古くから、日本において清酒は重要な役割を担ってきた。普段の生活で飲まれるだけでなく、神事に基づく行事では清酒が関わることがほとんどである。古来から、清酒は我々の生活に密接にかかわるものであった。本コラムでは日本文化として重要な立ち位置にある清酒の現況についてデータを用いて示し、清酒の文化を継承していくための取り組みについて述べていきたい。
新社会人のための経済学コラム
第167回 令和3年の清酒の製造免許場数は1544場。ピークと比較して半分以上減少。
2024年2月14日
日本文化である清酒
清酒は酒税法において以下のように決められている。
1.米、米こうじ及び水を原料として発酵させて、こしたもの。
2.米、水及び清酒かす、米こうじその他政令で定める物品を原料として発酵させて、こしたもの(1または3に該当するものを除く)。ただし、その原料中当該政令で定める物品の重量の合計が米(こうじ米を含む。)の重量をこえないものに限る。
3.清酒に清酒かすを加えて、こしたもの。
また、清酒の中でも、日本国内で日本産の米を用いたものだけが「日本酒」として定められており、日本文化の一つとして保護されている。
しかし、清酒の消費量は減少しており、ピークの1/4程度になっている(図-1)。理由は様々であるが、消費数量の増減の時期をみると、第3のビールやチューハイといったリキュールなど安価でおいしいお酒の拡がりなどが考えられる。
地域に根差す酒蔵の価値
味が変化しやすい日本酒はその地域で消費されるものであったことや、地域で作られた原料を使っていたことから、酒蔵は地域に根差し、経済を支えるものであった。また、消費者もどこで作られたものであるかを重視したり、地域ならではの特徴を楽しんだりしていることが想定される。特定の都道府県の銘柄を求めるような注文が度々聞かれることからも確かであろう。逆に、呑んだお酒からその地域を初めて知ることも少なからず存在する。実際に、近年新しく酒蔵が出来た、北海道の上川町でも酒蔵による経済効果が2億円を超えるような事例も見られている(※1)。
このように清酒は地域経済における発展の一助を担っているが、清酒の消費量が減少することで、酒蔵の数も減少している。国税庁のデータをみると清酒の製造免許場数は令和3年度で1544場である。ピークの昭和31年の4073場と比較すると半分以上減少していることが分かる(図-2)。
地域から酒蔵が無くなるということは、その地域における原料・製品の消費のような経済循環を止めることやその地域を知ってもらうための入り口が無くなることにも繋がり、その影響は想像される以上に大きい。
酒蔵を盛り上げるために
一方で、清酒業界にとって悪い状況だけではない。例えば清酒の輸出金額は2013年から増加傾向にありコロナ発生の翌年となる2021年には大幅に増加し、2022年には約47億円に上る(図-3)。これは2013年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に指定されたことや「醸し人九平次」や「獺祭」の海外進出などがきっかけとなり、清酒の海外での人気が高まっていったものと考えられる。
こうした流れを受けて、より清酒の魅力を知ってもらうための活動が酒蔵や飲食・酒販業の人々によって行われている。その一つとして観光庁による酒蔵ツーリズムの促進などの施策がある。酒蔵ツーリズムでは酒蔵の見学や関連のイベントを行うことや他の観光資源との連携を行うことで旅行者にその地域における酒蔵の歴史や価値を理解してもらい、観光振興及び経済的発展につながることが期待されている。また、近年では外国人の日本への旅行行程のなかに日本酒バーが組み込まれているものも存在するようだ。清酒については原料米、酵母、製造方法など味に対しての変数が複雑であり、理解してもらうことが非常に難しいものでもある。そこで頼りになるのが利き酒師などの日本酒を提供する立場の人である。彼らは日本酒への知識や経験が豊富であり、日本酒についての理解を補助してくれる存在だ。料理、場面などに応じて最適な清酒を選択し、必要に応じて説明を加えながら清酒を提供してくれる。これらの人々が消費者にどのようなコミュニケーションを行うかも清酒を理解するための重要なひとつの要素だ(※2)。
文化を継承していくには、人々がそこに関わることが必要である。そのためには提供者のみがその役割を果たすものではない。消費者においても自らが楽しみ、それを伝えていくことによって、清酒業界の発展につながるのではないか。
日本酒はアルコール飲料の一種であるだけではなく日本文化の重要な一面である。更に地域に根差した文化であることも特徴的である。地域の文化を伝承する役割を担う人として、ご自身にゆかりのある地域の酒蔵を周りながら清酒を楽しむことで、地域の経済効果に寄与することができるようになるかもしれない。
- (※1)日経MJ. 地域醸す酒蔵 第2幕. 1(2024).
- (※2)島田壮一郎. お酒についてシラフで考える-日本酒とファシリテーション-. ニッセイ基礎研レポート(2023).
(ニッセイ基礎研究所 島田 壮一郎)
島田 壮一郎(しまだ そういちろう)
株式会社ニッセイ基礎研究所、社会研究部 研究員
研究・専門分野:都市・地域計画、住民参加、コミュニケーション、合意形成
▼ニッセイ基礎研究所ホームページ(島田研究員)
https://www.nli-research.co.jp/topics_detail2/id=73959?site=nli