はじめに
「新型コロナウイルス感染症」でお亡くなりになられた方々に対しまして、謹んで哀悼の意を表しますとともに、ご遺族の方々に心よりお悔やみ申しあげます。また、影響を受けられた皆様に心よりお見舞い申しあげます。併せて、最前線で献身的に診察・治療にあたってこられた医療関係の皆様をはじめとして、生活に欠かせない社会インフラを支えてこられた皆様に、心から敬意を表するとともに、深く感謝を申しあげます。
同感染症の世界的な流行により、経済活動等にも大きな支障が出ています。そのようなときだからこそ、「共存共栄」「相互扶助」の精神に基づく生命保険会社としての社会的使命を強く感じており、当社では、保険料払込期間の延長等の特別取り扱いや新規契約貸付の利息免除など、全国のお客様に対するさまざまな支援策を行ってきました。
こうした「新型コロナウイルス感染症」が流行する中においても、「お客様本位の業務運営」をこれまでと変わらずに最重要視しながら、各種の取り組みを進めております。具体的には、「新型コロナウイルス感染症」に関する各種の支援策に加え、多様化するお客様ニーズに的確にお応えすることを目指し、今年度からは認知症保障保険や糖尿病予防プログラムなど、新たな商品・サービスの提供を開始しました。
さらに、2019年7月からは、生命保険協会の協会長として、「お客様本位の業務運営」を進めることに生命保険業界をあげて徹底的に取り組みました。具体的には、会員各社の体制や取り組みについてアンケートを実施し、得られた気付き等を取りまとめ、各社にフィードバックすることで、業界全体として高度化を進めました。また、金融機関窓口販売においては、金融機関によるアフターフォローと適合性確認の強化に向けて、金融機関にベストプラクティスを提供し、ガイドラインも改正しました。さらに、外貨建保険に関する募集人教育の標準化を図るとともに、「外貨建保険販売資格試験」を導入することで、教育体制の整備を図っております。
生命保険事業を取り巻く環境は、人口減少や高齢化、超低金利の継続、デジタル化や先端ITの急速な進展などの構造変動の真っ只中にあります。さらに、「新型コロナウイルス感染症」の流行により、お客様の行動様式・ニーズが変化する可能性もあります。お客様意識の変化や技術の進展、社会の変化を見据え、それに応えることのできる会社であり続けるために自らも変化していかなくてはなりません。こうした変化に柔軟かつ迅速に対応することで、今後もお客様へ「安心」をお届けすることに努めてまいります。
2020年4月から5月にかけて発令された緊急事態宣言下では、営業職員は訪問を自粛し、お客様の生活状況等の確認や各種特別取り扱いのご案内等を、電話やメールで行っておりました。それに対するお客様のご反応として、非対面サービスの利便性を感じられた一方で、加入契約や今後必要な保障などについての詳しいことや重要なことは、従来どおり営業職員と対面で相談や確認をしたい、といったご意向も引き続き強いことが確認されました。一人のお客様がこの二つのご意向を併せ持っていることが、今後の契約者サービスのあり方を考えるうえでの鍵になると考えています。
一人ひとりのお客様のご意向に沿って対面と非対面のサービスをオーダーメイドで組み立てることで、デジタル化が進む社会にあっても、対面サービスの力、つまり「人」の力の価値が一層高まると考えております。当社としては、フェイス・トゥ・フェイスとデジタルの融合を加速させ、お客様にとって価値の高いコンサルティング・サービスを提供してまいります。
中期経営計画「全・進-next stage-」の最終年度を迎えるにあたって
当社では、2017年度から中期経営計画「全・進-next stage-」をスタートしました。「人生100年時代をリードする日本生命グループに成る」ことをスローガンに、2020年度末までに「保有年換算保険料4.5兆円」「お客様数1,440万名」「グループ事業純利益700億円」「自己資本6.5兆円」の4つの経営目標を掲げ、各領域での取り組みを進めてきました。
2019年度を振り返りますと、新たな保険商品の発売や、ヘルスケア事業など生命保険事業と親和性のある新たな事業への展開、先端ITの活用、グループ会社間でのシナジーの発揮等、中期経営計画の目標達成に向けて各分野で取り組んだ結果、保有年換算保険料は4.52兆円、お客様数については1,448万名、自己資本は6.68兆円となり、4つの経営目標のうち3つについて1年前倒しで達成することができました。一方で、グループ事業純利益については、「新型コロナウイルス感染症」の影響やはなさく生命の開業に伴う初期投資といった一時的な要因もあり、▲118億円となりました。
2020年度は、「全・進-next stage-」の最終年度であることに加え、次期中期経営計画につなげる重要な年柄として、2018年度に掲げた「収益力の強化」「業務と事業の変革」「グループ経営の推進」の3つの具体的な戦略に、引き続き取り組んでまいります。
具体戦略① 収益力の強化
具体戦略の一つ目は、「収益力の強化」です。販売・サービス、商品戦略といった保険事業と資産運用の両面から、全てのチャネルの販売力を高め当社の収益力の強化を目指してまいります。
販売・サービス
お客様を増やし、マーケットでのシェア拡大を目指していきます。そのために、当社の最大の強みであり、販売チャネルの中核である営業職員チャネルを継続して強化するとともに、多様なお客様ニーズに対応するチャネル展開を実施してまいります。
当社では、営業職員が年に1回、お客様一人ひとりを訪問し、入院や手術等の有無の確認・契約内容等をご案内する「ご契約内容確認活動」を2007年から実施しており、今後も約5万名の営業職員が、お客様に寄り添い、きめ細やかなお客様サービスを提供していきます。2019年4月からは新携帯端末「TASKALL」を、2020年1月からは順次、営業職員用スマートフォン「N-Phone」を導入し、AI等のIT技術を活用して営業職員のお客様対応力強化ならびに、お客様サービスの向上を図っております。また、サービスレベルの維持・向上に向け、営業職員一人ひとりを大切に育てる新育成体制を導入し、営業職員の知識・活動面での一層のレベルアップに取り組んでおります。
一方で、人口動態やライフスタイルの変化、お客様ニーズの多様化に伴い、営業職員チャネル以外の販売チャネルも台頭しております。こうした変化にも対応するべく、来店型店舗であるニッセイ・ライフプラザや、シニア・リタイアメント層を中心とした相続や資産形成ニーズへの対応としての金融機関窓口販売、また、自ら店舗へ赴き、ご自身で保険商品を比較したいお客様に向けた乗合代理店マーケットでのさらなるシェア拡大等、多様な販売・サービスチャネルを引き続き、展開してまいります。
商品戦略
時代とともにお客様ニーズは変化しておりますので、今後もお客様と社会に役立つ保険商品の開発に取り組んでまいります。
当社の主力商品である「みらいのカタチ」は、14種類の保険を組み合わせることで「死亡のリスク」だけでなく、多様化する種々のリスクに備えることができ、お客様の一生涯をサポートし続ける商品です。この「みらいのカタチ」に2019年4月から入院・外来手術等に備える保険、入院総合保険「NEW in 1」が加わりました。日帰り入院からまとまった金額の一時金をお受け取りいただけるようになったこと等から大変ご好評をいただき、販売件数は100万件*1を突破いたしました。
さらに、2020年4月からは、「みらいのカタチ」に認知症保障保険「認知症サポートプラス」を新たに加えました。当商品は、“人生100年時代”における課題の一つである認知症に備えるニーズの高まりを受けて開発しました。認知症の診断を受けた場合に加え、認知症の前段階である「軽度認知障がい(MCI)」の診断を受けた場合も一時金をお支払いできることが特徴です。さらに、生命保険業界初となる付帯サービスとして、声だけで認知機能をチェックできるアプリの提供も行っております。このように、認知症保障保険「認知症サポートプラス」は、認知症の早期発見・重症化予防を支援する商品・サービスとなっております。
また、多様化するニーズに迅速かつきめ細やかに対応するため、日本生命、大樹生命、ニッセイ・ウェルス生命に、2019年4月に開業したはなさく生命を加え、国内生命保険会社4社体制を構築しました。日本生命、大樹生命は、商品を相互に供給しながら、高品質な商品・サービスの提供を目指します。また、ニッセイ・ウェルス生命が金融機関窓口販売チャネルを、はなさく生命が代理店チャネルをそれぞれ主に担う体制となります。今後も、グループ一体となって幅広いラインアップの商品を機動的に提案できるように取り組んでまいります。
*1 新契約(保障追加利用分を含む)と保障見直し後契約の合計(2019年4月~2020年4月実績)
資産運用
世界的な低金利環境の長期化に加え、「新型コロナウイルス感染症」の感染拡大等により金融経済環境の不確実性が高まっております。そのような厳しい運用環境においても、長期・安定的に収益を確保するため、グローバルな分散投資により収益力の強化を図るとともに、厳格なリスク管理を通じてリスク対応力の強化に努めております。
2019年度も海外やクレジット、成長・新規領域への選別・分散投資を推進した結果、利差益は10年連続となる順ざやを確保しました。利回り向上に向けては、4年間で成長・新規領域に2兆円、うちESG投融資に7,000億円の数量目標を定めていましたが、おおむね1年前倒しで達成することができました。また、金融機関窓口販売においては、運用力の向上により、お客様からの根強いニーズがある円建商品の提供を継続するなど、商品ラインアップの確保にも努めております。
こうした資産運用の高度化を図る一方で、リスク管理の強化も図っております。損益や財務健全性への影響が大きいと想定される潜在的なリスク懸念事象を洗い出し、必要な対応策を検討・実施するフォワードルッキングなリスク管理を徹底し、あらゆるリスクへ備えてまいります。さらに、スチュワードシップ活動の充実等、機関投資家としての責任を一層果たすよう、取り組んでまいります。
具体戦略② 業務と事業の変革
具体戦略の二つ目は、「業務と事業の変革」です。近年、ITが進展して、デジタル技術が社会や人々の社会様式に入り込んできました。もはや、デジタルのない生活は考えられない「ノーデジタル・ノーライフ」時代が到来していると考えております。
これまでも、当社はデジタル化への取り組みを積極的に進めてきました。2012年には新契約手続きのペーパーレス化を実現し、RPAの導入数は業界トップクラスです。2019年度からはデジタル化と先端IT活用への取り組みを加速させるべく、デジタル5カ年計画「Next Value プロジェクト」をスタートし、業務の効率化、お客様の利便性の向上、営業職員等の生産性アップ、事業の拡大や新規事業の立ち上げを進めています。
また、先端ITの革新による事業環境の変化に対応するため、2018年度からはフィンテック対応の専管組織としてイノベーション開発室を設置しました。さらに、2020年4月に当社グループの新しいビジネスを創出するオープンイノベーション拠点として「Nippon Life X」を開設し、グローバル4極(東京・シリコンバレー・ロンドン・北京)で活動を開始しております。「Nippon Life X」では、生命保険領域のみならず、心と体の健康、就労、資産形成等を主要テーマとして取り組みを進めてまいります。
事業変革に関する具体取り組みの一つとして、2020年7月から糖尿病予防プログラムのサービスを開始しました。このプログラムでは、パートナー企業が提供する機器やツールを活用し、参加者が自身の体調をセルフモニタリングしつつ、日本生命病院等の保健師が遠隔で生活習慣の改善指導を行うことで、糖尿病の発症予防や健康増進を支援します。これまで培ってきたお客様、取引先企業、自治体といった方々との信頼関係を基に、まずは今後3カ年の累計で1万人以上の方にご利用いただくことを目指してまいります。
こうしたイノベーション取り組みや糖尿病予防プログラム等、デジタル活用あらゆる領域で加速させることが、間違いなく今後の競争力につながります。そして、主力チャネルである営業職員チャネルにおいても、フェイス・トゥ・フェイスの活動に一層の磨きをかけること、そして、デジタルを取り込みフェイス・トゥ・フェイスの活動とデジタルを融合させること、これによって、揺るぎないマーケットリーダーに成ること、これが私の描くみらい戦略です。今後もこれらの取り組みを通じて業務と事業の変革を推進することで、成長の原動力にしていきたいと思います。
具体戦略③ グループ経営の推進
三つ目のポイントは、「グループ経営の推進」です。相互会社である当社の最終的な経営目標は「契約者利益の最大化」であり、グループでの取り組みはその目標を達成するための手段の一つであると考えています。具体的には、国内外の生命保険事業とアセットマネジメント事業を柱に、グループ間での一層のシナジーの発揮と、グループ事業の発展を目指すことで、事業基盤を分散し、安定した収益の獲得を図るとともに、グループを通じて、お客様へ最適な商品・サービスを提供してまいります。
生命保険事業においては、大樹生命と営業職員チャネルで複数商品を相互供給しており、両社で商品ラインアップの拡充に取り組んでおります。ニッセイ・ウェルス生命とは、金融機関窓口販売領域における迅速な商品の供給、金融機関へのサポートの充実等を図り、グループ一体となって、お客様ニーズにお応えし続けることを目指してまいります。代理店領域では、お客様ニーズを的確に捉えた商品を機動的に提供するため、2019年4月にはなさく生命を開業し、医療保険等の販売を開始しており、多くのお客様にご好評いただいております。国内生命保険会社4社体制のもと、各社の強みを生かし日本生命グループとしての販売力を高め、市場開拓を進めてまいります。
アセットマネジメント事業においては、国内のニッセイアセットマネジメント、海外の米アセットマネジメント会社TCW等との協業を通じて、運用力の向上を図り、お客様の資産形成ニーズにお応えしてまいります。グループ各社間でのシナジー創出に向けた取り組みも推進しており、2019年11月に大樹生命の有価証券管理事務を日本生命に統合いたしました。加えて、2021年以降、日本生命と大樹生命のクレジット投資・オルタナティブ投資の運用機能をニッセイアセットマネジメントに移管し、リソースやノウハウ等の集約を通じて、運用態勢の強化を図ります。
また、海外事業においては、これまで豪保険会社MLCや米TCW等への出資を行い、グループ事業の分散・拡大に取り組んできました。さらに2019年8月に印リライアンス・ニッポンライフ・アセットマネジメント*2の子会社化、同年9月にミャンマーのグランド・ガーディアン・ライフ・インシュアランス*3の関連会社化を行いました。その結果、2019年度末時点で、7カ国で保険関連事業を、4カ国で資産運用関連事業を展開しており、日本生命グループで計14社が海外事業を営んでおります。このように海外事業が担う役割が大きくなる中、海外グループ会社のガバナンス体制を一層強化するため、2020年度に海外事業管理室を海外事業管理部に改組いたしました。海外事業管理部は、リスク管理・コンプライアンス等の領域を担う組織と密に連携しながら、海外事業の特性を踏まえた指導・助言を行います。
引き続き、グループ各社が自律的に事業の成長を目指すとともに、グループが一体となって戦略を構築し、日本生命グループ全体の販売力や運用力の一層の向上に結び付けていきます。
*2 ニッポンライフ・インディア・アセットマネジメントに社名変更
*3 グランド・ガーディアン・ニッポンライフ・インシュアランスに社名変更
全ての礎となる人材育成
日本生命にとって、人材育成とは、全ての礎であると考えています。一人ひとりの良い所を伸ばし、可能性を花開かせるべく、私自身が先頭に立って、人材育成に取り組んでまいります。また、多様な人材が多彩に活躍することも、会社の持続的な発展の基礎となります。お互いを認め合い、全員がいきいきと働く職場づくりに取り組むとともに、女性とシニアの活躍を柱に、引き続きダイバーシティ&インクルージョンも進めてまいります。加えて、健康経営の推進により、お客様・社会、役員・職員の健康増進にも取り組んでいきます。
女性活躍については、2016年度に策定した「女性活躍推進に関する行動計画」の女性管理職比率20%とする目標を、2020年度始に達成いたしました。今後は、新たな行動計画として、「女性管理職比率を2020年代に30%」、「女性部長相当職比率を2030年度始に10%程度」を目指し、引き続き、女性活躍推進をはじめとするダイバーシティ&インクルージョン推進に取り組んでまいります。
“大切な人を想う”のいちばん近くで。
当社は、人生100年時代を生きるお客様を、日本生命グループ全体でお支えすることを通じ、お客様にとって「親しみやすく、最も身近な生命保険会社でありたい」という想いを込め、「“大切な人を想う”のいちばん近くで。」を企業メッセージとしております。
全役員・職員がこの想いを胸に、これからもお客様に寄り添ったフェイス・トゥ・フェイスのサービスを提供してまいります。また、よりよい地域・社会づくりに貢献するため、全国の自治体と健康増進などの幅広い分野で協定を締結させていただくとともに、全社運動の「ACTION CSR-V~7万人の社会貢献活動~」を継続していきます。
また、当社は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会におけるゴールドパートナー(生命保険)として、「Play,Support.さあ、支えることを始めよう。」をスローガンに、オリンピック・パラリンピックのムーブメントを全国に拡げるさまざまな取り組みを展開してまいりました。「新型コロナウイルス感染症」の感染拡大を受けて、開催時期が延期となりましたが、今後もスポーツを通じた地域社会の活性化に取り組んでまいります。
最後に
当社は創業以来の「共存共栄」「相互扶助」の精神に基づき、堅実な経営を行ってまいりました。大規模な災害・感染症や金融危機が発生した際にも、着実・迅速なお支払いに努め、被害を受けた方々を支援することに、使命感をもって取り組んできました。
お客様への保障責任を全うし、お客様に「安心」をお届けするという生命保険事業の根幹は、今後も変わりません。昨年度は「お客様本位の業務運営」に徹底して取り組んだ1年でしたが、ゴールはありません。これからも、全ての領域で、徹底的にお客様本位で考え、不断に取り組みを発展させながら、お客様から信頼いただけるよう全力を尽くしてまいります。
現在の生命保険業界、金融業界を取り巻く環境は、社会構造の変化やITの進展等により、お客様の行動様式・ニーズが大きく変わる可能性もあるなど、激動の時代にあります。そのような時代においても、「お客様本位の業務運営」を通じてお客様に「安心」をお届けするといった根幹は変わりません。一方で、激動の時代にひるむことなく、積極果敢に変化を取り込み、お客様ニーズにお応えし続けていきたいと考えております。引き続き、ご支援、ご愛顧を賜りますよう、よろしくお願い申しあげます。
2020年7月