新社会人のための経済学コラム

第163回 2023年のSDGs達成度ランキング、日本は21位日本の取組みの現状と課題を学ぼう

2023年9月1日

世界の国々でSDGs達成に向けた取組みが進められる

 2015年の国連サミットにおいて持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)が採択されて以来、SDGs達成に向けた取組みが世界各国で行われています。ここでは、世界の国々の中での日本のSDGs取組みの現状と課題について学んでいきましょう。

 SDGsの推進を行うSDSN(Sustainable Development Solutions Network)と独ベルテルスマン財団は、2023年の世界の国々のSDGs達成度ランキングを公表、日本は前年の19位から2位下落し21位となりました(1)。日本のSDGs取組みは高く評価される項目がある一方で、達成に向けた課題点も多く残されています。

 世界の国々のSDGs評価について見ると、評価が上位の国としてはフィンランド、スウェーデン、デンマークといった国が挙げられています。一方で、SDGs評価が下位の国としては、南スーダン、中央アフリカ共和国、チャドといった国が挙げられています。

 国ごとのSDGs評価の特徴としては、①発展途上国でのSDGs達成は遅れている(SDGs評価が低評価)ものの近年は改善傾向にある②先進国において気候変動対策や生物多様性への配慮が不十分といった傾向があり、SDSNは世界の国々のSDGs達成には発展途上国のGDP向上や先進国やIMFによる発展途上国への資金提供、SDGsファイナンスの拡大などが必要と指摘しています。

 日本についてのSDGs評価の内訳を見ると、目標1(貧困)、3(健康・福祉)、4(教育)、6(安全な水)、8(経済成長)、9(産業・技術革新)、11(町づくり)、16(平和と公正)が高評価である一方で、目標5(ジェンダー平等)、7(エネルギー)、12(つくる責任・つかう責任)、13(気候変動)、14(海の豊かさ)、15(陸の豊かさ)が低評価となっています(図表1)。レポートでは各目標の評価は複数の項目から構成されており、評価の詳細を見ると、図表2の項目が低評価とされています。

図表1 日本のSDGs取組みへの評価

図表2 日本のSDGs取組みへの評価での主な低評価項目

 これらの傾向について見ると、①脱炭素、②輸出入を通じた環境への影響の配慮、③ジェンダー平等といった点が主な課題と考えられます。これらの点に関する日本の現状と取組みについて見ていきましょう。

-脱炭素
再生可能エネルギーの比率は、外国先進国諸国と比較して低い水準となっており、再生可能エネルギーの導入拡大が求められています。また、日本の炭素価格は海外と比較して低い水準にとどまっていることが指摘されています。日本では、2012年から地球温暖化対策税が導入されているものの、諸外国と比較して二酸化炭素排出量あたりの炭素価格は低い。現状では、政府は二酸化炭素排出量にしたがって課税する「炭素税」などと、企業間で排出枠を売買しながら排出量削減を目指す「排出量取引」を組み合わせた制度を検討しています。

-輸出入を通じた環境への影響の配慮
日本は輸入を通じた二酸化炭素や窒素などの排出、輸入を通じた生態系への脅威など輸入を通じた環境などへの負荷が多く指摘されています。日本は資源や食料品、日用品などの多くを外国からの輸入しており、こうした輸入を通じた環境への影響に配慮することが必要です。
また、日本に対するSDGs評価では、電子廃棄物やプラスチック廃棄物の輸出が低評価となっており、海外への廃棄物移転の削減が課題となっています。日本で排出されたプラスチック廃棄物は主に中国に輸出されていたが2017年に中国は環境保護の観点から輸入を禁止しました。その後、中国に代わってマレーシア、ベトナムなど東南アジア諸国に輸出しており、日本国内で排出したプラスチック廃棄物をこれらの国に移転している状況にあります。地球環境の保護の観点から、国内での環境配慮だけでなく海外での製造・原料調達や廃棄物処理を含めた環境配慮が必要です。

-ジェンダー平等
ジェンダー平等については女性議員の比率や、男女の賃金格差が諸外国と比較して劣後していることがデータから示されており、これらの点が課題と考えられます。平等な雇用条件や待遇を促す取組みが必要となっています。また、出産や育児が女性の離職につながることが課題となっており、育児の分担や短時間勤務制度や育児休業制度など出産や育児が就業の継続やキャリア形成において不利とならない環境作りが求められています。

日本のSDGs取組みの推進に向けて

 ここまでで見てきたように日本のSDGs取組みは教育や健康・福祉、産業・技術革新などの点で高評価であり、豊かな社会の中で暮らしています。しかし、これは現状では二酸化炭素の排出による地球環境への負荷や、輸入を通じた外国の環境への悪影響のもとに成り立っており、二酸化炭素や廃棄物の削減などの環境配慮が求められています。また、ジェンダー平等などの課題点が残されており、持続可能な自然環境や誰もが平等な社会の構築といったSDGsの達成に向けた更なる取組みの推進が期待されます。

【参考文献】
(1)Sustainable Development Solutions Network、Bertelsmann Stiftung,“SUSTAINABLE DEVELOPMENT REPORT 2023”

(ニッセイ基礎研究所 原田 哲志)

筆者紹介

原田 哲志(はらだ さとし)

株式会社ニッセイ基礎研究所、金融研究部 准主任研究員・ESG推進室兼任
研究・専門分野:資産運用、オルタナティブ投資

▼ニッセイ基礎研究所ホームページ(原田研究員)

https://www.nli-research.co.jp/topics_detail2/id=61144?site=nli新しいウィンドウ

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