新社会人のための経済学コラム

第159回 日銀が長期金利の上限を0.50%に引き上げ、そもそも日銀の金融政策って何?

2023年6月28日

そもそも、金融政策とは?

2022年12月、日本銀行(以下、日銀)がこれまで0.25%程度に抑えてきた長期金利の上限を0.5%程度に引き上げる決定をしたことが報じられました。この日銀の金融政策の修正は、日本だけでなく海外の投資家からも多くの注目を集めました。

 金融政策とは、中央銀行(以下、中銀)が行う政策を指し、日本の場合は、「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資する」(日本銀行法第二条)ように日銀が実施します。この条文にある「物価の安定」については、2013年に、消費者物価の前年比上昇率(インフレ率)で2%を目標にすることが具体的に定められました。
 インフレ率が高く景気が過熱している場合には、金利を高く誘導して景気を冷やし(「金融引き締め」と呼ばれます)、逆に、インフレ率が低く、景気が停滞している場合には、金利を低く誘導して景気を活性化させる(「金融緩和」と呼ばれます)というのが、伝統的な金融政策の方法です。

日本では低インフレが長期化し、異次元緩和に着手

 日本では長い間、低いインフレ率が続き、マイナスになることも度々ありました。2000年代初頭からは、物価の下落を表すデフレ(デフレーション)という言葉も頻繁に目にするようになります。
 こうした状況下で、日銀は金融緩和を実施してきました。特に黒田前総裁が就任した2013年以降は長期国債の大規模な購入、マイナス金利政策の導入、長短金利操作(イールドカーブコントロールとも呼ばれます)といった、これまで実施してこなかった大胆な手段も行ってきました。これらの積極的な金融緩和は2012年末に発足した安倍政権が掲げた経済政策「アベノミクス3本の矢」の第一の矢「大胆な金融政策」に対応していました。

表1:年代別加入率の変化

金融政策修正の影響や、今後の展開は?

 冒頭に述べた長期金利の上限引き上げは、長短金利操作に関する政策の修正になります。通常、中銀がコントロールする金利は、満期までの期間が短い金利(短期金利)ですが、日銀は10年物国債の金利という満期までの期間が長い金利(長期金利)も操作対象としています。この誘導目標はゼロ%ですが、許容する乖離幅を±0.25%から±0.5%に引き上げました。

 この時期、米国を中心に世界的にインフレ率が上昇、インフレ鎮静化のため海外中銀は金融引き締めを実施、海外金利が上昇していました。日本でもインフレ率が約40年振りの高さになりましたが、長短金利操作で長期金利の動きを抑制したことから国内の金利は低く、海外金利との差が広がり、為替相場にも影響が及びました。金利が低い国の通貨よりも金利が高い国の通貨の魅力が相対的に高まるため、円が売られて円安が急激に進みました。

 このように海外金利が上昇するなかで、日本でもインフレ率が高まり、また円安が進んだため、日本の金利も上がるのではないかと予想する投資家が増え、長期金利には上昇圧力が生じました。こうした状況のなかで、日銀が長期金利を低く誘導するためには、市場から大量に国債を買い上げる必要があります。その結果、市中に流通する国債が極端に少なくなってしまうという債券市場への弊害が目立つようになります。日銀は政策修正を行った理由を債券市場の副作用を是正するため、と説明しています。

 誘導目標はプラス方向にもマイナス方向にも拡大した形ですが、実際の長期金利は許容幅の上限近くまで上昇したため、事実上の金融引き締めと受け取られました。

 長期金利の上昇は、例えば固定型の住宅ローン金利の上昇につながります。また、先に述べたとおり、為替相場にも影響します。これまで低金利が長く続いていたため、金利の動向が注目される機会は減ってきていましたが、金利が上昇すれば消費者にも影響が及びます。

 2023年4月に新しく日銀総裁に就任した植田氏は、現段階では安定的な2%達成は見通せないと述べ、早期に金融緩和をやめる必要がないことを示唆していますが、このコラムの執筆時点では、インフレ率は依然として目標の2%を上回っています。また、債券市場への弊害が再び悪化する可能性もあります。こうした状況のなか、日銀の金融政策や長期金利への注目度がますます高まっていると言えます。

(ニッセイ基礎研究所 高山 武士)

筆者紹介

高山 武士(たかやま たけし)

株式会社ニッセイ基礎研究所、経済研究部 主任研究員
研究・専門分野:欧州経済、世界経済

▼ニッセイ基礎研究所ホームページ(高岡研究員)

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