新社会人のための経済学コラム

第157回 2050年代に人口1億人割れの危機、日本経済への影響は?

2023年5月17日

世界人口増加の影で人口減少が続く日本

 国連の世界人口推計(2022年7月発表)によると、世界人口は2022年に80億人を突破しました。今後、世界人口は2037年頃に90億人、2058年頃に100億人を突破すると予測されています。
地域別にみると、これまでの世界人口の増加はアジア中心でしたが、今後はナイジェリア、コンゴ民主共和国、エジプト、エチオピア、タンザニアなどサブサハラアフリカが中心になるとみられています(図表1)。

(図表1)世界人口の長期的推移(地域別)

 一方、先進国では少子化が進行しており、日本は2008年の1億2,808万人をピークに減少に転じています。現在、日本の合計特殊出生率(2021年:1.30)は人口規模を維持する上で必要とされる人口置換水準(2.06~2.07程度)を大きく下回って推移しており、今後総人口は毎年70万人程度のペースで減り続けて2050年代には1億人を下回ると予測されています(図表2)。

(図表2)日本の人口構造の推移

人口動態による経済成長への影響

 日本は少子高齢化を背景とする人口減少が課題と言われて久しいですが、経済成長にはどのような影響を及ぼすのでしょうか。成長会計(※1)の枠組みで考えてみましょう。

(※1)成長会計では、経済全体の産出量(GDP)の伸びを生産要素である「労働」と「資本」、それ以外の要因を示す「全要素生産性(TFP)」の3つに分解する。

 まず少子化と高齢化が進むと、生産年齢人口の減少を通じて労働投入の減少に繋がります。労働投入は1990年代から減少傾向にあり(図表3)、今後も経済成長を下押しすることが予想されます。一般的に、経済活動の担い手である労働力人口が増加して成長率が高まる現象を「人口ボーナス」と呼びますが、日本は反対に労働力人口が減少して成長率が低下する「人口オーナス」に直面している状態です。

 また人口減少は資本投入にも影響を及ぼします。高齢化により過去の貯蓄を取り崩して生活する高齢者の割合が増えると、貯蓄率が低下して資金需給の引締りにより金利が上昇するほか、人口減少に伴う需要不足により、企業は設備投資に消極的になります。

 生産性は様々な要因に左右されますが、人口減少や高齢化との関係に焦点をあてると、多様性が低下したり、新しいアイディアを生み出す若年者が減少したりすることによってイノベーションが停滞する恐れがあるほか、規模の経済が働きにくくなり、生産性向上の阻害要因となります。

 このほか、財政・社会保障を通じた経済への影響も考えられます。高齢化により社会保障給付が膨らむ一方、少子化で支え手である現役世代が減ると、国民負担率が上昇します。国民負担率の上昇は社会保障制度の持続性を高め、将来の生活に対する国民の不安を緩和する側面がある一方、可処分所得の減少に伴う消費支出の減少や貯蓄率の低下を通じて経済成長を押し下げる要因となり得ます。

(図表3)日本の経済成長の要因分解

人口減少に対する過度な悲観は不要

 上述の通り、人口減少と少子高齢化が経済成長にマイナスの影響をもたらすことは明らかですが、過度に悲観する必要はありません。現在、日本の経済成長は人口以外の要因、なかでも生産性の向上によって決まる部分が大半となっています。つまり、人口減少による成長率の低下を生産性の向上でカバーすることは可能ということです。

 現在多くの企業で人手不足への対応として自動化やICT(情報通信技術)化を図る動きがありますが、このことは従業員1人当たりの生産性の向上に繋がります。また働き方改革を通して女性やシニア層の就労環境を整えることにより労働参加を促すと、(生産年齢人口が減少するなかでも)労働力人口の減少を抑えることも可能です。

 もちろん、政府の子ども・子育て政策の強化により少子化に歯止めをかけることも重要ですが、人口動態がすぐに方向転換することはありません。結局のところ、人口が減少していく日本経済が成長を続けるためには、いかに生産性を高めていくかに尽きるといえるでしょう。

(ニッセイ基礎研究所 斉藤 誠)

筆者紹介

斉藤 誠(さいとう まこと)

株式会社ニッセイ基礎研究所、経済研究部 准主任研究員
研究・専門分野:東南アジア経済、インド経済

▼ニッセイ基礎研究所ホームページ(斉藤研究員)

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