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3分でわかる 新社会人のための経済学コラム

第72回 「1億総活躍社会」ってどういうこと?

2016年2月1日

日本の人口

 「1億総活躍社会」は、安倍首相がアベノミクスの第2ステージとして打ち出したスローガンです。ユーキャン新語・流行語大賞において2015年の新語流行語トップテンにも選ばれています。
現在の日本の人口は1億2696万人(※1)ですが、2008年の1億2808万人をピークに減少に転じています。さらに2060年には8674万人にまで減少すると推計(※2)されています。

 「1億総活躍社会」の実現とは、日本の少子化に歯止めをかけ、50年後も人口1億人を維持すること、そして個性や多様性を尊重し、家や職場、そして地域で誰もが充実した生活を送れる社会を目指すことです。

図表1 日本の人口の長期推移(1600年〜)

(注) 将来人口は出生中位(死亡中位)推計
(資料) 国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集(2015)」、「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」

アベノミクス・新3本の矢

 安倍首相はこの1億総活躍社会を実現するために、アベノミクス・新3本の矢を打ち出し、いくつかの数値目標を設定しています。

①第1の矢:2020年頃までに「名目GDP600兆円」を達成

 「希望を生み出す強い経済」を実現し、経済情勢の着実な改善を目指します。日本の2014年度の名目GDPは約490.8兆円なので、5年間で約2割も増やす計画です。このためにイノベーションの創出を阻害しているさまざまな規制を見直すことや、対内直接投資の呼び込み、そして外国人観光客の需要の取込みなどを通して経済の好循環を確立することで実質経済成長率2%を上回る成長を目指しています。
第1の矢は旧アベノミクス3本の矢(※3)が1本に束ねられたものと位置づけられています。

②第2の矢:「希望出生率1.8」の実現

 「夢をつむぐ子育て支援」として「希望出生率(※4)1.8の実現」を数値目標にしています。2014年時点で日本の合計特殊出生率(※5)は1.42です。ちなみに出生率1.8は約30年前の水準であり、短期的な実現は容易ではないでしょう。
しかし、フランスのように一時1.66まで低下した出生率が現在2.0程度まで回復しているという例もあります。税財源の児童・家族関係給付への投入状況をフランスと日本で比較すると、2012年時点でフランスは対GDP比で3.2%を占めるのに対し、日本は1.35%と半分以下に留まっています。日本もフランスなどの例にならい児童・家族関係給付を拡充するなど、政策を打ち出す余地はあります。

③第3の矢:2020年代初頭までに「介護離職ゼロ」

 「安心につながる社会保障」として、2020年代初頭までに「介護離職ゼロ」を達成することを掲げています。介護を理由に仕事を離職する人は毎年10万人程度(※6)います。
2025年には65歳以上が総人口に占める割合は約3割、また75歳以上が高齢者全体の6割までに達すると見込まれており、要介護人口はますます増加していく見込みです。必要な介護サービスが提供できなければこうした介護離職者がさらに増加する可能性があります。
介護を担う人の約6割が40、50代と企業において重要な意思決定に携わる層が多く、介護離職の増加は企業においても大きな損失となります。
介護基盤の整備や介護職員の待遇改善といった介護サービス提供体制の拡大が必要です。

図表2 アベノミクス・新3本の矢

(資料) 首相官邸ホームページより

 政府は2015年度の補正予算において1億総活躍社会実現の緊急対策として、保育所の整備や介護基盤の整備加速化を打ち出しました。もっとも日本は少子高齢化の進行により社会保障費が増大し、財政再建が大きな課題となっており、税財源による政策拡充余地は限られています。今後思い切った施策を打ち出すには社会保障給付の抑制といった痛みを伴う改革も合わせて必要です。

 さらに共働き世帯が増加している中で男女双方の活躍を阻害しないためには、仕事と子育て・介護との両立がしやすい環境作りも欠かせません。人口減少により働き手が不足している現状において男女共に活躍できれば、経済成長にもつながります。そのためにはワークライフバランスの浸透や長時間労働の是正といった働き方の改革を社会全体で進めていくことも重要です。

 政府は2016年春頃に「1億総活躍社会」実現に向けた具体的なロードマップ「ニッポン1億総活躍プラン」をとりまとめる予定で、どのような改革案を打ち出せるか注目です。

(※1) 総務省統計局「人口推計(平成27年7月確定値)」より。
(※2) 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」の「出生中位・(死亡中位)」ケースより。
(※3) 従来のアベノミクス3本の矢とは、大規模な「金融緩和」、拡張的な「財政政策」、民間投資を呼び起こす「成長戦略」のことを指す。
(※4) 「希望出生率」=
{既婚者割合×夫婦の予定子ども数+未婚者割合×未婚結婚希望割合×理想子ども数}×離別等効果=
{(34%×2.07 人)+(66%×89%×2.12 人)}×0.938≒1.8
(※5) 合計特殊出生率は15〜49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの。
(※6) 家族の介護・看護を理由に離職・転職者は2011年10月〜2012年9月で10.1万人となっている。
総務省統計局「平成24年就業構造基本調査」より。

(ニッセイ基礎研究所 薮内 哲)