第5回 ESGの「S」について考える

2023年9月19日

企業が取り組むべきESGの「S(社会)」の課題には、従業員が働きやすい環境づくり、顧客の安全衛生の確保、取引先の労働慣行の評価、地域社会との良好なかかわりなどがあります。「企業は社会の公器」と言われますが、社会を良くするための行動が企業には求められているのです。そして取り組み課題の中核をなすのが人権尊重です。世界的に最も重要視されているESGの「S(社会)」の課題です。以下では、人権に関わる要素のうち、多様性を意味する“ダイバーシティ(Diversity)”に関して、国内企業の取り組み状況などについて確認します。

ダイバーシティには様々な側面がありますが、我が国で最も関心が高まっているのは女性活躍です。我が国では長年にわたる取り組みよって、女性の社会進出が図られています。現在では「看護師」や「客室乗務員」といった呼称が定着していますが、従来の女性を区別する呼称からの言い換えが進められたのは、男女を区別するバイアスを無くし、性別にかかわらず平等に活躍できる環境整備の一環と捉えられます。様々な政策的な措置などによって、女性が活躍できる機会や場は着実に増えています。

しかし、海外の主要国と比べると、日本における女性活躍の水準は決して満足できる状況ではありません。6月に国際機関によって公表された主要国のジェンダーギャップ(男女格差)の状況をまとめた報告書によると、男女格差の解消度で日本は146カ国中、125位となり、男女格差の解消が諸外国に比べ遅れている実態が明らかにされています。

ジェンダーギャップを評価する4分野(経済参加・機会、教育、健康・医療、政治参加)のうち、格差解消の遅れが特に目立つのは国会議員や閣僚の男女比などで評価する「政治参加」です。ただ、勤労所得や管理職の男女比などで評価する「経済参加・機会」の面でも大きな格差が認められており、その解消は我が国の課題となっています。女性活躍の推進に向けた国内企業の今後の動向が注目されます。

ダイバーシティに関しては、性別以外の側面でも多様性を重視する企業が増えています。人種や国籍、年齢、障がいの有無、性的指向、価値観などが異なる多様な人材を雇用し、互いに尊重し合える職場環境の形成を目指す取り組みです。背景には、人口減少や少子高齢化によって人手不足が深刻化するなか、多様な働き手を確保する必要性が高まっていること、ライフスタイルや価値観の多様化に対応する上で企業自らが多様化を迫られていること、更には、個性や能力の異なる多様な人材がそれぞれの能力を発揮できる環境を整えることが企業の持続的な成長に資するとの考え方が浸透したことがあります。ダイバーシティの推進はビジネス環境の変化への対応という側面があり、更なる進展が見込まれます。

このように、女性活躍を含むダイバーシティは多くの企業において重要な取り組み課題となっていますが、その推進は多様性が尊重された社会の実現に繋がり得るという点で、社会的にも意義があります。ESGの「S」の究極的な目標は、格差や貧困がなく、全世界の人々が生まれながらに持つ権利のもとで自由が確保された社会の実現です。その可能性を高める上でも、ダイバーシティを推進する企業の広がりや取り組みの深化が期待されます。

ガバナンス 直訳すると、支配・統治、管理・運営を意味する。
企業におけるガバナンスを、コーポレートガバナンスと呼び、企業がお客様、従業員、仕入先、株主、債権者、地域社会等様々な関係者の立場を踏まえ、適切な意思決定を行う仕組みを指す。
また、実効的なコーポレートガバナンスが企業及び経済全体の発展に寄与すると考えられている。
ESG経営 環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の問題への取り組みを重視した経営を指す。
利益の追求だけでなく、様々な関係者の立場や利益に配慮した経営であり、持続可能な成長に資すると考えられている。
ESG投資 環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の問題への取り組みを評価した上で投資先を選別する投資を指す。
利益などの財務情報だけでなく、ESGといった財務情報以外の情報にも着目することにより、経済的なリターンの追求とともに、ESG問題の解決を目指す投資である。
サステナブル 「Sustain(維持)」と「Able(可能)」を組み合わせた言葉で、直訳すると「持続可能な」という意味を持つ。近年では、特に地球環境や経済、社会の持続可能性を指す言葉として用いられている。
バイオマス 化石資源を除く、動植物由来の再生可能な有機資源。
生分解性 ある一定の条件のもとで自然界に豊富に存在する微生物などの働きによって、最終的には二酸化炭素と水に分解される性質。海洋での生分解性に優れている性質を海洋生分解性という。
カーボンニュートラル 温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることで、全体としてゼロにすること。
生物多様性 地球上に生息する生物の種が豊富であることだけでなく、同じ種の中でも遺伝子レベルがバラエティに富んでいること、更には生息環境(生態系)が多様であることを指す。
ダイバーシティ 人種や国籍、性別、年齢、障がいの有無、性的指向、価値観などが異なる多様な人々が組織や集団のなかで共存することを指す。
多様性には外形的な違いだけでなく、内面的な違いも含まれる。
ダイバーシティは企業価値の向上に繋がると考えられている。
ジェンダー 生物学的な性別とは異なり、男性・女性であることに基づき、社会的・文化的に形成される性のことを指す。「男性らしい」、「女性らしい」といった意識の違いによって生まれる差であり、男女格差の原因の一つとされている。

(ニッセイ基礎研究所 梅内 俊樹)

筆者紹介

梅内 俊樹(うめうち としき)

株式会社ニッセイ基礎研究所
金融研究部 企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任
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