第4回 ESGの「E」について考える

2023年8月16日

ESGのEが環境問題を指すことはご存じでしょう。では、環境問題といえば何を思い浮かべますか?多くの人が地球温暖化を思い浮かべると思います。確かに、地球温暖化は重要な問題であり、多くの企業がビジネスモデルの変革に取り組んでいます。しかし、地球温暖化だけが環境問題ではありません。今回は、2020年7月にスタートしたレジ袋有料化を例に、近年注目されている主要な環境問題と、環境問題への世界的な取り組みを紹介いたします。

プラスチック製の持ち手のある買物袋(以下、レジ袋)有料化の目的は、普段何気なくもらっているレジ袋が本当に必要か考えることで、ライフスタイルを見直すきっかけとすることでした。レジ袋有料化から3年経った今でも、有料であるはずのレジ袋が無料でもらえることに驚いた経験はありませんか?

原則的にレジ袋の無料配布は禁止されていますが、地球にやさしいレジ袋は例外的に無料で配布可能です。具体的には、①バイオマス素材の配合率が25%以上のレジ袋や、②海洋生分解性プラスチックの配合率が100%のレジ袋、③厚さが0.05㎜以上のレジ袋は無料配布禁止の対象外です。これらはいずれも地球にやさしいレジ袋ですが、やさしい理由はそれぞれ異なります。

バイオマスが地球にやさしい理由

バイオマス素材も焼却処理すると二酸化炭素を排出しますが、バイオマスが育つ段階で二酸化炭素を吸収します。全体として二酸化炭素総量を増やさないため、バイオマス素材は地球温暖化対策になると考えられています。

海洋性分解性が地球にやさしい理由

レジ袋が適切に処理されずにごみとして海に流れ出ると、海洋プラスチックごみとなります。一般的なプラスチックは自然界で分解されることはないため、海洋環境に悪影響を及ぼし続けますが、海洋生分解性プラスチックは自然に二酸化炭素と水に分解されるため、海洋プラスチックごみ問題対策になると考えられています。

厚さ0.05㎜以上が地球にやさしい理由

厚さが0.05㎜以上のレジ袋がやさしい理由は、レジ袋有料化の目的であるライフスタイルの見直しにつながるからです。厚みがあり耐久性があるレジ袋は繰り返し使えるため、大量生産・大量消費、大量廃棄型のライフスタイルの見直しにつながり、そして大量生産・大量消費、大量廃棄型のライフスタイルこそが生物多様性の損失などの問題の主な原因と考えられています。

このように、地球に対する多面的なやさしさが求められており、地球温暖化だけでなく、海洋プラスチックごみ問題、生物多様性など近年注目されている環境問題に対しても積極的に取り組んでいく必要があります。
温暖化対策として、2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指していること、また様々な企業が目標達成に向けて取り組んでいることは有名ですが、海洋プラスチックごみ問題、生物多様性についても、2050年までに達成すべきビジョンがあります。

海洋プラスチックごみ問題対策においては、2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロまで削減することを目指す「G20大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」がG20首脳間で共有されています。生物多様性については、2030年までに生物多様性の損失を反転させ(ネイチャー・ポジティブ)、2050年には自然と共生する世界を目指しています。そして、海洋プラスチックごみ問題や生物多様性に対しても、地球温暖化と同様に企業の積極的な取り組みが期待されています。

ガバナンス 直訳すると、支配・統治、管理・運営を意味する。
企業におけるガバナンスを、コーポレートガバナンスと呼び、企業がお客様、従業員、仕入先、株主、債権者、地域社会等様々な関係者の立場を踏まえ、適切な意思決定を行う仕組みを指す。
また、実効的なコーポレートガバナンスが企業及び経済全体の発展に寄与すると考えられている。
ESG経営 環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の問題への取り組みを重視した経営を指す。
利益の追求だけでなく、様々な関係者の立場や利益に配慮した経営であり、持続可能な成長に資すると考えられている。
ESG投資 環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の問題への取り組みを評価した上で投資先を選別する投資を指す。
利益などの財務情報だけでなく、ESGといった財務情報以外の情報にも着目することにより、経済的なリターンの追求とともに、ESG問題の解決を目指す投資である。
サステナブル 「Sustain(維持)」と「Able(可能)」を組み合わせた言葉で、直訳すると「持続可能な」という意味を持つ。近年では、特に地球環境や経済、社会の持続可能性を指す言葉として用いられている。
バイオマス 化石資源を除く、動植物由来の再生可能な有機資源。
生分解性 ある一定の条件のもとで自然界に豊富に存在する微生物などの働きによって、最終的には二酸化炭素と水に分解される性質。海洋での生分解性に優れている性質を海洋生分解性という。
カーボンニュートラル 温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることで、全体としてゼロにすること。
生物多様性 地球上に生息する生物の種が豊富であることだけでなく、同じ種の中でも遺伝子レベルがバラエティに富んでいること、さらには生息環境(生態系)が多様であることを指す。

(ニッセイ基礎研究所 高岡 和佳子)

筆者紹介

高岡 和佳子(たかおか わかこ)

株式会社ニッセイ基礎研究所
金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・
ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任
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