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3分でわかる 新社会人のための経済学コラム

第105回 介護離職者数は年間約10万人!?〜他人事ではない介護問題〜

2018年11月1日

介護離職者数は年間約10万人

 急速な高齢者人口(65歳以上人口)の増加を背景に、介護・支援を必要とする方は年々増加しています。介護保険制度開始時の2000年度末の要介護(要支援)認定者数が256万人に対し、2017年度末には641万人とおよそ2.5倍になっています(※1)。
 一方で、介護サービスの供給は追いついていません。介護関係職種の有効求人倍率は3.93倍と、全職業の1.42倍を大きく上回り(※2)、2025年度には約34万人の介護人材が不足するとの試算もあります(※3)。介護サービスに期待が持てないとなれば、一層家族の負担が大きくなってしまいます。現在、介護・看護を理由として離職する方の数は年間約10万人にも及びます(図表1)。

(※1)厚生労働省「介護保険事業状況報告」
(※2)厚生労働省「一般職業紹介状況」。2018年7月の常用(パート含)の数値
(※3)厚生労働省「第7期介護保険事業計画に基づく介護人材の必要数について」

図表1:介護離職者数と高齢者人口
(資料)厚生労働省「雇用動向調査」、総務省「人口推計」

政府の掲げる「介護離職ゼロ」目標

 2015年に安倍内閣は、少子高齢化に真正面から挑み「一億総活躍社会(※4)」の実現に向け、「新・三本の矢」を掲げました(図表2)。その中で、「名目GDP600兆円」、「希望出生率1.8」に次ぎ、「介護離職者数ゼロ」の実現を目標にしました。生産年齢人口(15歳以上65歳未満人口)が減少し、人手不足が加速する中、介護を理由に離職する方がいることは日本経済にとってマイナスです。特に、中小企業にとっては、若い人の採用も難しくなる中で、企業の中核を担う人材が離職することは非常に深刻な問題となっています。

 そのような中で、政府は介護休業(※5)に関わる法改正を通じた各種制度の充実など、介護問題に取組んでいます。介護人材の不足に対しては、待遇改善による介護分野での就労促進に加え、外国人材受入れ拡大方針も示しており、介護サービスの担い手の確保に向け動いています。

(※4)若者も高齢者も、女性も男性も、障害や難病のある方も、誰もが生きがいを感じられる社会
(※5)労働者が要介護状態にある対象家族を介護するためにする休業

図表2:新・三本の矢のイメージ図
(資料)内閣府HPより作成

今後の企業の取組み、働き方改革

 上記のとおり、仕事と介護の両立を図る取組みは強力に推し進められていますが、最終的には従業員の介護離職問題に直面している企業、現場の意識が変わらなくては意味がありません。介護は突発的に問題が発生します。介護を行う期間・方策も多種多様です。そのため、多くの方は介護に関する複雑な制度への事前の理解が浅く、また、実際に介護問題に直面したことのない周りの理解が得られにくいことにより、せっかくある制度も活用できないこともあります。

 現在、仕事をしながら介護をしている方は約350万人もいます(※6)。政府は「未来投資会議」において、雇用・就業機会の確保を現在の65歳からを70歳まで引き上げることを検討しています。生涯現役時代が進む中、仕事と介護の両立は一部の方の問題ではなく、あらゆる方が直面する可能性があります。そのような中、介護に対する理解を事前に深め、仕事と介護を両立しやすい風土、働き方を作り出し、介護離職の防止に備えることが重要です。

(※6)総務省「就業構造基本調査」

(ニッセイ基礎研究所 総合政策研究部 清水 仁志)


筆者紹介

清水 仁志(しみず ひとし)

株式会社ニッセイ基礎研究所 総合政策研究部 研究員・経済研究部兼任
研究・専門分野:日本経済