新社会人のための経済学コラム

第161回 女性の厚生年金保険の平均受給月額は男性の3分の2

2023年7月3日

男女間で大きな年金格差

企業などに就職して、職場から給与明細を受け取ると、毎月「社会保険料」が引去りされている。これには「厚生年金保険」や「健康保険」など公的保険の保険料が含まれる。手取りは減るが、保険料を支払い続ければ、老後は厚生年金を受給でき、医療機関にかかれば医療費の自己負担が安く済む。ところが、この厚生年金の受給額には、現在、男女で大きな差があるのをご存知だろうか。

 厚生労働省の「厚生年金保険・国民年金事業年報」(令和3年度)によると、会社員が加入する厚生年金保険受給権者(受給する権利がある人)の平均年金月額は、男性が16万3380円、女性が10万4686円と、女性は男性の3分の2に過ぎない(※1)。図1の金額別分布を見ると、ピラミッドの左右(男女)で山の形が違う。男性(青色)のピークは「17~18万円」だが、女性(赤色)のピークは「9~10万円」である(※1)。なぜこのように大きな差があるのだろうか。

図1 厚生年金保険(第1号)の年金月額階級別受給権者数

年金格差の要因は賃金格差と就業期間の差

 老後の年金額は、大まかに言うと、現役時代の賃金の高さと、保険料を納めた期間の長さによって決まる。したがって、男女の年金差は、賃金差と就業期間の差が要因となっている。

 まず賃金の状況から見てみよう。厚生労働省の調査より、年齢階級別に賃金を表したものが図2である(※2)。正社員・正職員を比較しても、男性は年齢階級が上がるにつれて賃金が上昇し、ピーク(55~59歳)に約43万円となるのに対し、女性は年齢が上がっても賃金上昇がなだらかで、ピーク(55~59歳)でも約31万円である。女性の方が管理職が少ないことが男女差の要因としてよく指摘されている。近年は「女性の活躍」が注目され、管理職の女性も増えているが、男性に比べれば、まだまだ数は少ない。

図2 男女別にみた年齢階級別の平均賃金

 次に、保険料を納めた期間の男女差について、上述の年報を見ると、男性の平均加入期間は443か月(36年11か月)に対し、女性は337か月(28年1か月)であり、やはり女性は男性の4分の3である(※3)。例えば結婚・出産を機に会社を退職し、子が成長した後に再就職する女性も多いが、このような場合もトータルの加入期間は短くなる。また、キャリアが中断されることが、上述した賃金の伸び悩みにもつながっている。

ライフイベントを経てもしっかり働き、老後のリスクマネジメントを

 新社会人の皆さん、特に女性は、このように賃金と年金に男女差があることを、どのように感じるだろうか。勿論、どのようなライフコースを選択するかは個人の自由だが、現役時代の収入が、老後の年金に反映されることは事実だ。若いうちは、結婚・出産という目の前のライフイベントだけで頭がいっぱいで、何十年も先の老後のことまでは、イメージが湧かないという人も多いだろう。だが、生きている限り、「老後」はいつか確実にやってくる。様々なライフイベントを経てもしっかり働き、安定した収入を確保することが、老後のリスクマネジメントにもつながることは、男女ともに念頭に置いておいた方が良いだろう。

(※1)厚生年金保険(第1号) 年金月額階級別受給権者数新しいウィンドウ

(※2)令和4年賃金構造基本統計調査の概況新しいウィンドウ

(※3)厚生年金保険(第1号) 被保険者期間別老齢年金・通算老齢年金受給権者数新しいウィンドウ

(ニッセイ基礎研究所 坊 美生子)

筆者紹介

坊 美生子(ぼう みおこ)

株式会社ニッセイ基礎研究所、生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任
研究・専門分野:高齢者の移動サービス・交通政策、高齢者の消費、ジェロントロジー

▼ニッセイ基礎研究所ホームページ(坊研究員)

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