新社会人のための経済学コラム

第156回 未就学児を持つ子育て世帯で、夫の家事関連時間は114分/週~少子化対策で注目される、夫の家事参加~

2023年2月17日

夫の家事・育児参画は、有効な少子化対策

 日本社会が経済的に今後成長し続けるための最大の課題は、少子化に伴う人口減少と高齢化だと思います。日本の出生率は、2005年以降に一度持ち直したものの、2016年以降6年連続で前年を下回り、2022年の年間出生数も統計開始以来、初めて80万人を下回ることが見込まれています。このような状況のもと、夫の家事・育児への参加は、深刻化する少子化を食い止める手段としても注目されています。

 過去、厚生労働省が公表した資料によると、夫の家事・育児時間が長いほど、第2子以降の出生割合が高くなることが報告されています[図表1]。また、OECDデータを用いた調査でも、主要国の男性の家事・育児等労働時間割合と合計特殊出生率には正の相関があり、男性の家事・育児等労働時間割合が高いほど出生率も高い傾向にあることが知られています(※1)

(※1)内閣府「選択する未来2.0」事務局資料(2020年4月)より

[図表1]子どもがいる夫婦の夫の休日の家事・育児時間別にみた13年間の第2子以降の出生の状況

夫の家事関連時間は増加も、男女間に約4倍の差

 日本における子育て世帯における夫と妻の家事負担の割合はどのくらいなのでしょうか?
 2022年8月に総務省が公表した「令和3年社会生活基本調査」によれば、子育て世帯(ここでは、6歳未満の子どもを持つ世帯)における夫の家事関連時間は、土日を含む週全体の平均で1時間54分。2016年の前回調査と比較して31分増加しています[図表2]。内訳は、家事(30分)、介護・看護(1分)、育児(1時間5分)、買い物(18分)。家事や育児に関わる時間が伸びているのが特徴です。なお、夫の家庭参画は、人数面からも進展が見られます。1週間のうちに特定の活動に参加した人の割合を行動者率と言いますが、2021年における家事の行動者率は31.6%、育児行動者率は40.5%と、いずれも2016年から10%以上伸びています。

 ただ、男女間にある格差は、依然として圧倒的です。2021年の妻の家事関連時間は7時間28分。夫に比べて5時間以上(約4倍)多くなっているのが現状です。

 背景には、男性は仕事、女性は家庭という役割分業意識のほか、日本の就業構造に根差す問題もあると思われます。すなわち、男性中心の社会構造が労働市場に残されているということです。つまり、男性に多いメンバーシップ型雇用では、業務範囲が限定されていないため長時間労働に陥りがちであり、社会進出が進んだ女性の働き先も、家事や育児と両立しやすい非正規に偏りがちであるといった問題です。
 男女がともに仕事と家庭に責任を持って参加し、両立できる社会に変えていくには、日本の就業構造全体の仕組みを見直していく必要があると言えるでしょう。

[図表2]6歳未満の子供を持つ夫婦の家事関連時間

仕事と家庭の両立支援に新制度

 政府も、男性がより積極的に育児に取り組む制度構築を進めています。特に、育児休業は、男性がより積極的に家事・育児に参加するための、重要なスタートに位置づけられます。しかし、男性の育児休業取得率は、2021年時点で13.97%(※2)に過ぎません。2012年以降9年連続で上昇しているとはいえ、取得率を2025年までに30%に引き上げるという政府目標からは遠いのが実情です。

 そこで政府は、2021年に「育児・介護休業法」を改正し、2022年10月から「産後パパ育休制度」を施行しています。この制度は、男性が従来の育児休業に加えて新たに取得できるようにしたもので、子の出生後8週以内、つまり母親の産後休業期間中に、4週間まで2回に分割して取得することを可能にします。そして、今年2023年4月からは、一部企業で取得率の開示が義務化され、男性の育休取得が社会的に可視化されて行くことになっています。

 なお、育児関連の政策は男性の育休取得だけでなく、様々なものが動き始めています。政府は、全世代型社会保障構築会議において、育児休業給付の自営業や非正規労働者への対象拡大を本格的に検討し始めたほか、出産育児一時金については、2023年度から50万円(現在、原則42万円)に引き上げることを決めています。

 男性の家事・育児等への参画は、男女が共に仕事と生活を両立していくうえで必要というだけでなく、日本の少子化というマクロの課題を解決するうえでも重要です。自らと日本の将来に関わる問題として、関心を持ってみていただければと思います。

(※2)厚生労働省「令和3年度雇用均等基本調査」(2022年7月29日公表)より

(ニッセイ基礎研究所 鈴木 智也)

筆者紹介

鈴木 智也(すずき ともや)

株式会社ニッセイ基礎研究所、総合政策研究部 研究員
研究・専門分野:日本経済・金融

▼ニッセイ基礎研究所ホームページ(鈴木研究員)

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