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リスク管理
トップリスクを踏まえた経営の高度化
トップリスクの選定と経営への活用
当社は、経営上特に重要なリスクを「トップリスク」と定義し、内部・外部環境の変化などを踏まえてリスク事象を網羅的に洗い出したうえで、健全性などへの影響度と今後数年間で発生する蓋然性を評価し、経営レベルでの議論を通じて選定しています。
なお、影響度の評価においては、レピュテーションなども含めた定性面も考慮しています。
そのうえで、トップリスク間の連鎖的な影響も踏まえて事業計画などを策定し、その遂行状況を経営会議などで確認しています。このように、経営レベルで、トップリスクの特定と選定、経営計画などの策定、計画の実行、取組状況などの評価、というPDCAサイクルを通じ、経営のさらなる高度化に取り組んでいます。
また、環境変化などに伴い、リスクが多様化・複雑化する中、留意するべきリスクは多岐にわたります。例えば、気候変動リスクは、生命保険・資産運用事業に与える影響のみならず、社会からの期待も大きい課題であると認識しています。そのほか、人権尊重への対応なども含め、サステナビリティ経営を進めていくことで、安心・安全で持続可能な社会の実現に貢献してまいります。
なお、現時点においては発生の可能性が極めて低い、または影響が軽微であるリスクのうち、主に外部環境の変化により将来的にトップリスクとなりうるものを「エマージングリスク」として定義し、動向を注視しています。
【トップリスクの影響度・蓋然性】
【トップリスクを活用したPDCAサイクル】
トップリスクと主な対応策
エマージングリスク(例)
ERM態勢の高度化
ERMとは
当社グループでは、 ERM(エンタープライズ・リスク・マネジメント)をベースとした経営戦略の策定を行っています。ERMとは、経営目標を達成するために、会社を取り巻くリスクを網羅的・体系的に捉え、それらを統合的かつ戦略的に管理・コントロールすることで、収益の長期安定的な向上や財務の健全性の確保に結び付けようとする枠組みのことです。
ERMをベースとした経営戦略の策定
当社では、経営体力としての資本をどの程度備え、どのようにリスクを取ってリターンを上げるかの方向性を表すリスク選好を定めています。
資本の範囲内で各種リスクを引き受けるといったリスクに対する基本的な方針のもと、歴史的な低金利環境や中長期的な人口動態の変化など、生命保険会社を取り巻く環境をふまえた中期リスク選好を定め、これらのリスク選好にもとづいた具体戦略を経営計画として策定しています。
具体的には、①多様化するお客様のニーズに即した保険商品の供給と、適切なプライシングによる収益性確保の両立、②資産運用リスクをコントロールしつつ中長期的な運用利回りの向上、③資本を活用した事業投資などによるグループ収益の確保、④外部調達を含めた自己資本の着実な積み立て、を中期リスク選好の柱としており、これらにもとづいた計画の実行を通じて、資本効率の向上と健全性確保の両立を目指しています。
なお、資本効率や健全性については、経済価値ベースの考え方も取り入れながら、総合的に経営判断をすることとしています。
こうしたERMの取り組みを通じて、多様な商品やサービスを提供し、ご契約者への配当の安定・充実を実現しつつ、長期の保障責任の全うに努めていきます。
自己資本の推移・着実な強化について
当社は、貸借対照表の純資産の部に計上されている基金・基金償却積立金*1や財務基盤積立金*2等に、負債の部に計上されている危険準備金・価格変動準備金等および劣後特約付債務(劣後債務)をあわせた額を自己資本として位置付けています。
自己資本強化の目的
- 世界トップクラスの健全性の確保
- さらなる成長投資による契約者利益の向上
- 機関投資家としての社会的役割の発揮
これまで、毎期のフロー収益からの諸準備金等の積み立てや、相互会社の中核資本である基金の募集を通じた基金・基金償却積立金等の着実な強化に努めるとともに、2012年度から劣後債務による調達を実施し、調達手段の多様化に取り組んできました。
中期経営計画では、グループ自己資本について「2023年度末9.0兆円」を目標とし、引き続き強化を図っていく方針です。
- *1 株式会社である連結対象会社では資本金等
- *2 大規模災害や感染症等に伴う支払いの増加、市場の急変動、新たな事業投資に伴うリスク等、さまざまなリスクの拡がりに備えることを目的とする任意積立金
基金について
基金とは、保険業法により相互会社に認められている資本調達手段で、株式会社の資本金にあたります。募集時に利息の支払いや償却期日が定められるなど、借入金に類似した形態をとりますが、破産などが発生した場合の元利金返済が、他の一般債権者に対する債務の返済やお客様への保険金のお支払いなどよりも後順位となります。また、償却時には、償却する基金と同額の基金償却積立金を内部留保として積み立てることが義務付けられているため、同額の自己資本が確保されます。
劣後債務について
劣後債務とは、破産などが発生した場合の元利金返済が、他の一般債権者に対する債務の返済やお客様への保険金のお支払いなどよりも後順位となる旨の劣後特約が付された債務です。
従って、債務ではありますが、自己資本に近い性格を有していることから、一定の範囲でソルベンシー・マージン総額への算入が認められています。
リスク管理の徹底
リスク管理の重要性
株価・金利等の経済状況の変動、医療技術の進歩、大規模災害やパンデミックの発生、サイバー攻撃の高度化・複雑化など、生命保険会社を取巻く環境は大きく変化しています。こうした様々な要因から生じるリスクについては、的確に把握し、適切に管理していくことが非常に重要であり、フォワードルッキングなリスク管理を推進しています。
このような認識のもと、当社ではグループ会社も含め、リスク管理態勢の整備とその適切な運営に努めるとともに、その高度化に取組んでいます。
リスク管理体制
リスク管理にあたっては、「内部統制システムの基本方針」に定められたリスク管理体制に従い、経営会議の諮問機関であるリスク管理委員会およびその諮問機関である各専門委員会において、各種リスクの特性に応じた適切なリスク管理を行うとともに、各種リスクが全体として経営に及ぼす影響について、統合的な管理を行っています。
また、2022年度にはリスク管理委員会の諮問機関として情報資産管理専門委員会を設置し、データ保護・リスク管理に係る諸問題の審議を行うとともに、これらのリスク管理の状況は経営会議、取締役会へ報告する体制を整備しています。
加えて、収益部門と分離されたリスク管理部門を定めることで相互牽制体制を構築するとともに、内部監査部門がリスク管理の実効性について検証・チェックを行うなど、二次牽制機能の確保も図っています。
また、グループ会社に係るリスク管理については、「グループ会社リスク管理方針」を制定し、当社グループにおける統合的なリスク管理を行うとともに、各グループ会社に対し、リスクの種類、特性および軽重に応じて、当社における各種リスク管理の適用および当該グループ会社による各種リスク管理に関する管理・指導などを実施しています。加えて、グループ会社のリスク管理状況などを定期的に確認するとともに、主要保険子会社における担当部門と意見交換を実施するなど、当社グループにおけるリスク管理の高度化に向けた取り組みを実施しています。
【リスク管理体制】
統合的リスク管理
当社は、さまざまなリスクが全体として会社におよぼす影響を統合的に管理する観点から、統合的リスク管理を実施しています。当社の統合的リスク管理においては、各種リスクを部門横断的に一元管理するとともに、統計的なリスク計測等を通じて、各種リスクを統合し、会社全体のリスクの状況を総合的に管理しています。
保険引受リスク管理
保険引受リスクとは、経済情勢や、保険事故の発生率、運用実績、事業費支出などが保険料設定時の予測に反して変動することにより損失を被るリスクです。
お客様からお引き受けしたご契約に対して、長期にわたり責任を果たしていくため、安定的な保険金などのお支払いが可能となる保険料の設定や、保険のお引き受け時の診査・査定を適切に実施することにより、保障責任を全うするためのリスクコントロールを図っています。
保険料設定に関わるリスクへの対応
当社は、信頼できる統計データを基に、医師やアクチュアリー(数学的な手法を用いて、保険料設定や財務健全性に関与する専門職)などの専門的資格を持つ職員によって保険金などのお支払いの発生率を分析したうえで、保険料を設定しています。さらに、設定した保険料をさまざまな面でシミュレーションし、将来にわたってお客様への保障責任を果たすことができるかを検証しています。
契約選択・支払査定に関わるリスクへの対応
ご契約のお引き受け時には、医師資格を持つ職員や医学的な専門知識を有した職員による医学的観点からの診査・査定に加え、モラルリスクの観点からも専門の職員による査定を行っています。また、診査・査定の結果、必要に応じ、特別な条件(保険料の割増等)を付けてお引き受けさせていただくなどの対応を行い、多くのお客様に適正な保険料で多様な保障を提供しています。
さらに、保険金などのお支払い時にも、医師資格を持つ職員や医学的な専門知識を有した職員による査定を行うなど、十分なリスク管理を行っています。
流動性リスク管理
流動性リスクは、資金繰りリスクと市場流動性リスクに分けられます。
資金繰りリスクとは、大規模災害などによる予定外の資金流出が生じたことで資金繰りが悪化し、資金確保に通常よりも著しく低い価格での資産売却を余儀なくされることにより損失を被るリスクです。資金繰りリスクに対しては、資産運用計画や日々の資金繰りにおいて、流動性の高い資産を一定の水準以上確保することにより対応しています。
市場流動性リスクとは、市場の混乱などにより市場において取引ができなくなることや、通常よりも著しく不利な価格での取引を余儀なくされることにより損失を被るリスクのことをいいます。市場流動性リスクに対しては、市場環境に応じて資産ごとに適切な取引限度額を設定するなどの対策を実施しています。
資産運用リスク管理
資産運用リスクとは、保有する資産・負債の価値が変動し、損失を被るリスクであり、市場リスク・信用リスク・不動産投資リスクに分類されます。生命保険は長期にわたるご契約であるため、資産運用においても負債特性を踏まえた長期的な観点からのリスク管理が必要です。
このため、中長期的な運用成果を重視したリスク・リターン分析などを通じて、効率的なポートフォリオ管理を行うとともに、ポートフォリオの状況やマーケット動向に対するきめ細かなモニタリングを通じて、長期的な収益の安定・向上に努めています。
市場リスク管理
市場リスクとは、金利や為替、株式などの変動により保有する資産・負債の価値が変動し、損失を被るリスクです。市場リスクの管理にあたっては、投融資取引に伴う過大な損失の発生を抑制する観点から、必要に応じて資産ごとなどに運用限度枠を設定のうえ、モニタリングを実施し、リスク分散に留意したポートフォリオの構築に努めています。
また、市場リスクをコントロールするため、市場の環境変化によってどの程度まで損失を被る可能性があるかを、リスク量として統計的に算出し、このリスク量が適切な範囲内に収まっているかどうかのモニタリングを実施しています。
信用リスク管理
信用リスクとは、主に貸付金や社債について、信用供与先の財務状況の悪化などにより、資産の価値が減少・消失し、損失を被るリスクです。信用リスクの管理にあたっては、投融資執行部門から独立した審査管理部門による個別取引の厳格な審査など信用力分析を行う体制の整備、信用リスクが特定の企業グループや国に集中することを防止するための与信リミットの設定・モニタリングなどにより、良質なポートフォリオの構築に努めています。
また、信用リスク量の計測として、信用供与先の財務状況の悪化などによってどの程度まで損失を被る可能性があるかを、リスク量として統計的に算出し、このリスク量が適切な範囲内に収まっているかどうかのモニタリングを実施しています。
不動産投資リスク管理
不動産投資リスクとは、賃貸料等の変動などにより不動産収益が減少する、または市況の悪化などにより不動産価格が下落し、損失を被るリスクです。不動産投資リスクの管理にあたっては、個々の不動産投資案件について、投融資執行部門から独立した「財務審査部」による、厳格な審査を実施しています。また、投資利回りや価格に関する警戒域を設定し、モニタリングを実施しています。
事務リスク管理
事務リスクとは、役員・職員および保険募集人が正確な事務を怠る、あるいは事故・不正などを起こすことによりお客様や社外の方へ影響を与える、または会社が損失を被るリスクです。
事務リスクの管理にあたっては、発生事象の収集・分析を通じた全社的な事務リスクの把握と、再発防止策の策定およびその効果性の検証に取り組むとともに、事務知識の教育・事務規程の整備などの事務改善にも取り組んでいます。
システムリスク管理
システムリスクとは、コンピュータシステムのダウンや誤作動、不備、不正使用などにより損失を被るリスクです。
システムリスクの管理にあたっては、コンピュータシステムの企画・開発・運用・利用における安全対策基準の策定や遵守状況の確認、適切な利用に向けた指導を定期的に実施しています。
具体的には、コンピュータシステムのダウンヘの対応として、全社的なコンティンジェンシープラン(緊急時対応計画)の整備、システム障害・サイバーセキュリティインシデント発生を想定した対策訓練の実施を通じて有事対応の定着を図っています。また、バックアップセンターを設置し、災害の発生リスクにも備えています。
コンピュータシステムの誤作動、不備、不正使用などへの対応として、重層的なセキュリティ対策の実施、サイバー攻撃などへの対応態勢の整備、防御・検知対策や全役員・職員(パートタイムや有期雇用契約職員も含む)への情報セキュリティ教育・訓練の実施、社外専門機関との連携、グループ各社のセキュリティ対策推進など、継続的な強化に取り組んでいます。
加えて、クラウドサービスの活用など、システム開発・利用・運用に関する外部委託の増加を踏まえ、委託先のシステムセキュリティリスクなどへの対応状況に関するチェック体制の強化に取り組んでいます。
上記の取組について、外部の第三者機関による検証や監査部による検証・取締役会への報告を行い、態勢強化に取り組んでいます。
情報資産管理
情報資産管理とは、お客様情報、従業員情報・経営機密情報等の当社が保有・管理する全ての情報を適切に取り扱い保護すること、必要に応じて情報の開示等を行うこと、プライバシー保護に係るリスクを管理することです。
当社では、「情報資産保護に関する基本方針」を制定・公表しており、関連法令・規範の遵守、管理態勢の整備、全役員・職員への教育の実施に加え、社外の知見も踏まえながら適切な管理に努めています。
なお、ニッセイ情報テクノロジーでは、当社グループの情報システムを支える会社として、個人情報を含むさまざまなデータを適正に運用し、厳重な保護管理を行っていきます。2001年3月に個人情報の適切な取扱いを行う事業者に付与される「プライバシーマーク」の認証を取得しました。
災害対策について
大規模地震発生時や感染症まん延時においても、各種サービス等をお客様へ提供できるよう、業務継続計画(BCP)の策定を行っています。
また、営業時間内の地震や津波なども想定し、お客様避難誘導訓練や災害対策備蓄品の点検を実施する等、常日頃から災害対策に努めています。
東日本大震災発生時には、社長を本部長とする災害対策本部のもと、災害死亡保険金等の全額支払いや、安否確認活動等を通じた漏れのないお支払いの実施、義援金寄付や物資のお届け等の復興支援活動を行いました。
近年激甚化する風水害等、さまざまな災害の経験も踏まえ、一層の災害対策の向上を推進してまいります。