「あなたは、オタクですか?」と聞かれたら、どう答えますか?矢野経済研究所の「2019年「オタク」に関する調査」(※1)によると、15〜69歳までの男女のうち21.4%が何らかの「オタク」であったことがわかっています。
2020年6月5日
「あなたは、オタクですか?」と聞かれたら、どう答えますか?
一方でSHIBUYA109による来館者(15〜24歳女性)を対象とした「オタクに関する調査」(※2)では、72.6%が何かしらの「オタク」であると自称し、「ヲタ活(オタク活動)」をしていたと話しました。
世代間による「オタク」に対するイメージとは
矢野経済研究所の21.4%と比較すると大きな差があることがわかります。一体なぜなのでしょうか。この背景として、「オタク」に対するイメージに世代間ギャップが存在していることが挙げられます。
新社会人の皆さんの多くは、「オタク」に対して皆さん以前の世代が共有するネガティブなイメージを抱いている人は少ないのではないでしょうか。というのも、メディアが「オタク」を何か珍しいものとして取上げ、大々的に報道していたのは、今から30年近く前であり、皆さんはまだ生まれていません。また、2004年以降、映画『電車男』のヒットやAKB48の台頭により、秋葉原にスポットが当てられた際にメディアは、アキバやオタクの存在を、正に『電車男』のようなネルシャツにバンダナ、ケミカルウォッシュのジーパンを履いたステレオタイプなイメージ像にもとづいて世の中に提示していきました。しかし、秋葉原は外国人観光客向けに観光地化、再開発を経て、他の東京の都市同様に画一化し、更にはヲタ芸やコスプレなど「オタク」で賑わっていた秋葉原の歩行者天国も2008年以降中止され、ステレオタイプの「オタク」を見かける機会も減りました。(※3)
一方2000年代に入ると、「オタク」という語は、こだわりの強さを表す言葉として幅広く定着し、「マニア」、「コレクター」とほぼ同義として使われるようになります。また、その対象が、従来の「オタク」が消費してきたようなアイドルやマンガやアニメといった「コンテンツ」のみならず、ファッションやエステ、ネイルといった「自己投資」や「自分磨き」と呼ばれるような趣味も含まれるようになります。このような背景から、皆さんにとっての「オタク」は、ネガティブなイメージがそぎ落とされ、何かに対して熱心な人という、ポジティブなものとして再構築されていきました。そして、現在「オタク」という語は、若者の間で趣味やアイデンティティを表す言葉として定着しています。
“1億”総「オタク」社会の到来?
前述したとおり、矢野経済研究所の調査では、国民の21.4%が「オタク」であると算出していましたが、これはマンガ、アニメといったいわゆるアキバ系オタクの16市場が調査対象でした。一方で、SHIBUYA109の調査における「オタク」は、言うなればすべての娯楽市場にあてはまるため、7割以上の若者が「オタク」と自認する結果となったのです。釣りやゴルフなどのレジャーや映画鑑賞や食べ歩きをはじめ、世の中には数多くの趣味が存在しており、多くの人が何かしらの趣味に没頭しています。総務省の「平成28年社会生活基本調査」によると日本国民の87.0%が余暇に趣味・娯楽を楽しんでおり(※4)、前回調査である平成23年度よりも2.2ポイント上昇したといいます。この数値から見て誰もが何かしらの「オタク」であるという“1億”総「オタク」社会が到来しているといえるのかもしれませんね。
- (※1)株式会社矢野経済研究所(2019)『クールジャパンマーケット/オタク市場の徹底研究2019』株式会社矢野経済研究所, p27
- (※2)SHIBUYA109 lab.「around20女子の「ヲタ活」リアル実態を徹底調査!」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000052.000033586.html(2019年8月20日公開) - (※3)廣P涼(2020)「Z世代の情報処理と消費行動(5)−若者の「ヲタ活」の実態」『基礎研レポート』
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=63828?site=nli(2020年3月3日公開) - (※4)総務省「平成28年社会生活基本調査」
https://www.stat.go.jp/data/shakai/2016/pdf/gaiyou.pdf
(ニッセイ基礎研究所 廣P 涼)
筆者紹介
廣P 涼(ひろせ りょう)
株式会社ニッセイ基礎研究所、生活研究部 研究員
研究・専門分野:消費文化、マーケティング、ブランド論、サブカルチャー、テーマパーク、ノスタルジア