新社会人のための経済学コラム

第168回 いよいよ迫る物流の2024年問題。消費者が今日からできることとは?

2024年2月20日

なぜ物流の2024年問題が生じるのか

 物流の2024年問題とは、働き方改革関連法に基づき、2024年4月からトラック運転手の労働時間が制限されることで、輸送力の不足が懸念される問題です。働き方改革により、なぜ輸送能力が不足するのでしょうか。

主な要因は、トラック運転手の慢性的な人手不足と労働生産性の低さにあります。
図表1に示されるように、自動車運転従事者(※1)の有効求人倍率(※2)は全業種平均と比べて高い水準で推移し、強い売り手市場であることが分かります。

特に、若い担い手が不足し、高齢化が進んでいます。全日本トラック協会によると、30代以下のトラック運転手は2010年に全体の38.7%を占めていましたが、2022年には23.9%にまで減少しました(※3)。労働時間の長さや賃金の低さなどの要因が業界の魅力を低下させる中、高齢運転手の引退が進めば、人手不足は更に深刻化する恐れがあります(図表2)。

(図表1)有効求人倍率の推移

(図表2)労働時間と1時間毎収入の比較

 2024年4月から、働き方改革関連法によりトラック運転手の時間外労働時間に年間960時間の上限が定められます。また、同年同月より、改正基準告示が見直され、年・月・日単位での拘束時間・休息時間への規制が強化されます(図表3)。これにより、トラック運転手の労働環境問題のひとつである労働時間の長さが改善されることが期待されます。

(図表3)物流業界の働き方改革関連法・改善基準告示の改正の影響

(図表4)時間当たり労働生産性の推移

 しかし、労働時間の短縮にあたり、労働生産性の課題が指摘できます。人手不足やDX化の遅れ、商習慣といった複合的な要因により、運送業の労働生産性は他の非製造業の平均を大きく下回ってきました(図表4)。

 労働生産性を高めるには、人や設備への投資、無駄な業務の削減などにより、効率的に利益を生み出すことが必要です。しかし、中小企業が大半を占め、多重下請構造が根強い運送業では、コスト面の制約から設備投資や賃上げが容易ではありません。また、他の高生産性を持つ業界の影響で、運送業の生産性が低迷しているとの指摘もあります(※4)。例えば、製造業などで一般的なジャストインタイム方式は、必要なものを、必要な時に、必要な量だけ調達することで、生産効率を高める仕組みです。しかし、運送業にとっては、トラックの積載率を下げ、効率的な運送を妨げます。こうした商習慣(※5)もまた、運送業の労働生産性低迷の一因と言えます。

 このままの状態で労働時間を短縮すれば、取扱業務量を減らさなければならず、物流の滞留や輸送能力の不足に繋がります。物流を持続可能にするために、労働生産性の向上が必要不可欠です。

何も対策を取らなければ、どうなるのか

 政府によれば、物流効率化に取り組まなかった場合、2024年度に約14.2%(4億トン相当)、2030年度には約34.1%(9億トン相当)の輸送能力が不足すると試算されています。品目別には、農産・水産品出荷の輸送能力が特に低下するとされています。また、地域別には、中国・九州・関東地方への影響が特に大きいと言われています(※6)

では、具体的にどのような問題が発生するのでしょうか。物流を大きく2つに分けて考えたいと思います:企業間輸送(B to B)と、企業と消費者間の輸送(B to C)です。これらのうち、日本の物流の9割以上を占める企業間輸送が特に影響を受けることが予想されます。企業間輸送が滞った場合、例えば以下のような事態が発生する可能性があります。

  • 野菜や青果類、水産物など、鮮度が重要な生鮮品の物流が滞る
  • 原料等の素原材料、部品・機械などの中間財の到着が遅れ、最終財の製造が滞る
  • 卸売店から小売店への商品の輸送遅延により、商品が品薄になる、または届かない

 また、企業と消費者間の輸送では、例えば小売店から消費者への宅配において、当日・翌日受取サービスなどの維持が難しくなる、送料が上昇するなどが考えられます。
このような事態を避けるために、政府は人手不足や労働生産性の改善に向けて、「物流革新に向けた政策パッケージ(※7)」などに基づき、賃金水準の向上や商習慣の見直し、DX化による物流効率化支援を進めています。

消費者にできることとは

 物流の2024年問題改善のために企業と消費者間の輸送の一方の当事者である消費者ができることもあります。例えば、再配達の削減が挙げられます。

 電子商取引(EC)の普及に伴い宅配件数が増加する中、運送業者にとって負担となる再配達は、輸送の効率化の大きな障害となっています(図表5)。国土交通省によると、日本の宅配のうち約11.4%が再配達されており(※8)(2023年4月)、約25%の消費者が3回に1回以上の頻度で再配達を依頼しています(※9)。運送業者にとって、何度再配達を行っても、稼ぐことができる利益は1回分に限られ、労働時間とコストだけが膨らんでいきます。

 国土交通省は、再配達の原因として、消費者が配達日時を把握していないことを指摘しています(※10)。荷物の到着日時を指定する、自宅・街中の宅配ボックスを利用するなどの方法で、再配達の減少に努めることも有用です。

(図表5)宅配便取扱個数の推移

 その他にも、物流に対する適切な負担を受け入れる意識も必要です。ECにおける送料無料は珍しくなく、多くの消費者は送料を意識せず通販を利用しています。この状況では、送料の値上げは受け入れがたいかもしれません。

 しかし、運送業はコストに見合わない水準の送料で、サービスを提供していると言われています(※11)。物流を持続可能にするには、企業だけでなく消費者も価格転嫁を受け入れ、サービスに見合った対価を支払うという意識が求められます。

  • (※1)トラック運転手以外の自動車を運転する業務(バス・乗用自動車の運転手など)も含む
  • (※2)全国のハローワークで仕事を探す人1人あたり何件の求人があるかを示す指標(「9月求人倍率、横ばいの1.29倍 失業率は2.6%に改善」.日本経済新聞.2023-10-31)
  • (※3)「日本のトラック輸送産業 現状と課題」. 公益財団法人全日本トラック協会. 2023-09-20
  • (※4)首藤若菜「『2024年問題』とは」. 連合総研レポート2023年6月号. 2023-06
  • (※5)その他の例には、荷主が荷物の積み下ろしの間に運転手が待機する「荷待ち」などが挙げられる。
  • (※6)「物流の2024年問題に向けた政府の取組について」.農林水産省. 2023-09
  • (※7)「物流革新に向けた政策パッケージ」. 内閣官房 . 2023-06-02
    「令和5年4月の宅配便再配達率が約11.4%に減少」.国土交通省.2023-06-23
    「物流に対する消費者意識に関するアンケート」.国土交通省.2022-03
    前掲書. 国土交通省.2023-03
    「『2024年問題』国交相“適正な運賃支払いが解決の第一歩」NHK NEWS WEB.2023-2-21
  • (※8)「令和5年4月の宅配便再配達率が約11.4%に減少」.国土交通省.2023-06-23
  • (※9)「物流に対する消費者意識に関するアンケート」.国土交通省.2022-03
  • (※10)  前掲書. 国土交通省.2023-03
  • (※11)「『2024年問題』国交相“適正な運賃支払いが解決の第一歩」NHK NEWS WEB.2023-2-21

(ニッセイ基礎研究所 河岸 秀叔)

筆者紹介

河岸 秀叔(かわぎし しゅうじ)

株式会社ニッセイ基礎研究所、総合政策研究部 研究員
研究・専門分野:日本経済

▼ニッセイ基礎研究所ホームページ(河岸研究員)

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