が続いていますが、その大半をPBの赤字が占めています。つまり、日本は政策経費が税収等を上回る期間が20年以上も続いており、この間税収等の不足分の穴埋めとして多額の国債等が発行されたため、債務残高が大きく膨れ上がったと言えるでしょう。
PBの黒字化の達成時期を先送り
このまま政府部門の財政が悪化していくと、各種行政サービスに必要な資金を賄うことができず、最悪の場合、行政サービスの停止や大幅な増税など私たちの生活を脅かすことも考えられます。日本政府は財政悪化に歯止めをかけるべく、2010年に図表3の財政健全化目標を掲げました(※1)。しかし、中間目標(①)こそ達成したものの、消費税率引上げの二度の延期などによって、最終目標(②)の達成は難しいと見られ、PBの黒字化目標の達成時期を2020年度から25年度へ先送りすることとなりました(※2)。
- (※1)それ以前にも、2006年の小泉政権以降、PBの黒字化目標が掲げられましたが、目標未達に終わっています。
- (※2)2025年度のPB黒字化目標の達成には、19年10月からの消費税率の10%への引上げの他、高い経済成長率が前提となっており、目標の達成は容易ではありません。
しかし、そもそもPBの黒字化を達成しても、必ずしも債務残高が減るわけではありません。利払費の分だけ債務残高が増加するためです。図表4のケース②-1のように、PBが黒字でも、黒字額が利払費を下回ると、債務残高は増加します。ケース②-2のように、黒字額が利払費を上回ってようやく債務残高は減ります。したがって、PBの黒字化はあくまで財政悪化に歯止めをかけるための前段階の目標にすぎず、PBの黒字化目標を一刻も早く達成することが望まれます。
最後に
今後は、さらなる高齢化の進展によって社会保障費がますます増加する一方で、人口減少によって税収が減少すると予想されることから、現行のままではますますPBの赤字が拡大していくと考えられます。財政悪化に歯止めをかけるには、現行の制度を見直し、行政サービスの縮小など私たちが享受する便益を減らすか、増税など私たち国民の負担を増やす、もしくはそのいずれも、という選択をせざるを得ないでしょう。聞きたくないような話ですが、次世代にも影響することなので、皆さんにも関心を持っていただければと思います。
(ニッセイ基礎研究所 神戸 雄堂)
筆者紹介神戸 雄堂(かんべ ゆうどう)
株式会社ニッセイ基礎研究所
研究・専門分野:財政
- ▼ニッセイ基礎研究所ホームページ(神戸研究員)
http://www.nli-research.co.jp/topics_detail2/id=52650?site=nli