新社会人のための経済学コラム

第169回 社会保険料の支払いが発生する年収の壁(106万円、130万円)とは?政府はどんな対応をしているか

2024年3月8日

社会保険料が発生する年収の壁とは?

 パートやアルバイトで働く人は、ある一定の年収を超えると、社会保険料の支払いが必要となり逆に手取り収入が減少します。これは年収の壁(※1)と呼ばれています。たとえ労働意欲があったとしても、年収の壁を意識して勤務時間を短くする人がいるという問題があります。

 社会保険料の支払いが発生する年収の壁は106万円(※2)と130万円です。本コラムではこの年収の壁について考えていきます。従業員数が101人以上の企業で、週20時間以上勤務する人は106万円、100人以下の企業の人は130万円が壁になります(※3)

年収の壁のイメージ

従業員数101人以上の会社で働く場合

従業員数100人以下の会社で働く場合

社会保険料の年収の壁の概要

 年収の壁に注目が集まったのは、労働力確保のためです。日本では生産年齢人口(※4)が減少し、人手不足が深刻化しています。人手不足に対応するため、積極的に賃上げを実施する企業も増えていますが、年収の壁の範囲内で就労調整をしている人にとって、賃金上昇は勤務時間の短縮につながります。年収の壁は人手不足に拍車をかける可能性があり、問題視されています。

社会保険料の年収の壁に対する政府の対応策

 2023年9月27日に全世代型社会保障構築本部で、年収の壁への当面の対応策が決定され、「年収の壁・支援強化パッケージ」が10月から開始されました。その対応策のうち、社会保険料の支払いが発生する106万円の壁、130万円の壁への対応についてみていきます。

【106万円の壁】
従業員の年収が106万円を超えた場合、社会保険料相当の手当の支給や賃金増額を行って従業員の手取り収入が減らない対策をとった企業には相当額の助成金が出ることとなりました。ただし、以前から年収が106万円を超えていた人は対象外となっています。

【130万円の壁】
見込み年収が130万円を超える場合、被扶養者ではなくなります。それまで加入していた扶養者の社会保険の扶養からはずれ、自身で保険に加入する必要があるため、社会保険料の負担が生じます。しかし、人手不足のための残業などが理由で年収が130万円を超えた場合は、事業主の認定により引き続き被扶養者となることが可能となりました。これによって、一時的な収入増加が理由で年収が130万円を超えても、手取り収入は減少しないため、年収の壁がなくなります。

まとめ

 政府の対応策によって、パートやアルバイトなど短時間勤務の労働者の中には、年収の壁による就労調整をやめて、勤務時間を増やす人もいるでしょう。また、社会保険への加入には、将来受け取る年金額の増加や休業中の保障が手厚くなるなどのメリットがあります。ただし、今回の対応策は時限措置です。政府は、2025年の年金制度改革において抜本的な制度改革を目指しています。

 日本がデフレを脱却しつつある現状で、106万円や130万円といった基準だと、賃金上昇が続いた場合、年収の壁にぶつかる人が増えていくことが予想されます。人手不足に歯止めをかけるために、働きたい人が働ける環境を整えることがますます重要となるでしょう。

  • (※1)年収の壁となる収入基準は社会保険料の支払いが発生する基準のほかに、住民税や所得税の発生する基準、配偶者控除が受けられなくなる基準などがあります
  • (※2)月額8.8万円の12カ月分で約106万円
  • (※3)2024年10月以降、106万円の壁は従業員数51人以上に、130万円の壁は50人以下に変更
  • (※4)一般に「働き手」とされる15~64歳の人口

(ニッセイ基礎研究所 安田 拓斗)

筆者紹介

安田 拓斗(やすだ たくと)

株式会社ニッセイ基礎研究所、経済研究部 研究員
研究・専門分野:日本経済

▼ニッセイ基礎研究所ホームページ(安田研究員)

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