1. 日本生命保険トップ
  2. 知る・楽しむ
  3. 新社会人のための経済学コラム
  4. 第61回 高齢者と健康、男性19%・70%・11%、女性12%・88% さて何の数字?

3分でわかる 新社会人のための経済学コラム

第61回 高齢者と健康、男性19%・70%・11%、女性12%・88% さて何の数字?

2015年3月1日

高齢者約6000人を20年間追跡したデータがある!

 “健康のまま長生きできること”は国民の誰もが求める根源的なニーズです。しかしながら、同じ高齢者でも比較的若い段階で健康を損ねてしまう人、他方90歳近くになっても元気ハツラツ過ごしている人がいます。同じ年齢ながら健康状態がさまざまであることは、周囲を見渡してもうなずけるところではないでしょうか。

 では自分自身はどうなっていくのか。いつまで健康のまま自立した生活をおくれるのか、非常に関心の高いところですが、現代の医学をもってしても確実な予測はできません。ただ、参考になる貴重なデータがあります。それは、日本の高齢者約6000人を20年追跡して、「加齢に伴う生活の自立度(≒健康状態)の変化」を明らかにした次のデータです。

図表1 加齢に伴う自立度の変化パターン

(資料) 全国高齢者パネル調査(JAHEAD)結果より
東京大学高齢社会総合研究機構編「東大がつくった高齢社会の教科書」(潟xネッセコーポレーション、2013年3月)より引用し作成

 データの見方ですが、横軸は年齢、縦軸は生活の自立度の高さを表しています。自立度は、確立された測定スケールである「基本的日常生活動作(ADL:Activities of Daily Living)」(※1)と「手段的日常生活動作(IADL:Instrumental Activities of Daily Living)」(※2)の合計点から評価され、3点は完全に「自立」(全く他人のサポートがなく生活が可能)な状態、2点、1点になるにしたがい自立度が下がり、生活において他人の援助が必要な割合が増えていきます。0点は「死亡」を表します。

男性は3パターン、女性は2パターン!

 男性では3つの線、女性では2つの線が描かれていますが、これがまさに60歳以降の加齢に伴う自立度の変化パターンです。変化のパターンは人の数だけ異なるわけですが、約6000人のパターン(線)を解析すると、男性では3つのパターン、女性では2つのパターンに大きく集約されるということなのです。

 具体的に申しあげると、男性では、60歳を過ぎて自立度が急激に低下してしまう人が19%、70歳をすぎてから緩やかに自立度が低下していく人が70%、他方90歳近くになっても高い自立度を維持する人が11%の割合に分かれることを示しています。つまり、例えば60歳の人が100人いれば、19人は早期に健康を損ね、11人はいつまでも元気で、残りの70人は70歳をすぎてから徐々に他人の援助を必要とするようになることを示しています。誰もがいずれかのパターンを歩むと言っても過言ではありません。

 女性については、60歳を過ぎて早期に自立度が低下してしまう人は男性よりも少なく12%、残りの88%は男性の70%と同様に、70歳をすぎてから緩やかに自立度が低下していきます。なお、男性に見られる11%の自立度維持パターンが解析結果として表出していませんが、これは「移動」能力の低下が男性に比べて大きいことが影響していることがわかっています。女性は男性に比べて総じて骨や筋力が弱いことが原因です。

健康長寿の実現に向けて

 以上のデータは次の2つのことを示唆しています。一つは「生活習慣病」の予防の重要性です。早期に自立度を下げてしまう人の多くは、「生活習慣病」が原因であることがわかっています。脳梗塞等を患うことで急激に自立度を下げてしまっているのです。

 もう一つは、「身体的な虚弱化」に対する予防の重要性です。男性の7割、女性の約9割の人が、70歳をすぎてから緩やかに自立度を下げていますが、あくまで一つのパターンにすぎません。老化は避けられないとは言えども、高齢になっても日頃から足腰を鍛える、健康的な食生活に留意する、積極的に人と交流し活動する等、健康的なライフスタイルに努めれば、自立度が低下するタイミングを少しでも後ろに遅らせることは十分可能と言えます。特に多くの女性は、足腰の強化をはかることで自立度低下のタイミングを遅らせることが期待されます。

 こうしたデータを足がかりに、一人でも多くの人が、健康意識をより高め、予防行動に邁進されること、そして、「健康のままの長生き」を手に入れていただくことを切に願っています。

(※1) ADL: 日常生活を送るうえで必要な最も基本的な生活機能。食事や排泄、着脱衣、移動、入浴など。
(※2) IADL:日常生活を送るうえで必要な生活機能でADLより複雑なもの。買い物、洗濯、掃除など家事全般、金銭管理や服薬管理、外出して乗り物に乗ることなど。

(ニッセイ基礎研究所 前田 展弘)

筆者紹介

前田 展弘(まえだ のぶひろ)

株式会社ニッセイ基礎研究所、生活研究部 主任研究員
研究・専門分野:ジェロントロジー(高齢社会総合研究)、超高齢社会・市場、QOL(Quality of Life)、ライフデザイン