第8回 ESGと投資 ~投資と何の関係があるの?~

2023年12月20日

ESGは投資とどのような関係があるのでしょうか。企業への投資には企業の活動をサポートする役割があり、特に様々なESG課題への取り組みを後押しする投資はESG投資と呼ばれています。以下では、ESG投資について、その概要や動向、投資収益への影響などについて確認します。

ESGは企業にとって企業価値向上につながる重要な経営課題となっていますが、課題解決には長期的な視点に立った粘り強い取り組みが必要であり、場合によっては、多額の資金を要することにもなります。
気候変動への対応を例にとれば、脱炭素に向けた技術開発や自然災害リスクの低い地域への事業所・生産拠点の移転、法改正や規制変更に対応した主要製品や事業戦略の転換などが求められることになりますが、時間や資金なしに実行できないことは容易に想像されます。

こうした企業による取り組みを後押ししたり、資金面で支えたりするのが投資の役割です。特に、ESG課題の解決に寄与し、持続可能な地球環境や社会の実現に貢献する投資はESG投資と呼ばれています。

ESG投資の残高は近年、急速に積み上がっています。NPO法人日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)によれば、国内の機関投資家による2022年のESG投資残高は493兆円で、運用総額に占める割合は61.9%となっています。2017年の35.0%から5年で約1.8倍に積み上がった計算であり、如何に急速に残高が増加したかを伺い知ることができます。

背景には、世界各地で異常気象による被害が頻出したり、人権問題が取り沙汰されたりしたことで、世界的にESGへの関心が高まったことがあります。海外でESG投資の機運が高まったことに加え、国内でも、SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)という言葉が拡がり、世間の環境・社会課題に対する意識が高まったことや、政府の成長戦略の一環で、企業経営や機関投資家の投資行動に持続可能性の観点を組み込むことが強く要請されるようになったことも寄与しています。ESG投資と言えば、株式投資が連想されがちですが、グリーンボンドやソーシャルボンドといった環境改善や社会課題の解決に資するプロジェクトに資金使途が限定された債券への投資が増えるなど、株式以外の資産にもESG投資が広がったことも、ESG投資の残高を押し上げる要因となっています。

順調な拡がりを見せているESG投資ですが、投資収益が犠牲にされているのではないかといった疑念を持つ方もいらっしゃるかもしれません。ESG投資は、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)に対する評価を考慮して投資先を選定する投資であり、専ら財務状況や業績予想などの財務情報によって投資判断が行われる従来型の投資とは異なることを考えると、無理もありません。しかし、ESG課題への取り組みは、企業の事業リスクの軽減や収益機会の獲得を通じて、中長期的な利益成長につながると考えられており、ESG投資による中長期的に安定した投資収益の獲得も期待されるようになってきています。

もちろん、ESG課題の解決と投資収益の確保という2つの目的を達成することは容易ではなく、短期間で成し遂げられることでもありません。しかしながら、ESG投資なくして、持続可能な社会の構築を実現することはできません。ESG課題への取り組みと同様、ESG投資についても長期的な視点で捉えることが大切です。

グリーンボンド 企業や地方自治体等が、地球温暖化などの環境問題に取り組む国内外の事業(グリーンプロジェクト)に要する資金を調達するために発行する債券を指す。
ソーシャルボンド 企業や地方自治体等が、教育や貧困などの社会的課題に取り組む内外の事業(ソーシャルプロジェクト)に要する資金を調達するために発行する債券を指す。

(ニッセイ基礎研究所 梅内 俊樹)

筆者紹介

梅内 俊樹(うめうち としき)

金融研究部 企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
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