第11回 これからESGってどうなるの ~今後のESGについて考えてみた~

2024年4月4日

当コラムではこれまで、環境、社会、ガバナンスに関して様々な問題を紹介してきましたが、短期的な取り組みでは解決し得ないものばかりです。それ故に、ESG課題の先行きを予測することは容易ではありません。しかし、将来世代に問題を先送りしないためには、取り組みを進めなければならないことだけは確かです。「ゼロから分かる!ESG」最終回では、ESGが目指す世界を今一度確認するとともに、それに向けて私たち一人ひとりが意識すべきことについて考えます。

ESG課題に対して国際社会が協調して取り組みを推進しているのは、地球温暖化や自然破壊などの環境問題や、貧困や飢餓、差別といった社会問題が看過できないほどに深刻化し、何の対処もしないまま放置すれば、現行の社会経済システムが今後一段と悪化しかねないとの危機感を共有しているからです。こうした状況に歯止めをかけ、社会経済の持続可能性を高めることが、ESG対応の目標です。

環境面では、地球温暖化を防ぐ脱炭素社会への移行や、限りのある資源の使用が抑制・効率化され、製品等の廃棄が抑制・再利用される循環型社会への移行、こうした社会の実現を通じて自然環境の破壊や汚染を食い止め、自然再興への転換を図ることが目標です。社会面では、ESGと方向性を同じくするSDGsで掲げられる「誰一人取り残さない」という原則に沿って、世界中から貧困や飢餓をなくし、社会的弱者やマイノリティを含め、あらゆる人が人間らしく公平に過ごせる包摂的な社会の実現が究極的な目標です。そして、各国政府や企業は、持続可能な社会経済システムの構築に資する取り組みを通じて、経済社会の発展に貢献することが求められています。

直感的にも理解されるように、目標達成までの道のりは長く、様々な困難が立ちはだかることが予想されます。日本では企業と投資家等の資金提供者の間で、ESG課題に取り組むことの必要性が共有され、課題解決の環境が整いつつあるとは言え、途に就いたばかりです。目標達成に向けては、ESG課題への取り組みを粘り強く継続することが何よりも大切です。そのためには、社会を構成する一人ひとりが、モノやサービスの提供者としてだけでなく、消費者としてもESGを意識して行動し、ESGを単なるブームに終わらせることなく、当たり前のものとして経済社会に根付かせる必要があります。

その点では、各種調査で次代を担うZ世代は社会課題に関心を持ち、消費を通じて課題解決に貢献しようとする意識が高いとされていることはとても心強いことですし、学校教育などを通じて幼少期からSDGsを学んだり、生活の中でSDGsを実践したりする機会が増えつつあることは、先行きに大いに期待が持てる状況と言えます。

長い年月が経過する間には、環境や社会情勢の変化に応じて、ESG課題が少しずつ変化していく可能性も否定できません。しかし、ESGで目指す世界が持続可能な社会の実現であることが変わることはありません。日本は資源の多くを海外に依存していることもありますが、海外で生じる問題からも目を背けることなく、豊かな地球環境や平和で公平な社会を将来世代に引き継ぐために、まずは私たち一人ひとりが、自然や社会、人に配慮した行動を今まで以上に心掛けていきたいものです。

(ニッセイ基礎研究所 梅内 俊樹)

筆者紹介

梅内 俊樹(うめうち としき)

株式会社ニッセイ基礎研究所
金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・
ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任
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