日本経済新聞社入社、ロンドン駐在、経済部編集委員等を経て、2006年に上智大学大学院地球環境学研究科教授に就任、2015年より同客員教授、一般社団法人環境金融研究機構(RIEF)代表理事。環境金融論、CSR 経営論などを専門とし、環境省、内閣府等の審議会、研究会に所属、環境を中心に幅広く執筆を続けている。
日本生命のCSR重要課題について
開催日:2016年2月5日(金)
2015年度は、当社のCSR重要課題について、CSRや金融に卓越した知見をお持ちの有識者と意見交換を実施しました。
有識者
藤井 良広 様
一般社団法人 環境金融研究機構
代表理事
古谷 由紀子 様
サステナビリティ消費者会議
代表
サステナビリティ消費者会議代表。公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会(NACS)常任顧問、公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会理事(2004~2012)、一般財団法人CSOネットワーク評議員、特定非営利活動法人ACE評議員。消費者庁、内閣府、経済産業省の審議会、研究会にも参画。
ファシリテーター
福島 隆史 様
(サステナビリティ会計事務所 代表取締役)
日本生命保険相互会社出席者
中村 克 (取締役常務執行役員)
山内 千鶴 (執行役員CSR推進部長)
高田 保豊 (クレジット投資部長)
藤山 富美恵 (CSR推進室長)

※出席者の所属・役職はダイアログを開催した当時のものです。
意見交換
CSR重要課題を経営に
福島様
日本生命様では総代会やニッセイ懇話会を通じて、ステークホルダーの声をお聞きするお取組はされておりますが、今回はCSR重要課題をテーマに意見交換を実施したいと思います。まず、有識者のお二方よりマテリアリティの意義について、ご解説いただけないでしょうか。
藤井様
多種多様なCSRのテーマの中から、何に取り組むのがその企業と社会にとって最もコスト対効果が大きいか。これを考え、「価値創造」の最大・最適化を図っていこうというのがマテリアリティです。大企業ほど様々なマテリアリティが挙げられ、結局、網羅的なものになってしまう傾向があるため、絞り込み、評価、見直しが重要なポイントとなります。
古谷様
マテリアリティの抽出においては、先にステークホルダー側から課題や期待を聞く方が、より具体的な社会要請に基づく検討ができると感じています。しかし、実際にはステークホルダーに直接聞くのは難しいので、御社ならではのやり方、例えば総代会等を通じてどこまで社会課題を認識したうえで重要性を判断できたか、という点が重要になります。御社はどのような手順でマテリアリティを抽出されたのでしょうか。
藤山
グローバル・コンパクトなどの外部イニシアティブや各種CSR調査、生命保険協会の調査や同業他社等の動向、総代会やニッセイ懇話会でご契約者からいただいたご意見等をもとに、当社に対する期待や要請事項を整理しました。これに、外部評価機関の評価時配点や、最大のステークホルダーであるご契約者のご意見による重み付けと、社内の課長・若手層を中心としたワークショップを開催し、社会と当社の両軸からの優先順位付けを行いました。最終的には、経営層の確認を経て今般のマテリアリティ(CSR重要課題)を抽出しています。
山内
若手職員がワークショップに参加することで、自身も経営に参加しているという意識の醸成になったと思います。
藤井様
従業員が部門を横断して経営について意見交換したり、企業価値にコミットする機会が多いのは良いことです。是非、継続されてください。
健全で豊かな社会を創るために
福島様
試行錯誤されながらマテリアリティの選定を進めてこられ、まずは、日本生命様らしいマテリアリティが抽出できたのではないかと思います。それでは、抽出したマテリアリティについて、有識者のお二方より、ステークホルダーの視点でご意見をいただきたいと思います。
藤井様
何を重視すべきかと考えると、やはり本業が軸になるでしょう。一方で、「本業そのものがCSR」という考え方が極論にまで至り、本業さえやっていればよいというような誤解が一部にあると思います。本業に取り組むのは当然ですが、本業を強化し、より大きな社会的価値創出を目指すという視点から見ると、社会貢献活動による社会課題解決への貢献も実は重要なのではないかと思います。
山内
今年度から、7万人の全役職員による社会貢献活動を展開しています。例えば、がん検診受診率の低い地域では、自治体と協力してがん検診ビラを配布し受診を勧奨したり、県警と協力して振り込め詐欺未然防止に取り組むなど、日々の営業活動の中で地域の課題に目を向けた取組をしようという流れができつつあります。
藤井様
営業活動の中で、お客様や取引先などにも御社のお取組をしっかりと伝えていってください。伝えることによってお客様、ひいては社会の御社に対する価値判断は大きく変わります。
古谷様
伝えることの重要性に関連して申しあげますと、社会が持続可能な成長を遂げていくためには、社会を構成する消費者が、消費者としての役割を認識し、自らも行動するような価値軸を持つことが鍵となります。国内では消費者教育推進法で、グローバルではISO26000の「課題」に、SDGsでは目標の一つとして「持続可能な生産と消費」が問題になっています。日本社会においては、消費者が自らの社会的役割を十分認識できていないという現状があり、これこそが消費者課題ではないかと捉えています。契約者への働きかけなどを通じて、消費者とともに健全な社会を創っていく役割も御社には担っていっていただきたいと思います。
中村
当社は苦情も含めお客様から多くのお声を頂戴しております。お客様の声から、消費者全体の視点も捉え、経営あるいは日々の営業活動の中で活かせるとより良いかと思います。
古谷様
政府や消費者団体も消費者課題に取り組んでいますが、やはり企業が消費者の実態を一番掴んでいるので、この課題に取り組めるチャンスがあります。是非、御社もお客様の声を活かして、消費者教育に取り組んでください。
中村
消費者の実態を理解するためにも、当社では消費生活アドバイザーの資格取得を推奨しています。当社は営業職員によるフェイス・トゥ・フェイスの活動が中心となるため、消費者の視点での取組は重要と理解しています。こちらは大変大きなテーマだと思いますので、今後ともご意見をいただければと思います。
機関投資家として
高田
機関投資家として、全国のご契約者からお預かりした大切な保険料を確実に増やして還元することは、当社の重要な使命です。また、資産運用の際には、社会貢献に資するかどうかといった視点を常に重視しています。最近の事例では、全国のクリーンエネルギー事業への積極的な投融資、パリ市が発行したグリーンボンドやロンドン交通局が発行した環境配慮型債券への投資など、社会貢献に資する投融資をグローバルに展開しています。環境や次世代への貢献といった視点は、機関投資家として今後も一層重視してまいります。
藤井様
お客様に、自分の払った保険料がこういうところに使われているのだと伝えることも重要です。マテリアリティに「ステークホルダー・エンゲージメント」がありますが、国内最大級の機関投資家として、やはりスチュワードシップ・コードへの対応は重要です。
高田
当社の株式投資は、投資先企業の方とのフェイス・トゥ・フェイスの関係を重視し、相互に対話させていただくことで、株主価値を高めていくという「対話型ガバナンス」を、以前より重視してまいりました。株主総会の議案書のみでの議決権行使判断では、機関投資家としての責任を十分に果たせない場合もあるのでは、と考えております。
藤井様
是非、マーケットリーダーとして、良い資金循環をつくってください。
社会とともに持続可能な成長を目指して
藤井様
繰り返しになりますが、御社の取組をお客様にしっかり伝えていただき、生命保険業界をリードする企業として、保険業界のCSRあるいは経済界のCSRを担っていっていただきたいと思います。
古谷様
従業員ワークショップも開きながらマテリアリティを抽出し、真摯に取り組もうとされているのが分かります。今後は、会社全体で取り組む社会課題と各地域のニーズに寄り添って取り組む課題を効果的に組み合わせて取り組んでいかれると、よりよいものになると思います。
藤山
伝えることの重要性を痛感いたしました。お客様に支持・共感いただけるよう、最大の伝達者である営業職員と協力して取り組んでまいりたいと思います。
高田
ご契約者からお預かりした大切な保険料を運用させていただいておりますので、どう運用しているかということについても分かりやすくお伝えすることに努めていきます。
山内
経営理念は不変的なものですが、社会課題は変化していきます。経営課題をCSRの側面から捉え直し、日々の業務の中でどう実践していくべきか、これから高い視座の中で考えていくよう努力してまいりたいと存じます。
中村
CSRや金融に高い知見をお持ちのお二方にご助言をいただけたことは大変有意義でした。CSRという言葉の重みを改めて認識し、日本生命が背負っているものの奥行きの広さを感じました。生命保険会社としてお客様に対する保障責任をしっかりと果たし、また、お預かりした保険料の公共性も踏まえた資金の運用や様々な活動を通じて、社会とともに当社も成長していけるよう努力してまいります。
当社は、ステークホルダーの皆さまからいただいたご意見を経営や日々の活動につなげていくことで、 生命保険会社としての社会的責任を果たし、安心・安全で持続可能な社会づくりに貢献していく企業 でありたいと考えています。