半導体は「産業の米」とも言われており、あらゆる製品に使われています。具体的には、家電製品やパソコン、スマートフォン、自動車といった個人が所有する製品や、インターネット通信や交通・物流システムなど社会インフラにおいて、半導体は重要な役割を担っています。このように半導体は快適で豊かな暮らしを実現する上で欠かせない製品であり、長期的に世界経済を牽引する高成長産業となっています。
新社会人のための経済学コラム
第171回 2024年は半導体市場が回復へ、生産能力の急増で供給過剰の可能性も
2024年5月14日
シリコンサイクルは景気の先行指標としても注目
しかしながら、半導体市場は常に右肩上がりを続けている訳ではありません。半導体市場には3~4年周期で好況と不況を繰り返す景気循環があり、一般的に「シリコンサイクル※1」と呼ばれています。
シリコンサイクルは世界経済の先行指標として注目されていて、半導体不況が底を打つと好景気に向かうとみられています。実際、世界の半導体市場規模のピーク(山)は、世界の国内総生産(GDP)より1年ほど先行する傾向がみてとれます(図表1)。
これは半導体がIT製品に多く搭載されており、最終製品の生産が拡大するよりも早いタイミングで、半導体の需要が拡大する傾向があるためです。例えばスマートフォンメーカーがクリスマス商戦に強気の見通しを持って生産計画を立てると、その半年前には部品を調達しているため、半導体メーカーの生産量は夏には先行して増加することになるのです。
※1 半導体がシリコンを主材料として生産されていることに由来する。
2024年はシリコンサイクルが回復へ
シリコンサイクルは新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大した当初は、次世代通信網「5G」の普及が進むなかでコロナ特需が起きて好況期にありました。巣ごもり需要やテレワーク、そして人との接触を避けるために大型テレビやスマートフォン、ノートパソコン、自動車の購入が増えました。こうした予想を上回る需要の拡大に、コロナ禍のサプライチェーンの混乱が加わり、半導体不足が生じて価格が上昇したのです。
しかし、2022年に入ると、ロシアのウクライナ侵攻に端を発するインフレの加速やゼロコロナ政策を続けた中国のロックダウンなどを受けて、世界経済が減速しました。コロナ特需の反動により半導体需要が鈍化する一方、メーカー側は設備投資により生産能力が向上したため、半導体は供給過剰に陥り価格が下落、シリコンサイクルは2022年後半に不況期に入りました。
そして今、シリコンサイクルは再び回復局面を迎えています。米国半導体工業会(SIA)によると、2023年通年の世界半導体売上高は前年比8.2%減の5,268億ドル(約80兆円)に減少しました。しかし、月次の推移をみると、売上高(3カ月移動平均)は2023年3月を底に回復をはじめ、11月には前年同月比5.3%増とプラスに転じました(図表2)。チャットGPTに代表される生成AI(人工知能)ブームの恩恵を受けやすいロジック半導体(GPU等)が急増したほか、メモリ(DRAM、NAND等)やMOSマイクロ(MPU、MCU)の需要も回復に転じています。
またWSTS(世界半導体市場統計)が2023年11月に発表した見通しによると、世界半導体市場は2024年が前年比13.1%増の大幅なプラス成長となり、5,883億ドル(約89兆円)に達すると予測されています。生成AI関連のロジック半導体や電気自動車(EV)などに使われるパワー半導体の普及が進むなか、スマートフォンやノートパソコン、サーバーなどのIT機器の需要回復が市場を牽引すると予想されています。
半導体の2024年問題
供給側をみると、ここ数年で世界各国が半導体の生産能力を急速に高めており、日本では半導体世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)の熊本工場が2024年末までの稼働を予定しています。このように2024年は世界各国の新工場が稼働し始めることで半導体不足が終息し、一転して供給過剰に陥るリスクもあると懸念されています。
この背景には、半導体不足への対応だけでなく、米中の覇権争いに伴い地政学上の戦略物資としての半導体の価値が高まり、米中のみならず日本や欧州など各国が半導体の確保を巡って競争していることがあります。現在、日本政府は国内での半導体製造を支援すべく、TSMCの熊本工場に総額1兆2,080億円、国内勢で先端半導体の量産を目指すラビタスには9,200億円を投入する計画です。
仮に供給過剰となれば半導体価格が低下するため、半導体メーカーは業績が悪化する恐れがある一方、安価な半導体が電子機器に搭載しやすくなり社会のデジタル化が加速する可能性もあるでしょう。
【参考:引用資料】
世界半導体貿易統計(WSTS) 2023年11月の世界半導体売上高
(ニッセイ基礎研究所 斉藤 誠)
斉藤 誠(さいとう まこと)
株式会社ニッセイ基礎研究所、経済研究部 准主任研究員
研究・専門分野:東南アジア経済、インド経済
▼ニッセイ基礎研究所ホームページ(斉藤研究員)
https://www.nli-research.co.jp/topics_detail2/id=28?site=nli