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3分でわかる 新社会人のための経済学コラム

第60回 日銀の国債保有率、数年後には50%を超える??〜長期金利が史上最低を更新する背景には、異次元金融緩和策〜

2015年2月1日

国債の長期金利が史上最低を更新

 現在、国債の長期金利が史上最低(2015年1月19日時点、10年金利0.200%)を更新しています。

 これを受けて、平成27年1月の長期固定金利住宅ローンのフラット35(返済期間21年以上)は1.47%(※1) まで低下しました。図表1のとおり、5年ほど前、3%近辺を推移していた固定金利の半減で、家計もより低い利率でお金を借りやすくなり、この低金利局面の恩恵を受けているといえるでしょう。しかし一方で、金融機関側に立つと、安全資産である国債を買っても運用益をあげられない厳しい市場環境とも考えられます。

 さて、皆さん、長期金利がこれほど低下している背景に、日銀の異次元金融緩和があるのをご存知ですか?

日銀の異次元金融緩和

 通常、銀行や生保、海外投資家といった機関投資家の長期国債に対する需給により、長期金利は決定します。極端な事例を挙げると、財政危機が浮上すれば国債は売られ、価格は下落し、金利は上昇するといった具合に、市場の評価に晒されることを意味します。しかし、今日の日本は異次元金融緩和策により、日銀が大量の国債を購入しており、需給バランスが需要過多になっています。加えて、民間金融機関は、金融取引の担保にも必要な国債の売りに慎重になってきています。このため、国債市場で品薄感が強く意識され、国債の価格は一方的に上昇(金利は低下)しやすくなっているのです。

 そもそも日銀は消費者物価の前年比上昇率2%を安定的に実現することを公約し、その手段として、国債の大量購入を行っています。そして、具体的には次の3つの効果を見込んでいます。

  1. 日銀の国債大量購入により、国債市場の需給バランスを調整し、国債価格を上昇(金利低下)
    させ、企業や家計が低い金利でお金を借りられるようにしようという金利低下効果
  2. マネー供給量を増やすことで、いずれインフレになる(物の価値が高くなる)ことを家計や企業に
    意識させ、貯蓄ではなく消費や投資意欲を高めてもらおうというインフレ期待効果
  3. 金融機関が国債を日銀に売却して得た金を、企業向けの貸出しにまわしてもらおうという
    ポートフォリオ・リバランス効果

 徐々に、2のインフレ期待効果や3のポートフォリオ・リバランス効果も出てきていますが、現象として一番うまく機能しているのが1つめの金利低下なのです。

日銀の国債購入による金利の影響

 異次元緩和(2013年4月4日)以降、年間50兆円の長期国債を、追加緩和(2014年10月31日)以降、年間80兆円を目標に長期国債を懸命に購入しているため、当然、日銀の国債保有額は急速につみあがっています(図表1)。

図表1 10年長期金利及び、フラット35借入金利、日銀の長期国債保有額推移

(資料) 日本銀行、財務省、住宅支援機構ホームページ、各データベースより筆者が作成(2015年1月19日時点)

 日銀の国債保有額(※2) は232.9兆円(2014年9月末の速報値)となり、保有比率ではじめて保険・年金基金の保有額を上回る22.9%まで急拡大しました。このペースでの買入れを進めれば、2018年には50%(※3)を超えるとの試算もあります。

図表2 国債の保有主体割合

(資料) 日本銀行、「資金循環統計」より筆者が作成

 また、日銀は、市場機能の低下を最小限に抑える必要があり、できる限り市場に歪みを与えることなく大量の国債を買い進めています。そのため、市場に多く出回る国債を買わざるを得ません。結果、日銀の国債保有銘柄は、2013年4月以降財務省が新たに発行した国債(新発債)ゾーンに偏っており、この傾向は図表3から明らかです。

図表3 日銀の国債保有割合(残存年数別)

(資料) 大和総研「Poet−SB」 、日本銀行、各データベースより筆者が作成
(注) 変動利付国債や物価連動国債等は除き、残存が2年以上の固定利付き国債に限定。
(注) 図表3の新発債ゾーンには、新発債でない銘柄も含まれている点に留意。

 たとえ一旦市場に出回った新発債であったとしても、日銀が早晩買入れることが前提であるため、一連の政策が財政ファイナンス(※4)に類すると各誌でささやかれる所以はここにあるでしょう。日銀がお金を刷って、国の借金を穴埋めしているとみなされれば、円の信頼は損なわれてしまいます。

 異次元の金融緩和策導入、更に追加緩和と、金利の低下が進み、償還までの期間が長い国債の金利(4年金利)までマイナスになりました(2015年1月19日時点)。しかし、目標である物価2%が達成できれば、米国のように、日銀も出口戦略を策定することになります。日銀の国債大量購入がなくなれば、金利は上昇に転じることでしょう。

 いずれにせよ、少なくともこの平時では考えられない超低金利(※5)は、日銀の強い制御(官製相場)に起因しており、いつかは金融緩和政策の出口を迎えることを理解しておきましょう。

(※1) 住宅支援機構ホームページ「【フラット35】金利情報」より
(※2) 集計対象:国債及び、財融債、国庫短期証券
(※3) ロイターホームページ「日銀特集(日本国債市場で高まる日銀の存在感)」より
(※4) 国の発行した国債等を日本銀行が直接引受けることをいう。
(※5) もちろん、低金利の背景に、原油安に伴う先進国の物価低迷といった他の外的要因もある。

(ニッセイ基礎研究所 大山 篤之)