新社会人のための経済学コラム

第153回 「1年半で約3,000円の値上がり!?電気代はなぜ上がっている?」

2022年11月18日

電気代が上昇傾向。どれくらい値上がりしたのか?

 電気代が高騰しています。請求書を見て驚いた、頭を抱えた方も多いのではないでしょうか。実際、どのくらい値上がりしているのでしょうか。

 いくつかの電力会社は「平均モデル」(※1)という電力料金の目安を発表しています。最も上がり幅の大きい中部電力では6,056円(2021年1月時点)だった電力料金が、同じ電気契約・使用電力量で22年9月には9,189円と、3,000円以上も値上がりしました(図1)

(図1)電力各社・平均モデル料金の推移

(※1)本稿において平均モデルとは、各社の家庭向け電気料金プランを契約し、電気の使用量を月250kWhもしくは260kWh使用したケースについて、各社が試算した月々の電力料金のことを指す。なお、「平均モデル」という呼称は東京電力・中部電力で用いられているもので、関西電力では「平均的なモデル」、九州電力では「電気料金計算例」がそれぞれ同様の電力料金目安に該当する。

なぜ電気代は値上がりしたのか?

 主な原因は、電気を作るための燃料価格の高騰です。多くの家庭の電気代には、「燃料費調整額」という料金が含まれています。燃料費調整額は、原油・LNG(液化天然ガス)・石炭といった化石燃料の価格に応じて変動します。現在、化石燃料の価格は大きく上昇しており(図2)、燃料費調整額の上昇に連動し、電気代も高騰しているのです。

 こうした燃料価格の高騰は、エネルギー需要が供給力を上回っていることに一因があります。

(図2)原油と天然ガスの価格推移

 エネルギー需給に関する近年の動向を見てみましょう。コロナ禍で経済が停滞したことで、エネルギー需要は大きく落ち込みました。また、急速な脱炭素化の流れは環境負荷の大きい化石燃料からのダイベストメント(投資撤退)を促し、化石燃料の供給量減少や再生可能エネルギーへの転換という動きを加速させました。

 しかし、2021年から22年にかけ、状況は一変しました。コロナ禍からの経済の回復基調によりエネルギー需要が高まった一方で、世界中で干ばつや熱波などの気候変動が発生し、再生可能エネルギーの供給量が低下したのです(※2)。これを補うために化石燃料の需要が高まり、燃料価格が高騰しました。

 また、ロシアのウクライナ侵略は供給の縮小に拍車をかけました。欧米諸国を中心にロシアへ制裁を課したことで、ロシア産石油や天然ガスの供給が制限され、国際的なエネルギー争奪戦は更に激しくなっています。

 このような中、日本は火力発電の割合が高いうえに、エネルギー資源のほとんどを海外に頼っています。こうした燃料価格の高騰が家計を直撃しやすい構造も相まって、電気代の値上がりへと繋がっているのです。

(※2)気候変動には例えば熱波や干ばつ、寒波などが挙げられる。このうち、熱波や寒波は、気圧による風量や雨量の低下を招いた。こうした気候変動の結果、水力・風力や、高温に弱い太陽光の発電効率低下などが発生した。

参考 “(FT)ガス不足と熱波の欧州 冬のエネルギー逼迫が深刻に”.日本経済新聞.2022-07-21,日経電子版,
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB212OM0R20C22A7000000/新しいウィンドウ,(参照2022-10-27).

今後の取組みは、GXがカギ

 日本を燃料価格の高騰に強い国にするには、化石燃料に依存したエネルギー構造の見直しが必要です。再生可能エネルギーの活用や、準国産エネルギーとされる原子力について安全の確保を前提とした検討など、エネルギー自給率を高める取組みが求められます。

 この取組みは、世界的な潮流であるGX(グリーントランスフォーメーション)にも合致する試みです。GXとは、化石燃料中心の経済・社会・産業構造をクリーンエネルギー中心に移行させ、経済社会システム全体の変革を図ることを指します(※3)。再生可能エネルギーの発電量を増やし、自国で必要な電力を賄う体制を敷ければ、エネルギー価格高騰の影響を受けにくい仕組みを作ることができるでしょう。

 ただ、GX化には課題が山積しています。課題の一つに、再生可能エネルギーには、季節や天候による影響を受け、発電量が変動しやすいという弱点があります。この弱点を克服し、再生可能エネルギーを主力電源化するには、技術的なブレイクスルーが必要です。例えば、出力低下を補うための蓄電池は必要不可欠ですが、期待される機能やコスト水準にはまだ遠く、普及途上の段階です。他にも、太陽光以外の自然エネルギーも活用していくなどの必要がありますが、洋上風力などの取組みは始まったばかりです。

今後の注目点

 政府は、岸田総理大臣を議長とする「GX実行会議」を立ち上げ、脱炭素に官民合わせて150兆円規模の投資を計画しています(※4)。同会議で年内にも策定予定とされる今後10年間の工程表は、日本のエネルギー政策の行方を、方向付けるものとなるでしょう。どのような工程表になるのか注目です。

(※3)GX実行会議ホームページ,内閣府,2022,
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/index.html新しいウィンドウ(参照2022-09-29)

(※4)“脱炭素へ150兆円、年内に工程表 GX初会合”.日本経済新聞.2022-07-28,日経電子版, https://www.nikkei.com/article/DGKKZO62958740X20C22A7EP0000/新しいウィンドウ,(参照2022-10-3)

【参考文献】
“第3章 エネルギーを巡る不確実性への対応”.令和3年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2022).経済産業省資源エネルギー庁,2022,p42-70.
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2022/html/新しいウィンドウ,(参照2022-09-30)

(ニッセイ基礎研究所 河岸 秀叔)

筆者紹介

河岸 秀叔(かわぎし しゅうじ)

株式会社ニッセイ基礎研究所、総合政策研究部 研究員
研究・専門分野:日本経済

▼ニッセイ基礎研究所ホームページ(河岸研究員)

https://www.nli-research.co.jp/topics_detail2/id=70906?site=nli新しいウィンドウ

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