新社会人のための経済学コラム

第148回 国内機関投資家のサステナブル投資残高が500兆円を突破、運用資産額の6割超を占めるまでに拡大

2022年6月1日

サステナブル投資残高は増加傾向。どのような投資か?

 NPO法人日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)は、2021年3月末時点の国内機関投資家のサステナブル投資残高が514兆円だったとする調査レポートを発表しました。国内の運用会社、保険会社、公的年金など全52機関を対象とするアンケート調査による結果で、サステナブル投資残高の運用総額に占める割合は61.5%に達しています。

 サステナブル投資は文字通り持続可能性に着目した投資です。環境(E)や社会(S)の課題に対する企業の取り組みや企業の経営体制(G)などの評価を考慮して投資先を選定するESG投資とほぼ同義であり、“持続可能性”に積極的な企業への投資を通じて、世界が抱える様々な課題の解決を目指す投資です。

 当初は主に株式投資で持続可能性を考慮した投資が採用されていましたが、最近では、グリーンボンドやソーシャルボンドといった環境改善や社会課題の解決に資するプロジェクトに資金使途が限定された債券への投資が増えるなど、株式以外の資産にもサステナブル投資が広がっています。

なぜ投資残高が増加しているのか?

 国内機関投資家の間でサステナブル投資残高がここ数年で大きく増加した背景には、異常気象による被害の頻発や人権問題への関心の高まりなどを受け、世界的にサステナブル投資への関心が高まったことがあります。
国内ではSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の浸透によって世間の環境・社会課題に対する意識が高まったことや、日本の成長戦略の一環で、企業経営や機関投資家の投資行動に“持続可能性”の観点を組み込むことが強く要請されるようになったことも寄与しています。企業経営や投資を取り巻く状況が変化するなか、環境や社会の課題への対応が、事業リスクの軽減や収益機会の獲得、更には企業の持続的な成長において重要な要素となり得ることに、企業や機関投資家は気付きはじめています。

一過性のブームとしないためには?

 従来は業績や財務状況など財務情報に着目した投資が一般的でした。このため、環境や社会の課題への取り組みといった非財務情報を考慮した投資によって、運用収益が悪化することになれば、サステナブル投資は修正を迫られかねません。そうした事態を避けるためには、機関投資家の投資先企業による地球環境や社会の持続可能性に向けた取り組みが企業利益の拡大をもたらし、更には投資収益として還元されるような好循環の構築が欠かせません。そのためには、企業はESG課題に積極的に取り組み、機関投資家はそうした企業の取り組みを深く理解し、協働することが重要です。情報開示と対話の拡充を通じて好循環を創出し、地球環境や社会の健全性が保たれることが望まれます。

(ニッセイ基礎研究所 梅内 俊樹)

筆者紹介

梅内 俊樹(うめうち としき)

株式会社ニッセイ基礎研究所、金融研究部 企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
研究・専門分野:企業年金、年金運用、リスク管理

▼ニッセイ基礎研究所ホームページ(梅内研究員)

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